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読んでもらえる文章は結婚記念日に贈る花束のよう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:アキ・ミヤジ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「読んでもらえる文章」に必要なものってなんだろう?
  
天狼院書店がYouTubeで公開している「読者メリットSP」をみながら考えていました。
すると、17年前、イギリスのとある女性に叱られたことを思い出しました。
 
 
当時、私は社会人1年目。
初めての職場がイギリスでした。
  
イギリスと聞くと、やはりロンドンを思い浮かべませんか?
でも私が働いていたのは、ロンドンから北西に140kmほど離れたコベントリーというこぢんまりとした街。
その街の郊外に職場はありました。
  
学生時代に結婚した妻と二人でイギリスに渡った私は、職場近くのアパートを借りました。
アパートの窓から見える景色は、大きな池と、芝生に覆われた丘陵と、鬱蒼とした雑木林。
朝、窓の外をみると、鴨や雁がにぎやかにたむろしていたりします。
のどかなイギリス田園風景に囲まれたアパートでした。
  
不便なのは、スーパーや商店が近くになかったこと。
車を買う金銭的余裕はなく、買い物をするにはバスで中心街まで出かけなければなりませんでした。
大都市東京でしか生活したことのなかった私にとって、田舎暮らしの不便さにはなかなか慣れませんでした。
  
大変に感じたのは生活の便だけではありません。
言葉の壁もまた苦痛でした。
寝ているときにうなされて、英語で寝言を言うほど、悩まされていました。
 
さらに、日本とは違うイギリスの文化や風習にも戸惑うことばかり。
仕事でも覚えなくてはならないことはたくさんあり、もう何もかもが初めて尽くし。仕事を始めてしばらくは、なかばパニック状態でした。
  
そんな私を助けてくれたのは、職場の同僚、ウクライナ出身の年配女性でした。
  
彼女はいつも笑顔で、けれども凛とした姿で仕事をしていました。
若い頃は、旧ソビエト連邦の軍事研究に携わっていた生物学者だったそうです。
 
一度、どんな研究内容だったのかをたずねたら
「それはいえないわ」
と真顔で答えがかえってきました。
その時の彼女の表情には、平和な時代の日本に育った私には理解しきれない冷戦時代の厳しさが感じられました。
  
彼女は、毎日のように私と、アパートでひとり留守番している妻の生活を気にかけてくれました。
休日になると、アパートまで車で来て、私たちをスーパーや市場まで連れていってくれたりもしました。
  
彼女の親身なサポートのおかげでイギリスでの生活にも慣れ、私はようやく落ち着いて仕事ができるようになりました。
 
 
そんなある日のこと。
  
いつもより早く帰ろうとした私は、
「今日は何かあるの?」
と彼女に呼び止められました。
  
「今日は、結婚記念日なんだ」
と私は答えました。
  
それはおめでとう! 満面の笑みでお祝いの言葉をくれました。
ですがそのあと、彼女は怪訝そうな顔色を浮かべて言いました。
  
「あなたは、そのまままっすぐ家に帰るの?」
  
質問の意図がよくわからないまま、私は首を縦にふりました。
  
「それは駄目よ!」
  
言うがはやいか、首根っこをつかまんばかりの勢いで、私は彼女の車に載せられました。
  
街の繁華街にむけて車を走らせながら、彼女は言いました。
  
「結婚記念日に手ぶらなんてぜったい駄目! 花束を買わないと」
  
そう言って、花屋の近くに車を停めました。
私は車を降り、店で一番目立って綺麗だった花束を買いました。
白いカサブランカの花束でした。
  
「いい選択ね」
彼女はようやく笑顔をみせてくれました。
  
花束を贈るというのは、ちょっとキザっぽく、照れくさいと感じる方は少なくないのではないでしょうか?
私もその一人です。
  
花束をもらっても置く場所に困ったり、枯れないようにケアするのに手間がかかったり。それに、枯れてしまうとちょっと悲しくなったりもします。
気持ちを伝える贈り物として必ずしも適切ではないように思えるのです。
  
でも確かに、花束を贈られたときに笑顔を浮かべない人は、誰ひとりとしていません。
さらに、花束を受け取った人の笑顔をみて、贈った人までも笑顔になってしまいます。
  
植物は自ら動くことができないので、まわりの環境をたくみに利用するように進化し、繁栄してきました。
人間がおもわず笑顔になり、大切に育ててくれるよう、植物は花の姿を進化させてきたのかもしれません。
  
生物学者だった彼女は植物進化の理屈を当然のように理解していたと思います。
けれどもそのような理屈ではなく、彼女の人生を通して熟知していたのだと思います。
いかなる苦しい状況でも、誰しもが笑顔になる花束の威力を。
  
彼女のアドバイスのおかげで、家に帰って花束を受け取った妻は、「どうしたの?!」と驚き、そして笑顔で喜んでくれました。
 
 
結婚記念日に贈った花束は、今でも顔がほころぶ、楽しい記憶として思い出すことができます。
  
ただ、なぜ、この若き日の懐かしい出来事が、「読んでもらえる文章」を考えているときに思い浮かんだのでしょう?
  
しばらく不思議に思ったのですが、ふと気がつきました。
 
気持ちが同じだ。
 
文章を書きたいと思うとき、結婚記念日に花束を贈ったときの気持ちと同じで、読んだ人が面白いと思ったり、なるほどと感心したり、驚いたりすることで、笑顔になってほしいのです。
だから、「読んでもらえる文章」が書きたい。
 
あれこれ考え、工夫して、面白かったエピソードや多くの人に知ってもらいたい情報などを文章にします。
でも、その文章に「花束」のような言葉が添えられていなければきっと、
 「それは駄目よ!」
 と、また彼女に叱られてしまうでしょう。
  
言葉は、自分の気持ち、考え、意思などを表現するための道具としてだけでなく、相手が受け取ることで共感したり共有したりする道具としても使われ、生き物のように進化してきたものです。
  
ですから、私たちが日ごろ使っている言葉のなかには必ず、花束のように誰しもが心を動かされ、笑顔になる言葉があるのではないでしょうか。
 
私たちは日常の生活で、言葉をあたりまえに使って、聞いて、目にしています。
次から次へと流れるように言葉が過ぎ去っていくなかで、花束のような力を持つ言葉を見過ごしているに違いありません。
 
だったら見つけよう!
花束のような言葉を探し出してみよう!
 
街の花屋をめぐるように、本から言葉を探し出すのもいいでしょう。
大自然を冒険するように、さまざまなメディアや日常の会話から魅力的な美しい言葉を見つけ出すのも楽しそうです。
今までと違う言葉の世界が目の前に広がったようで、なんだかとてもワクワクしてきました。
  
「読んでもらえる文章」を書けるようになりたい。
そう思いながらもこれまでずっと「うまく伝わらないなぁ」と悩んでばかりでした。
  
でももう、悩むのはやめにします。
読んでもらいたい文章には、結婚記念日に贈った「花束」のような言葉が必要。
その「花束」になる言葉を探し出す旅を始めよう!
天狼院書店でのライティング・ゼミは、私の新しい冒険になりそうです。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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