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屏風をめぐる冒険


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記事:ebikawa(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
博物館で屏風を見るのが好きだ。
あの、襖がつなぎ合わさっているような形で、金ぴかだったり、一面に花が描いてあったり、デカい獅子が描いてあったりする屏風である。
 
私がよく訪れる、上野の東京国立博物館は、2階の端っこに屏風の展示室がある。季節に合わせて定期的に展示が変わるので、その部屋に向かうときは「今回の展示は何かな~!?」とテンションが上がり、自然と早足になる。以前友達と訪れた時に「そんなに屏風好きなの!?」と驚かれたので、なぜそんなにワクワクしてしまうのかを書こうと思う。
 
私は学術的な見地で屏風に詳しいわけではない。狩野派、琳派、近現代、いろいろあるようだが、どれが好きだとか特にこだわりはない。狩野永徳も酒井抱一も横山大観も最高。強いて言えば、大きい方が楽しい、というくらいか。
 
今はインターネットで画像検索すればいくらでも世界中の絵が見られてしまうわけだが、屏風に関しては特に、生で見ることに意味があると思う。
 
まず、屏風は大きい。展示室でガラスのすぐ前に立つと、全体を視界に入れられないサイズだ。有名な絵でも実際見ると、その大きさと存在感に驚かされることがある。博物館の広い展示室でも大きく感じるので、天井の低い日本家屋に飾ってあったらさぞかし主張が激しいだろう。
また、数枚がつなぎ合わされ、折れ曲がって立っている構造も大きな特徴だ。インターネットで見る画像とは違って、全面を平坦な状態で見ることができないのである。この点も、生で見ると大きく印象が変わる。
 
この「サイズが大きい」と「折れ曲がっている」という、生で見た時の2つの特徴から、私がおすすめしたい屏風の楽しみ方はこうだ。
 
まず、屏風には真横から展示ガラスに沿って近づいていき、端のパネルから、ゆっくり細部を見ていく。
そうすると、折れ曲がった先の絵がまだ見えない状態で進んでいくことになる。この先どんな美しい景色が広がっているか、何が潜んでいるのか。先が見えない、紙の上の「冒険」の始まりだ。私はこの、パネルを端から順に追っていく過程にワクワクさせられるのだ。
 
そのまま横に歩みを進めていくと、これまで見えていなかった角度のところに「鶴がもう一羽隠れてた!」「人がいた!」など、新たな要素が現れる。もちろん、ただ平和な景色が続いていたり、金色がべったり塗られた部分が広がっているだけだったりする場合もあるが。
 
そこからまたゆっくり前進し、最後まですこしずつ探索を進めていき、最後には展示のガラスから離れて、初めて全体像を眺める。そこでまた新たな発見があることもある。
こうした「冒険」は、生で見てこそ可能になるのだ。
 
ここで例としてひとつの屏風を挙げたい。江戸時代の「武蔵野図屏風」という屏風がある。これは人気の主題だったらしく、何枚か同様のものが存在するが、そのデザインがとても面白い。
 
まず近づいて端から見ていくと、金色のススキ野原が一面に広がっている。遠くには富士山も見える。薄のなかには、桔梗や萩などの、小さな秋の花も咲いている。
「うーん、すっかり秋だなあ」などと思いながら順に見ていくと、突然足元に銀色のボールが転がってくるのだ。そのあまりの異質さにはぎょっとさせられる。私の場合、なんだこれは、子供が空き地に置き忘れたサッカーボールか、江戸時代にもこんなものがあるか、としばらく考えあぐねた結果、やっとそれが地平に沈む銀色の満月であることに気づいた。
 
この月は、どう見ても「地平に沈む」というより、野原の真ん中に落ちているようにしか見えない。それに遠くに山もあるわけだから、月が沈むなら山の稜線のはずだ。「そうはならんやろ」とツッコみたくなる構図だが、面白くはあるし、オシャレでもある。人気があって多く作られたというのも納得だ。なんなら私も、もしめちゃくちゃ広い部屋に住んでいたら家に一隻ほしいくらいだ(なお、残念なことに現実は6畳ワンルームの部屋である)。
 
この面白い主題も、画像で見ると、月が地面に落ちているのがどうしても最初から見えてしまうのが惜しい。現物を見ると、向きによっては月が見えなかったり、急に視界に現れたりすることが、まるで絵画を超えた情景のようで、趣があるのだ。
 
私は「冒険」を終えて最後に屏風の全体像を見るときは、たいてい、会場に置いてあるベンチに座ってぼんやりと眺める。そうすると、過去の人が残した、無限の世界がそこに広がっているのを感じる。描かれている主題は様々だ。花、架空の生き物、人々の暮らし。それらが、立体となり、工夫と驚き、迫力をもって空間に働きかけてくる。その広がりを感じることができる屏風は、とても面白い芸術だ。
 
もし博物館に行って屏風を見かけたら、まず全体像を見るのではなく、ぜひ紙の上を少しずつ冒険してみてほしい。画面越しには伝わりにくい、広がりのある魅力が、きっと見つかると思う。
 
 
 
 
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2021-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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