人生最高の‘モテ期’
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記事:モハメド・アリ(ライティング・ゼミ平日コース)
19年前、その時は突然とやってきた。
メールの受信確認をすると35通。
何かの間違えか。
子供の頃からモテた訳ではなく、何なら全然モテなかった。
モテなったので、子供ながらどうしたらモテるか、というのをよく考えていた。
クラスに1人や2人いる‘モテ男’は、ほとんどがスポーツ万能でイケメンの人気者で、ちびまる子ちゃんでいう「大野君」だ。
そうだ、大野君を目指そう!
まずは運動から。
当時は阪神淡路大震災の後だったが復興のシンボルである神戸ルミナリエやがんばろう神戸が合い言葉のオリックスブルーウェーブの優勝で少しづつ街が明るくなっていた。
私は特にオリックスの中心選手であったイチローに憧れていた。
モテる為に野球をやろうとその頃から決めていた。
しかし、実際は親のエゴで習っていたのは、小学生ではあまりモテない習字だ。
嫌で嫌でしかたがなかった。字を書くのが嫌なのではなくその先に‘モテる’が見えていなかったからである。
半年ほどで習字は辞めて、1人で野球をした。1人で!? そう、キャッチボールの相手は常に壁だ。
真剣に壁あてを何年もしていので小さな街では少し有名になっていた。
それを聞きつけた、少年野球の監督が僕の壁あてを見にきてくれたのだ。
Jリーグが開幕した事もあって少年野球の人口が少なくなっていたのだ。
僕に話しかけてきた監督に、野球が出来ない理由を話すと、「一緒にお母さんに話しをしに行こう」と。
しかし壁当ては上手になっていたが、野球はやった事がない、しかもすでに6年生だったので半ば諦めていた。
家に行きお母さんに話すと、すんなりOKが出た。
理由はお茶当番がないからだ。
僕には時間が無いことはわかっていた。
ほとんどのメンバーが低学年から習っており6年生から始める者は皆無だった。
しかし、他のメンバーとは違い僕には高いモチベーションがあった。
モテたいのだ。
周りが見えないぐらいに練習をした。
中学生になった頃には練習のお陰で試合にも出してもらえるようになっていた。
しかし、ちょっと試合に出るぐらいではモテる訳がない。
両親に頼みこみ、毎日バッティングセンターにつれて行ってもらった。
そして転機が訪れたのは中学3年生になった頃、我がチームのエースピッチャーが高校から何校もスカウトが来るぐらいの選手でその日もそのエースピッチャー目当てでスカウトがきていた。
試合後、スカウトの人が僕に「我が校に来て一緒に甲子園を目指さないか?」と。
「??????」
僕「エースピッチャーのS君なら向こうですよ」と。
スカウト「いや、君の力が我が校には必要だ」と。
「えええええええ~!!!!!」
後々に聞くと一生懸命な姿に伸びしろを感じたとの事だった。
そらそうだ、僕は野球が上手くなりたいのではなく‘モテたい’のだから。
そこから僕の夢がふあああ~っと広がっていく。
その高校は甲子園常連校だったのだ。
僕のそこからの夢は一つ。甲子園に出る事だ。
しかし、現実は甘くない。
高校入学後、完全に場所を間違えたと思った。
全国から集められた猛者達がそこら中にいるのだ。
遙かに僕より上手いのだ。
入部初日はいつ辞めようかと考えていたが、辞めたいよりモテたいがすぐに勝るのだ。
モテたいパワーはすごいのだ。
何と、1年生ながらベンチ入りを果たす事が出来た。
しかも、後にプロ野球選手が2人出る程のスーパースター揃いだった。
あれよあれよと地方大会を勝ち進み、甲子園出場を決めたのだ。
自分の胸は高鳴った。
憧れの大舞台で、且つモテるのだ。
そして甲子園大会が始まり、我々の出場は大会5日目だった。
甲子園では黄色い声がたくさん聞かれ自分の期待がMAXへと駆け上がっていた。
そしてとうとう、大会5日目の初戦の戦いが始まった。
相手は東の横綱と呼ばれ、我々も西の横綱と呼ばれ、事実上の決勝戦とも言われていた。
球場を見渡すと大会屈指の好カードという事もあり超満員だ。
試合が始まり、屈指の好カードにふさわしく、1点を争う一進一退の好ゲームになった。
当たり前だが、その時ばかりは‘モテたい’より‘勝ちたい’だ。
試合はひと振りで決着した。
試合後、あの大甲子園で校歌を歌えた事は特別な事だった。
宿舎に到着して、寝る前には興奮も収まりつつあった。
何気に携帯を見ると、「メール受信35件」の表示。
さ、さ、さ、35件!?
人生で最高の‘モテ期’がきたのだ。
その後、スーパースター軍団のお陰で頂点まで駆け上った。
合計メール受信数100件以上。
その後、実際にモテてたのは‘自分’ではなく‘甲子園に出た自分’だった事に気付いた時には
もう遅かった。
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