サンディエゴのホストマザーにもう一度会いたいと思うわけ
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記事:白い紙(ライティング・ゼミ集中コース)
あなたにはもう一度会いたいと思う人はいるだろうか。
私が会いたいと思うのは、語学研修先で出会った私のホストマザーである。
2020年の3月、私は短期の語学研修としてアメリカのサンディエゴへ向かった。ホストファミリーの家で一ヶ月間過ごし、その期間は現地の大学へ通って英語を学ぶというプログラムだった。私のホストファミリーは、50代の夫婦二人のお家であり、主に私の相手をしてくれたのはホストマザーであった。
渡航した私をまず空港まで迎えに来てくれたのは、ホストマザーであった。彼女は前に私に会ったことがあるかのように私と接してくれた。その日は、サンディエゴのダウンタウンへ案内してくれ、サンディエゴのことについて教えてくれたり、一緒にハンバーガーを食べたりした。私は全く英語が得意ではなかったのだが、私の拙い英語にもきちんと耳を傾けてくれ、質問にも簡単な単語を選びながら答えてくれた。
このときは順調そうに見えた私の語学研修であったが、少しずつ不安が生じてくる。
現地の大学で、同じ日本人の語学研修のメンバーと話すと、みんなホストファミリーとの交流を楽しんでいるようだった。しかし、私のホストファミリーは家では話しかけても必要最低限のことしか話したがらなかったし、あまり夫婦の時間を私に干渉されたくないようであった。同じ家にいるのに、「明日は何をするのか」などの連絡をチャットで送ってくるし、買い物に連れて行ってくれたときもショッピングモールに着いたとたん別行動で、ホストマザーが友達と買い物を楽しむなか、私は一人でショッピングをすることになった。夕食も一緒に食べたのは2回だけ。家ではほとんど一人で過ごした。ホストファミリーが2日くらい家に帰ってこないこともあった。
「何か私がいけないことをしたのか」「何が悪かったのか」と最初の頃は色々考えたのだが、ネットで検索をすると、どうやらビジネスとしての目的だけでホストファミリーをやっている家もあるという。そういうタイプもあるのかと理解し、生活に困ることはないのだからと、とりあえず研修期間を楽しむことにした。
幸い現地の大学に行けば、一緒に日本から渡航してきた友人に会えたため、友人らと観光地をめぐったり、買い物を楽しんだりと楽しく過ごしていた。毎日の電車で一緒になる現地の学生と会話をしたり、毎朝駅で「コンニチハ!」と挨拶してくれるおじさんと仲良くなったりとそれなりに充実した日々を送っていた。
しかし、渡航して2週間が経とうとしていた頃、急遽日本に帰国することが決まった。あの新型コロナウイルスの影響である。当時、アメリカでも緊急事態宣言が発令されたことで、私達も帰国せざるを得なくなったのだ。
そのことをホストマザーに伝えると、彼女は残念そうにしてくれた。そして、私が帰国する日は仕事があるため、私を空港まで送ることはできないということを伝えられた。空港まで車を使わなくてはならないため、誰かに頼めそうかと聞かれたが、特に頼めそうな人は思いつかなかったため、タクシーで一人で空港に向かうから大丈夫だと伝えた。
しかし、彼女は自分の友達に私を空港へ車で送ってくれるように頼んでくれた。そして、帰国する日の早朝、私をその空港に送り届けてくれる友達の家まで送ってくれたのだ。最後、彼女と抱き合ってから別れた。何か気の利いたことを言いたかったが、上手く英語が出てこなかったため、「Thank you, thank you.」と繰り返し言うしかなかった。こうして帰国し、私の2週間ちょっとの短い語学研修は終わりを迎えたのである。
ちょっと、ドライなホストファミリーだった。でも、帰国して気がついたことがある。
彼女は、私と一緒にいる間コロナのことを一回も口にしなかった。もう感染爆発が始まっている中、アジア人である私を受け入れることに少しも不安がなかったわけではないだろう。私の友人の家では、度々コロナの話題が出ていたそうだ。感染を持ち込んで欲しくないから、外出もできるだけ控えてくれと言われていた家もあったくらいである。しかし、私のホストマザーは私をとめることもなく、自由にさせてくれていた。私の英語が拙すぎて何度困惑させたか分からないが、それでもいやな顔を見せずに話してくれた。最後の空港に行くときも、私のことを思って代わりの人を手配してくれていた。
すごく沢山のことをしてくれていたのに、私は彼女にきちんと感謝を伝えきれていなかった。ちょっとドライなスタンスだったからといって、日々のちょっとした行動に感謝を示せていなかった。自分本位だったのだと思う。
次にもし、あのホストファミリーに、特にホストマザーに出会う機会があれば、きちんと感謝を伝えたいと思う。私を迎え入れてくれてありがとうと。あなたのおかげで、大切な思い出が沢山できたと。伝えられる感謝は日々その場でちゃんと伝えようと、そう思わせてくれた経験であった。
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