出産はトライアスロン
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記事:きしかなこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
トライアスロンは、水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を、1人のアスリートが連続して行う耐久競技である。
トライアスロンの経験はないが、現在妊娠8ヶ月の私は、出産もこのスポーツに似ていると最近感じている。というのも、ゴールを出産と捉えるならば、そこに至るまでに3つの耐久レースを乗り越えなければいけないと気づいたからだ。
1つ目に妊娠、2つ目に発育、3つ目に出産。
結婚したら子どもはいつか授かるだろうという考えは何を根拠にずっと思っていたのだろう。
それぞれのフェーズで障害があり、耐え忍び、ゴールに向かって前に進んでいくのだということを知った。
不妊症に関しては、メディアで取り上げられる機会も増えて、友人との会話の中でも、不妊治療しているんだー、とかプライベートな話だが、以前よりもオープンになってきている感じがある。
ただ、制度や世の中の理解も進んできているとはいえ、時間やお金もかかり、精神的にもしんどいレースだと思う。
2つ目の発育のところで、実はあまり知られていないが、赤ちゃんが育たない病気というものがある。まさに今私自身が経験していることだ。
今回私は初めての出産に臨む。けれど、これまでに妊娠した回数は3回だ。
つまり、3回とも流産という形で出産にまで至らなかった経験をもつ。妊娠がわかってから全て12週以内の初期流産だった。
毎回子宮の様子をエコーで見るたびに、先生から
「小さいですね。もしかすると来週あたり出血して、流れてしまう可能性があります。」
と言われていた。
心音を確認することもできず、本来であれば”胎嚢(たいのう)”と呼ばれる、赤ちゃんを包み込む部屋も大きくなっていくはずだが、それも成長しなかった。
先生の言う通り、翌週には出血し、流産となった。
2回目も同じく育たず、この時だけ手術という形で取り出すことになった。
手術後、先生から、もしかしたら不育症の可能性があるから、一度調べてもらったらどうかと提案された。
ふいくしょう?
漢字が思い浮かばず、一瞬意味を理解できなかったが、「不育症」という文字通り、赤ちゃんが育たない症状のことをいうそうだ。
不妊症とはまた異なる「不育症」という初めて聞く言葉に一瞬怯んだが、まずは調べてみようということで、別のクリニックで検査をした。
結果、私は一種の免疫疾患で、症状として妊婦の初期流産が見られるということだった。幸い、日常生活に全く問題はない。加えて、不育症の中でも治療方法があるということで、その点安心した。
SNSでの友人の出産報告も、親づてに聞く親戚の出産報告も、たいてい無事に産まれたという結果報告しかない。誰もがそのできごとを喜び、祝福ムードになるが、その過程でどんなことがあったのかまでは、なかなか想像しないのではないだろうか。私自身もそうだった。
不妊についての情報が広まる中で、妊娠って誰でもできるとはさすがに考えていなかったが、妊娠したらほぼ出産できると思っていた20代の自分は驚くしかなかった。
「まさか私が」という思いを、もしかすると多くの女性が経験しているのかもしれない。
出産はトライアスロンに似ていると言ったが、第一レースの妊娠に至るまでに、「まさか私が」と思わされている人はたくさんいるだろう。
そして私と同じように、第二レースの発育というところで、苦労している女性もいるのだということを、今回初めて知った。
出産に向けての第三レースは、まさにこれからだが、腰は痛いし、いろんな内臓が圧迫されて、睡眠不足になるし、安定期と言っても、心も身体も正直安定はしていない。
この最終レースでも、もしかしたら「まさか私が」ということが起こりうるかもしれない。
よく利用する子育てアプリのトークルームで、妊婦さんたちの投稿をみると、切迫早産で入院している人や、緊急で帝王切開になった人など、いろいろな出産の形があることをここでも初めて知るのだ。
妊娠・出産とやっている事はみんな同じでも、一人一人が違う障害物に今まさにぶち当たっている。
妊娠も奇跡、育つことも奇跡、出産も奇跡、子どもを産むって全てが奇跡の連続だと、身をもって感じている今日頃ごろである。
実は、そう気づいたことで日々私の見ている世界が少し変化した。
病院で出会う妊婦さん、まちで見かける妊婦さん、穏やかな表情で幸せそうな雰囲気をまとってるように見える妊婦さんも、心の中では、
「うおおおおお、めっちゃお腹動いて苦しいい、いてててててえぇ」
とか実は思っている。ああ、この人も耐久レースを駆け抜けている同志だわ。共に頑張ろうと、私は心の中でエールを送る。
そして、まちで普通に見かけていた子どもや学生たち、この子たちがここにいること自体が奇跡の連続の結果かと思うと、少しうるさくて、騒がしいくらい気にならなくなる。
「無事生まれてきてよかったね、人生楽しめよ」
と、こっちにも私は心の中でエールを送るのだ。
「まさか私が」という障害物にぶち当たることで、少し世界に優しくなれたが気がする。
完走した時にはまた違う世界が見えるかもしれない、そう考えると今日もわくわくしながら走ることができるのだ。
***
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