メディアグランプリ

50代にして色気に目覚めた私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
私に色気などあるはずがない。ずっとずっとそう思ってきた。
 
何しろ若い頃はガリガリで、ボンキュッパではなかったし、「妖艶」、「いい女」等という言葉はおよそ自分には縁のない、真逆の世界のことだと思っていた。
 
それがだ。メイクの講座を受けた時に、衝撃の事実に出くわしてしまった。
 
顔のパーツや雰囲気等から4つのタイプに分け、自分がどのタイプの魅力を持っているのかを知り、その魅力を活かすメイクをしていくという講義を受けた時のことだ。
 
「へー、この4つか。私は、多分この辺だろうな」
 
4つのタイプを見ながら、多分私はナチュラルな感じに近い辺りのグループに入るんだろうと自分なりに分析をしていた。タイプ別に、代表的な芸能人、有名人の名前が記されており、私自身が「あんな感じがいいなぁ」と思う芸能人も、ナチュラルな感じに近い辺りに名前が載っていた。
 
しかし、どのタイプになるのかは自分では診断しない。タイプを診断する設問に、他の人が私の顔を見て回答していくのだ。その結果、なんと自分では一番「ない」と思っていたタイプに分類された。「華やかで色っぽい、最も女性らしい女性」というタイプだ。
 
「いやいやいや、そんなはずはない。だって、象徴的なキャラクターとして、峰不二子とか書いてありますけど、私のどこが峰不二子? 有り得ない有り得ない」
 
心の中で激しく抵抗していた。どう考えても受け入れがたい。すると講師の先生はニコニコしながら、「このタイプになった人は、大体皆そういうのよ。皆全力で否定するのよ」とおっしゃる。色々な理由で、自分の持つ「女性らしさ」を封印してしまうそうなのだ。
 
確かに言われてみれば、私は子供の頃は「可愛い子」になりたかった。痩せていて、あごがとんがっていて、あまり子供らしい顔立ちではなかったからだ。ベビーフェイスの友達が羨ましかった。もう記憶は曖昧だけれど、「この子は子供らしい可愛さがない」と周囲の大人に言われたことが、ひょっとするとあったのかもしれない。自分が本来持っていた「大人びた雰囲気」を心の奥底に封印したのだ。
 
社会人になると、「女性らしさ」とか「可愛らしさ」というものに対して、ほとんど無関心になった。男性と張り合おうとかそういうことではなく、ただ単純に仕事の場で「女性らしさ」をわざわざ出す必要もないと思っていたからだ。おまけに職場は男性ばかりだったから、正直「紅一点」とか言われてチヤホヤされるのはまんざらでもなかったけれど、女性として扱われるよりは、男女の区別なく、同じ仲間として扱ってもらえる方が嬉しかった。
 
仕事中、紺色のボアの襟の付いた防寒着を着て、ヘルメットをかぶったまま、女子トイレの蛍光灯の交換をしていたら、トイレに入ってきた女子社員達に「今おじさんが作業しているから、後にしよう」と言われたことすらある。でも、ショックを受けるより、おじさんに間違われたといういいネタができたぞ! と内心ニンマリするくらいだった。
 
「キレイでありたい」という願望はもちろんあったけれど、ことさら「女」を全面的に漂わせることには必要性を感じず、女性と一緒に居るより男性と一緒にいる方が気楽だったし、何をやるにも豪快さが売りだった。
 
それなのに、「最も女性らしいタイプ」とは!
 
確かに外見が全てではない。しかし、自分本来が持っている顔立ちや雰囲気に合わないメイクやファッションでは、客観的にみると違和感が満載になるというのは分かる。たとえて言うなら、店内はとてもシックで落ち着いた雰囲気の商品を並べているのに、表に掲げている看板がえらくポップでミスマッチこの上ないという感じのお店といったところだろうか。
 
「とにかくね、自分はそうなんだと一旦受け止めてみて」
そう講師に言われて、中身はともかく「見た目は女性らしい自分」をそのまま受け入れてみることにした。誰に聞いても「最初からそのタイプだと思ってた」と言われるし、無理に否定することもないかと思い始めた。
 
そもそも、私は「色気」という言葉の定義も色眼鏡で見ていたところがある。私の頭の中にあった「色気=外見的なセクシーさ」という思い込みを外してみよう。やさしさであったり、包容力であったり、そういう内面からにじみ出る、人を惹きつけるものが「色気」であると考えればいいではないか。せっかく女として生まれてきて、女らしさを発揮していくほどに魅力がアップすると言われたのなら、これは楽しんでみてもいいのではないか。
 
そう思い始めてみると、体の中に封印していたものが、急に扉があいて中から強烈な光を放ち始めたような感覚が湧き上がってきた。体の中から「やっちゃいなよ」と囁かれているような感じだ。
 
それまではほとんどしなかったアイシャドウをのせ、口紅の色も変えてみた。大ぶりのアクセサリーが似合うと聞き、早速つけてみる。
 
鏡の中の自分は、今まであまり見たことのない自分だけれど、何かを隠そうとしていたこれまでと比べると、何だか自ら発光しているかのような感じにさえ見える。自分らしい魅力を放つというのは、こういうことなのかもしれない。
 
自分のことは自分が一番知らない。だから、自分で「自分はこうだ」と決めつけてしまわずに、人から言われたことを素直に受け入れてみるのもいいものだ。
 
うきうきしながら、襟元が少し凝った女性らしいデザインのシャツを着ようとしたら、動きがガサツすぎて、ビリっと音がした。どうやら縫い目の糸が切れたらしい。
「女性らしさを生かす服なのだ。動作もたおやかに、丁寧にしなさいよ」
そんなメッセージをもらった気がした。外見だけでなく、その外見に似合う動作を繰り返していく内に、いつかきっと自他ともに認める色気のある女性になれるんじゃないかと、秘かに期待をしている。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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