メディアグランプリ

新しい感触を知れる贅沢


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記事:やま(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
一般論として、歳を重ねるにつれて、自然界において肌に触れたものに対して新しさを感じることは少なくなってくる。子どもの頃は、原っぱのチクチクした感覚や肌にまとわりつく冷たい雨、ふわふわの雪など、初めて触れた時に知るその感覚に全身がブワッとそれに包まれるような気がした。大人になって、一通りのものは見て触れてきて、これ以上は新しい感覚に触れることはないだろうと思っていた。
 
25歳のGW、私はモロッコにいた。旅の中でも1位・2位を争うくらい楽しみだったサハラ砂漠ツアーが予定にはあった。人生で初の砂漠だ。
砂漠に対するイメージは、暑い・ラクダ・砂以外何もない、以上。あとは事前に調べて、砂漠の砂は細かすぎるので精密機械は持ち込まない方がいいことを学んだ。スニーカーで行くと、ありとあらゆる繊維の隙間に砂が入ってだめになるらしいので、ビーサンで行くことにした。
どちらかといえば、砂漠で見られる星空を楽しみにしていたので、砂漠そのものへの期待値はすごく高いわけではなかった。
 
マラケシュから約14時間の長すぎるバス旅を経て、サハラ砂漠への玄関口であるメルズーガに到着。着いた時には夜なので、その日はご飯を食べてすぐに眠った。翌日、ホテルで砂漠ツアーについて確認したところ、砂漠はとっても暑いので、夕方からのスタートだという。それまで街を散策して、ハエが飛び回る小さなハンバーガー屋でオレンジジュースとご飯を流しこんでから砂漠に向かった。
 
夕方の砂漠は、暑くなく、風もなく、シン……という効果音が浮かぶ。夕日でオレンジに照らされた世界はまるで違う星に来てしまったようで、これが本当に私が今まで過ごしてきたのと同じ地球なのだろうかと、不思議な気持ちになった。
初めて乗るラクダは想像以上に背が高く、それも相まって目の前に広がる視界はいつもと全く異なっている。あんまり揺れず、砂漠の丘を少しずるっと落ちながらそれでもゆっくり一生懸命進む様子はとても愛おしく感じられた。
 
周りに何もなく誰もおらず、私たちの一行だけがどこに向かっているかもわからないまま進む。多分そんなに長い時間ではなかったと思うが、永遠のような気もする。どれくらい進んだか、どこにいるのか、全くわからなくなった頃一行は歩みを止めた。
フラフラしながらラクダを降りた瞬間、ヒヤッとしたものが私の足を包んだ。砂漠の砂だ。サラサラでふわふわで、冷たいそれは私が知っている砂とはおよそ別のものだった。ビーチの砂浜みたいなもんだと思っていたが、全く違う。ずっとそこに立っていると、ゆっくりゆっくりと沈んでしまいそうな、感じたことのない心地よさがあった。
一言で言って、私はこの砂漠の感触にひどく感動した。何かに触れて、感動したのは久しぶりだったと思う。というかここ10年くらい、こんな感覚は味わっていない。
最初はビーサンで歩いていたが、途中からもっと足全体でこれを感じたいと思い、裸足になった。サソリとかいないのだろうか、と冷静になった今は思うけど。裸足で砂を駆け回り、一歩踏み出すたびに足に絡みつく砂を足裏いっぱいに触れる。すぐに深く沈むので、5歩進むと結構疲れてしまうのだ。足がもつれてこけても、柔らかな砂が膝を包んでくれるので、全く痛くない。
 
一通り砂と戯れ、そのままその辺に腰掛けた。しばらく座って何もないはるか先を静かに眺めている。すると突然、強く風が吹き始めてきた。
 
風は、止まることを知らず、ただただ強さを増す。風自体はどうってことない。何が大変かというと、風によって細かい砂たちが舞い、銃弾のように体を攻撃してくるのだ。砂ってこんなに痛いの!? と驚いてしまった。スカートを穿いて、裸足でいた私の脚は無防備だ。これでもかとばかりに、砂は私を攻撃してくる。
目も開けられず、穴という穴には砂が入り込み、脚は痛いので一歩も進むことができなくなり……。さっきまでの優しく気持ちの良い砂はもうそこには存在していなかった。一瞬で違うものになってしまったそれを見て、自然の恐ろしさをこんな形で感じるとは思っていなかった。
 
なんとかキャンプ地についた頃には、すっかり疲れ果て、ボディーシートでひたすら砂を落とそうと試みて仕切りに全身を拭いた。砂漠ツアーの余韻もなくぐっすり眠りにつき、翌朝は再びラクダにまたがって帰路についたのだった。
 
なんで旅が好きなのかと問われると、とにかく毎日新しい景色がみられるからだと答えていた。それは確かに旅が大好きな理由だ。
しかし砂漠で初めての感触を味わえたこと。これは数々旅してきた中でも、特別大きな経験だった。大人になって、まだ知れることがあるのかと、非常に感動したのである。
旅に出ることで、私はまだまだ新しい感覚に出会うことができるのだ。それはなんて贅沢で、ありがたい経験だろうか。
世界には、知らないことがもっと隠れているのかもしれない。早くまた新しいものを見て、触れて、感じたいとひたすらに願っている。
 
 
 
 
***

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2021-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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