週末弾丸島旅行のすすめ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:こまる(ライティング・ゼミ平日コース)
「あ、もうだめだ」
仕事がうまくいかず、上司に怒鳴られたとき。
1週間前に別れた彼氏が親友と付き合っているのを知ったとき。
特に理由はないけど、眠れないとき。
深い海にどこまでも沈んでいく、落ちていくときが人間だれしもあるだろう。
いつも元気に職場に通っている私も、ある金曜日の朝、まぶたを上げたら「おはよう」の前に「もうだめだ」と思ったことがあった。
あのまま一人で沈んでいたら、沈没船のごとく海底に沈み、会社に行くことはもちろん誰かと会うことすらできなくなっていただろう。そんな時、私を海面に引き上げてくれたのは島だった。
起き上がれない。会社に行けない。もう無理。
上司に休むことを伝え、もう一度まばたきをする。次にまぶたを上げたときにはもう世界は眠っていた。なんとなく、このままじゃ会社に行けなくなるような気がした。
Twitterでつらつらと日々の不満をぶちまけていたら、学生時代の友人からメッセージが来た。
「明日空いてる?」
すぐさま愛媛行きの航空券を取った。
リュックには着替えとありったけの現金。それから週末に飲もうと思っていたワイン1本と缶ビール、読みかけの本、残り数枚の写ルンです。
その辺にあった好きなものを詰め込んで、そのまま早朝の飛行機に乗り込んだ。
友人とは、島行きの船の中で落ち合った。
「おはよう」
友人は、朝八時半の船の中でビールとさきいかを決め込んでいた。
船の上で私はまた眠った。ここまで来てしまったことを少し後悔するくらいにはまだ疲れていた。瀬戸内の海はゆっくり波打ち、大きなゆりかごに揺られている気持ちになる。はっと目を覚ましたら、友人が外に出て風にあたっていた。離島に向かうときの揺れや景色、風、海のにおいは格別だ。私もリュックから缶ビールを取り出して外に出た。
船を降りたら、ガイドブックに書いていた通りミカンの匂いがした。少しずつ離島感が出てきて、離島好きの血が騒いだ。
そう、まずは無理やりにでも好きなものに触れることが大事なのだ。どれだけ疲れていても、その離島のにおいは私を非日常へ連れて行ってくれる。好きなものだけを背負って、好きな人と、好きなところに行く。これがまず一番、大事なこと。
私は離島に来ると必ずやることがある。自転車をレンタルすることだ。
離島といっても色々楽しみ方がある。ダイビングとか、めちゃくちゃきれいな海を見るとか、その島ならではの名産品を食べるとか。でも疲れた私にとって、観光地のがちゃがちゃしたお土産や写真を撮りまくっている観光客は、さらに疲れを増す要因だった。疲れた時は、ご飯を食べるところすら島に1、2軒しかないような静かな島に行くに限る。自転車に乗れば余裕で一周できるようなサイズの島で、思うままに風を切るのだ。
小さな食堂を見つけ、タイの煮つけ定食を食べる。瀬戸内のタイは絶品。あれもこれも食べたくなってしまった私と友人は、いつの間にかジャンキーなものも頼んでいたが、全てが特別な味に思えた。
明らかに頼みすぎた分をパックに詰めてもらって再スタートだ。おまけにタイの刺身をおすそ分けしてもらった。だんだんと元気が出てくる。その時にはもう仕事のことなんか忘れて、タイのお刺身と白ワインのマッチングのことしか考えていなかった。
身体を動かしてお腹を空かせ、心から美味しいと思えるものを食べること。
これも身体とこころを回復させる魔法のひとつ。自分の良いと思える空間で自分を満たしていく時間は、私にとっても、きっとみなさんにとっても大事なものだろう。
しばらく自転車を走らせ、こぢんまりとした海岸を見つけたら、自転車を止めて靴を脱いだ。そこは私たちだけのプライベートビーチだ。リュックからワインを取り出し、海水で冷やす。私も冷静になりたくて、少し冷たい海に足をつけた。足元から体の中の悪いものが海に出て、希釈されていくような気がした。砂浜に腰掛け、海の水に冷やされたワインをあけた。ワインとタイの刺身はやっぱり最高のマッチングだった。
いつのまにか毒素がどんどん抜けていった。その日は、たらふくお酒を飲んで、民泊の畳の部屋で目をつむった。お酒を飲んだにもかかわらず次の日の目覚めは最高だった。
早起きをしてコーヒーを飲みながら、まだ爆睡している友人を横にして夏目漱石の『行人』を読んだ。友人が起きたらいそいそと支度をして午前中の便で島を後にした。
たったこれだけの旅だった。けれど、この旅があったから私は今も元気に過ごせているのだ。
何かに行き詰ってしまった。そんなあなたには、今すぐ週末島旅行の計画を立てるのをお勧めする。いや、計画なんて必要ない。往復の切符と、好きなものだけを持って思うままに進めば良い。好きだけを見の周りに詰め込んで、自由に、自分の機嫌を取る。一人でも、二人でも、何人でも良い。もちろん元気な時に行ってもいい。
自分の一番心地よい空間を、少しがんばって作ってみてはどうだろうか。
***
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