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お灸は小さなサウナ


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記事:おだぎりちほこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
最近、お灸をはじめた。
 
コロナや仕事、人間関係などのストレスがたまっているのか、うまく眠れないことがあり、相談した友達の鍼灸師ににすすめられたのだ。
やってみると意外と簡単だったし、お灸をしたあとは眠気がきたり、肩こりがゆるんだり、ふわっとなにかが変わる感覚がある。
 
お灸は四千年前以上からある、温熱治療の一種だ。なんとお灸の化石も残っているらしい。
古臭いものと思いこんでいたが、最近本屋で「お灸のすすめ」みたいなかわいい本を何冊もみかけて気になってはいた。あたためることも冷え性の自覚のある私には良い気がしていた。
 
お灸をする「ツボ」はものすごくたくさんある。
そのなかで今の私におすすめなのは「労宮」というツボなんだそう。ネットで調べたら、高ぶった神経を抑えて自律神経を整えて緊張を緩める働きがある、と書いてあった。
「たくさんお灸しようと思うとそれがストレスになるから、一箇所で、むりなく続けるといいよ」とのことで、とりあえずいう通りにしている。
寝る前や早く目が覚めすぎたとき、そっとお灸に火をつける、そんな習慣ができてきた。
 
用意するのはもぐさ、ライター、灰皿。
火傷しにくいという紙の土台で直接もぐさが肌にふれない、100円均一ショップやドラッグストアにもあるお灸でもやってみたけど、私はもぐさをそのまま使う方が好きだった。火傷もまだしたことはない。
もぐさはアマゾンでも売っている。よもぎでできているらしい。カーキに近いベージュ、ダンボールみたいな色をしている。綿みたいなふわふわの触り心地だ。よもぎ餅のような甘い匂いがする。
 
まず、もぐさをまるめて小さな円錐形にする。
いい香りのやわらかいもぐさを手のひらでころころする、この作業だけでもなんだか楽しい。
 
円錐の尖った方を上にツボにのせて、ライターで火をつける。
私のツボ「労宮」は両方の手のひらの真ん中のくぼみ、手をグーにした時に中指と薬指の間になるところだ。
ツボの位置がよくわからなくて不安だ、と彼女に聞いたら「多少ずれていても大丈夫、熱は伝わるから」「押してみて気持ちいいところを探してみて」「自分のからだは自分が一番よくわかるはず」と言われてまぁこんなものかな?とやってみている。
「ツボがわからないからってお灸しなくなるのはほんとにもったいないからね」だそう。
 
燃えるのをみながら、お灸の乗っているところがじんわり暖かくなるのを待つ。
細い白い煙が、ゆらぎながら立ち登るのをみる。お灸の燃える、どこかなつかしい香りを感じる。
 
自然がつくる煙のかたちをみながら、その鍼灸師の友達に誘われて行った、長野の山奥で入った、小さな煙突のついたテントサウナのことを思い出した。
 
「とにかく気持ちいいから、『ととのう』から、一緒に行こう」
とサウナに夢中な彼女に強引に誘われて、よくわからないまま長野の山奥で行われたテントサウナのイベントへ行った。
 
サウナはもともと苦手だった。スーパー銭湯についているサウナはやたら熱くて長時間入っていられないし、水風呂は足をつけるのもしんどい。サウナ好きのよく言う「サウナに入るとトリップ感や浮遊感が出て、感覚が研ぎ澄まされる=『ととのう』」からはほど遠いと思っていた。
 
長いドライブのあと緑の深い現地についたら、川べりに小さなテントが童話の中のようにかわいらしくならんでいて、これもサウナかと驚いた。
水着に着替え、フェルトでできた北欧のこびとの衣装のようなサウナハットをかぶる。サウナハットはサウナの本場フィンランドのもので、頭に熱を受けすぎないためにかぶるのだそうだ。
サウナテントの中に入るとふわっと熱気を感じる。熱すぎない。やわらかい暖かさだ。
小さな木の椅子がおいてあり、そこに座る。
テントの真ん中でちろちろと燃えている薪ストーブ。その上で温めている黒い石に(サウナストーンというのだそうだ)ハーブの入ったお湯をかける。
ジュワッという音と一緒にたちのぼる匂いのいい湯気が暖かい霧のようにテントの中に満ちる。
すっきりした香りとやさしい蒸気でじんわりあたたまる。からだから余分な力が抜ける。
何度かそれをくりかえし、限界に近いほど汗をかいたあとに「天然の水風呂だよ」と言われた透き通った川に体をひたしてさます。川はやさしい冷たさで、ゆっくり入っていられる。
 
そのあとタオルにくるまって木陰に寝転がった。サウナはサウナと水風呂に入ったあとの休憩、外気浴までがセットなのだそうだ。
サウナの暖かい余韻が残る体の感覚を味わいながら、テントについた小さな煙突たちから0白い煙がよく晴れた空に流れていくのを、新緑が風に吹かれて葉の裏が光るのを、ぼんやりみていた。透明な川の音を聴きながら。
 
あの時の、からだの内側から落ち着くような「ととのった」感覚。
いま、手のひらに置いたお灸から、小さいけれど、じんわりと感じることができる。
 
お灸がじわじわと燃える範囲を増やしている。ちりっと熱くなってきたので、灰皿の上にてのひらを返してお灸を落とす。指でお灸を持って灰皿に入れようとすると火傷につながるので、触らずに手を傾けて落とした方がいいようだ。
お灸を置いたところを指で触れる。その部分だけがしっとり、軽く汗をかいている。
これがお灸によって心と体がととのったしるしだそう。
 
あの時サウナで全身にかいていた汗と「ととのった」感覚、今はお灸で汗をかいた手のひらの中に同じ小さな「ととのった」がある。
あの深緑のなかのテントサウナを、自分の手におさめている感覚を味わいながら、深呼吸をひとつした。
 
 
 
 
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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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