メディアグランプリ

開けたドアは開けっ放しにしておこう


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記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
ドアって不思議だ。開け閉めするたびに何かしらの感情の変化を伴っている。期待、安心、不安、怒り、寂しさ。いつもそんな感情が伴っている。
 
中でも、私はドアを開ける時には、ワクワクすることが多い。ドアで隔てられた向こうには何があるのか? どんな世界が広がっているのだろう? そんな期待感を持たせてくれる。だから、ドアが有るとやたらと開けたくなるのだろう。
 
数あるドアの中でも、最も期待感のボルテージが上がるのは、宿泊先の部屋のドアを開ける時だ。
 
「一体どんな部屋なのだろう?」
ワクワクしながらキーを差し込む。
 
ドアを開けた瞬間、「わぁ、広い!」、「すごい! 海が見える!」等と目の前の部屋の様子や、窓から見える景色に心が躍ることもあるし、「思っていたほどでもなかったな」とがっかりすることもあるけれど、宿泊先のドアを開ける時のあのワクワク感は、旅の楽しみのひとつでもある。
 
もう一つ、ドアを開ける時ドキドキするのは、夜のネオン街のバーのドアだ。
 
中の様子が伺いしれない、何やら秘密めいた、ミステリアスな感じが漂っている。恐る恐るドアを開ける時、ドキドキする。こんな時、中から歌声や笑い声が聞こえてくると、ドキドキ感が薄れてしまう。だから、バーのドアはできるだけ重厚なのが良い。
 
こんな風に、ドアは開ける時にワクワク、ドキドキする。でも、開くはずのドアが開かないと、一挙に不安や寂しさが募るものだ。
 
子供の頃、帰宅して玄関の鍵が閉まっていると、「あ、まだ誰も帰っていないんだ」とちょっと寂しい気持ちになったりした。
 
一旦家に入ってしまえば、「宿題やりなさい!」等と口うるさく言われることもなく、のびのびとテレビを見て、全く寂しくはないのに、ドアに鍵がかかっていると寂しかったのは、なぜなのだろう。
 
逆に、冬の日の夕方、帰宅してドアを開けると、ストーブの上でシチューがことことと煮えている香りがした時は、なぜだか嬉しかった。今日は家族全員が揃っているということが分かるからだ。
 
そして、私にとってドアはまた、自分を守る砦でもあった。
 
反抗期の時は、よくドアに自分の感情をぶつけた。親と言い争った後、自分の部屋のドアをバン! っと勢いよく閉めて、閉じこもる。そんな時、ドアは拒絶の意思表示になる。私だけの世界を作ってくれた。
 
そう、ドアは中に居る人の意思表示を表すものでもある。
 
私が中国で勤めていた会社では、役職の高い幹部の部屋のドアは、在室しているかどうかの目印になっていた。ドアが開いていれば在室、閉まっていれば不在か打合せ中という意味だ。
 
幹部の部屋のドアが開いていると、余計な緊張をしなくてすむ。中の様子が分かるからだ。ドアをノックして返事を待つ瞬間ほど緊張するものはない。だから、人が入ってきてもよい状態の時には、開けっ放しにしてあるのだ。それは、「受け入れますよ」というメッセージになっているのだ。
 
そんな風に、ドアは不思議な力を持っている。
 
けれども、時には開けることをためらってしまうドアもある。「人生のドア」だ。それは「今を変えたい」と思って、探して探して、やっと見つけたドアではなく、たいていは、ある日突然現れる。そして「開けるの? 開けないの? どっち?」と選択を迫ったあげく、開けないまま時が経つと消えてしまったりするのだ。
 
そのドアを開けたその先には、何が待ち受けているのだろう? 開けてみたくもあり、そのまま立ち止まっていたい気持ちもある。ドアは新しい世界への入口でもあると同時に、自分を守る砦でもある。開けなければ今のまま変わらずにいられるし、安心だ。
 
それでも私は、もし目の前にドアが現れたら開けてみようと思うし、実際に開けてきた。それは旅立ちの日に、家から外へ出る時の気持ちに似ているかもしれない。新しい世界への期待と不安がないまぜになった気持ちだ。開ける時は勇気がいる。けれども、ドキドキしてドアを開けた時のことを思い出してみると、勇気を出してドアを開けたその後は、すぐに自分にとっての「日常」に変わっていった。不安な気持ちがするのは、開けるまでのほんの一瞬のことだ。
 
そうは言っても、怖くてドアを開けられないという人もいるだろう。だから私は、自分が開けたドアは、開けっ放しにしていこうと思う。怖いのは、ドキドキするのは、ドアの向こうが見えないからだ。それなら先にドアを開けた者は、後に続く人のためにドアを開けたままにして、ほんの少しだけ先に踏み出した道を、見える形にしておこうではないか。
 
そして、「思っているほど怖くなさそうだ」と思ってもらえたらいいと思っている。扉の前で「行っておいで」と背中を押す存在になるのもいいけれど、私の背中を見て「私にもできそうだ」と思ってもらえる、そんな存在になれたらいいなと思う。
 
 
 
 
***

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2021-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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