メディアグランプリ

用法用量を守ってお使いください


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「そのままで良いと思っているの?」
 
3年前の冬のことだった。
彼女が私に詰め寄ってきた。
訳が分からなかった。
 
彼女の気に触るような事した覚えがない。
デートも欠かさなかったし、かといって束縛もしていない。
自分で言うのもなんだが、彼氏として人並みには振る舞ってきたつもりだった。
 
なのに、彼女はすごい剣幕で怒っている。
思わず、怯んでしまうくらいだった。
私が、一体、何をしたというのか。
恐る恐る彼女に怒っている訳を聞いてみた。
なんでも、「あるもの」との使い方のことだと言う。
あまりに意外すぎて、頭が追いつかない。
気づいたら、「あるもの」と出会った頃のことを思い出していた。
 
東北地方の田舎から、大学進学を機に上京した私。
受験勉強の日々からの解放感と、人生初めての一人暮らしで、期待と好奇心に溢れていた。
「どんなサークルに入ろうかな」
「どんな人と会えるのかな」
そんな気持ちを抱いていたことを今でも覚えている。
 
その後、イベント系のサークルにした。
先輩も同期も楽しい人たちばかりで、すぐに打ち解けることができた。
 
一見、順風満帆に始まった大学生活。
しかし、一つだけ問題があった。
 
お金がなかったのだ。
3歳下の妹の高校進学と、私の大学進学が重なったのだ。
元々、裕福な家庭ではなかったこともあり、仕送りはほとんどない状況だった。
もちろん、手をこまねいたわけではない。
 
事前に奨学金の申請もしていたし、サークルの先輩の紹介でアルバイトも始めた。
しかし、奨学金が入るのも、アルバイトの給与が入るのも、5月から。
だから、最初の一ヶ月は本当にお金がなかった。
 
そんな時に出会ったのだ。
クレジットカードに。
 
きっかけは、大学生協主催の新入生説明会。そこで、クレジットカードのことを聞いたのだ。
なんでも、手元にお金がなくても、買い物ができるという。
 
金欠で困っていた私には持って来いだと思った。
さっそく説明会の後、クレジットカードの作成の申請をすることに。
 
しばらくすると、待ちに待ったクレジットカードが届いた。
 
手元にお金がなくても、買い物ができる。
分割払いすれば、値段が高いものでも買える。
高校時代まで、現金しか使っていなかった私にとって、クレジットカードはまさに革命的だった。
 
クレジットカードのお世話になる生活が始まった。
 
携帯料金や光熱費はもちろんのこと、マンガ購入代や飲み会費用と言った娯楽費、さらにはサークル合宿にかかる宿泊代、交通費。
使える費用には、片っ端から使った。
 
大学に入学して半年も立たないうちから、クレジットカードが生活の頼みの綱になってい
った。
 
その後、大学を卒業して社会人になったが、クレジットカード頼みの状況は変わらなかった。
むしろ、大学時代よりも依存度が増していった。
利用額も使用頻度が増えたのだ。
マンガ購入代や飲み会代に使用したのは相変わらずだったが、スーツやカバンなど、仕事に関する出費が新たに発生するようになったのだ。
 
結果、手持ちの現金よりも多くの商品を買う→その分のお金が引き落とされる→手持ちの現金がなくなる→クレジットカードをまた使う・・・・・・。
こうして、クレジットカードの沼から抜けられなくなっていた。
しかし、特に不安はなかった。
きちんと毎月返済できていたからだ。
「クレジットカードを使いこなしている」
「このままやっていけば大丈夫」
そう思っていた。
だから、あんなことを言われるなんて思いもしなかったのだ。
 
社会人になって、6年経った頃のこと。
しばらくぶりに、彼女ができた。
とても優しげで、話していて居心地の良い人だった。
 
その彼女の家に初めて行った時のことだった。
互いのことについて、いろいろな話をした。仕事の話、趣味の話。
とても穏やかな時間だったが、急に異変が起こった。
彼女の表情がみるみる変わっていったのだ。
そして、彼女が口を開いた。
 
「そのままで良いと思っているの?」
彼女に詰められたのだ。
顔を見ると、目を三角にしている。
 
訳が分からなかった。
デートも欠かさなかったし、記念日を忘れたこともない。
自分で言うのもなんだが、彼女事はとても大切にしていた。
 
「どういうこと?」
彼女に聞くと意外な答えが帰ってきた。
「何にも考えないでクレジットカードを使っているみたいだけど、それで良いと思っているのか、ということだよ」
「冠婚葬祭とか、病気になったりとか、急にお金が必要になった時のことは考えているの?」
 
内心ムッとした。
なんでそんなこと言われないといけないんだ。
別に生活が苦しい訳じゃないのに。
 
しかし、彼女に反論することもできなかった。
急にお金が必要になることなんて、微塵も考えていなかったからだ。
 
家に帰っても、彼女の言葉がずっと心に刺さっていた。
このままでいいのか?
言われっぱなしでいいのか?
怒りと悔しさが混ざったような気持ちが私を動かした。
 
過去一年分の給料、クレジットカードの利用額、税金や家賃、食費などのその他支出を全部洗い出してみたのだ。
 
数字を見て唖然とした。
クレジットカードの利用額が月収の半分を上回る月が多かったのだ。
その結果、月々の収支の赤字は慢性化。
半年ごとに支給されるボーナスで、赤字を補填している状態になっていたのだ。
 
クレジットカードはお金がない時にお金を使える便利な道具。
だから、これまでずっと活用してきた。
しかし、私は肝心なことを見落としていたのだ。
 
使っているお金は、未来からお金を先取りしているということを。
決して、お金が増えている訳ではないということを。
 
それからというもの、私は行動を変えた。
過去一年の実績から今後の月収額を推測するようになった。
さらにクレジットカード利用額をパソコンに日々記録。
そこから、赤字にならないように、毎月のクレジットカード利用上限額を設定したのだ。
 
するとどうだろう。
徐々にではあるが、クレジットカードの月々の利用額が減っていった。
合わせて、返済額も減り、黒字の月も増えていった。
彼女の怒った顔を見ることも少なくなった。
 
あれから、3年が経つ。
電子マネー、QRコード決済、仮想通貨。
昔と違って、世の中はキャッシュレス決済に溢れている。
確かに、現金を使わないで買い物ができるのは、とても魅力的だ。
かくいう私も、相変わらずクレジットカードを活用している。
しかし、使う上で肝に銘じていることがある。
 
それは限度を決めて使うということだ。
キャッシュレス決済は、サプリメントのようなもの。
あくまでも自己の収入があることをあってこそのものだ。
収入を越えて使いすぎると、家計はおろか、人間関係をも崩してしまう。
だから、用法用量を守って使うことが大事。
 
そう思えてならないのだ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事