継続は花なり
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ひより(ライティング・ゼミ日曜コース)
何かを継続することは、花を育てることに似ている。
新しい事を始めた時、私の中にひとつ、種が撒かれる。
それをこつこつ育てていくのは、他の誰でもなく自分自身なのだ。
「いつまで続けるの? 仕事になるわけでもないでしょ?」
これは就職活動の時、面接官から言われた辛辣な一言である。
面接では定番の「学生時代に頑張った事は?」という質問に対して、
幼稚園の頃から十数年続けている和太鼓について話した際、返ってきた言葉だ。
確かに同年代のほとんどは、高校や大学に上がるタイミングで教室を辞めていった。
その頃の私は、仲間と小さな公演を企画し、幾らか収入を得る事はあるものの、
それ一本で食べていくことなど到底できないのが現実だった。
「そんなことを続けて意味があるのか」と言った人達からすれば、
続ける以上はプロとして有名になって、安定した収入を得る事こそが
成功であり、「花」なのだろう。確かにそれも事実だ。
しかし、アマチュアの私にも一つ、まさに努力が花開いたと実感するような
大切な思い出がある。あの瞬間、全てが報われるのを確かに感じたのだ。
当時の私は、大スランプ真っ只中にいた。
きっかけは、本番の舞台で凍りつくようなミスをしてしまった事。
それからというもの、太鼓を前にすると頭が真っ白になってしまい、
子供でも打てるような簡単なリズムさえ、間違えるようになっていた。
長年の努力が認められて、憧れの師匠やプロの方々と
同じ舞台に立たせてもらえるようになった矢先のことである。
ついには「次の演奏は来なくていい。」とまで言われる始末。
才能の無さを嫌というほど実感し、辞める事も頭をよぎり始めていた。
そんなボロボロの私を見かねてか、ある日の稽古終わりに師匠が声を掛けてくださった。
そして、この時の師匠の言葉が、私を大きく変えた。
「明日死のうと思ってた人が、私たちの演奏を観てね、
もう一度観たい。もう少し生きてみようかなと思ってくれたら嬉しいじゃない。
簡単じゃないけど、私たちが目指してるのはそういうことなんだよ」
衝撃だった。
どうしたら失敗しないか。
どうしたら怒られないか。
そんな風に、自分の事で頭がいっぱいだった私に、その言葉は痛いほど響いた。
演奏者として一番大切な事を、私は分かっていなかったのだ。
それからというもの、逃げ腰から一転、がむしゃらに稽古に打ち込む日々が始まる。
毎日欠かさず筋トレを行い、馴染みの整体師さんから驚かれるほど体格が変わっていった。
稽古に真剣になればなるほど、自分の至らなさが身に沁みたが、
そんなことはもうどうでも良かった。とにかく、実力を上げたかった。
挫折で苦しむ経験をしたからこそ、同じように悩んでいる人や頑張っている人を
少しでも励ましたい。そんな演奏がしたい。
その一心だった。
そして遂に、花開く日がやってくる。
ある日の演奏後のことである。
一人のおじいさんが楽屋までやって来て、私の手を握り、こう声を掛けてくださった。
「元気が出た。ありがとう!」
あの時の手の温かさは、きっと一生忘れられない。
お礼を言うのは私の方だ。
努力が花開く喜びを、確かに感じた瞬間だった。
その後も変わらず演奏活動に打ち込み、
結局19年間、和太鼓を継続することができた。
再び思い悩む時期もあったが、それ以上に、続けてきて良かった! と思わせてくれる
嬉しい出来事が、数えきれないほどあったのも確かだ。
それはまるで色とりどりの花々の様に、思い出す度に心の中を彩ってくれる。
今となっては、スランプにもがき苦しんだ日々も、
花を咲かせるための大切な肥料になった気がする。
あの経験が無ければきっと、ここまで頑張ることは出来なかっただろう。
その後、私は和太鼓の道には進まず、現在全く違う職業に就いている。
それでも、あの19年を無駄だと思った事は一度もない。
花が終わった後も、経験したことは確かに実を結び、太鼓以外の様々な場面で
私を助けてくれている。
例えば、師匠から叩き込まれた礼儀作法や敬語は、
就職活動でも、仕事をする上でも、とても役に立っている。
マナーを学ぶ為に太鼓を始めた訳では無いが、
こんな予想外の「花」が咲いたりするのも継続の面白いところだ。
ある日突然、何もない所に花が咲くことは無い。
どんな事でも、種を蒔く勇気に始まり、肥料を撒き、雑草を抜き、水を与える。
そんな地道な努力が必要不可欠なのだ。むしろ、そんな期間が大半だと感じる。
不器用なくせに、好奇心旺盛な私の事だ。
これから先も、色んなことに挑戦していくと思う。
目に見える成長がなく、心が折れそうになる日もあるだろう。
どうして自分の花だけ咲かないのかと、不安になる日もあるだろう。
それでも、休み休み、気の済むまでとことん続けていく所存だ。
蒔いた種が、どこでどんな花を咲かせるのか。
はっきり分からないところも、継続の醍醐味なのだ。
その日を楽しみに、水やりを続けていこう。
***
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