メディアグランプリ

質より量、の考えは心配性の自分に合っているかもしれないと気づいたPM6:00


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:関根夏歩(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
大学生だった頃、尊敬する社会人の知り合いに相談をしたことがある。
今となっては自分が何を話したのかは覚えていないが、その時にいただいた言葉だけは心にずっと残っていた。
 
彼は相談している私に対して、最小限の相槌を打ちながら口を挟むことなく最後まで聞いてくれた。
話が終わると彼は、
 
「まだあなたは落ち込んでいる暇なんてないよ、質より量。もっと失敗しな」
 
とだけ私に伝えた。
具体的な解決策をくれるわけではなくそれしか言ってくれないのか、と聞いた瞬間はモヤモヤした気持ちだった。
しかし魚の骨が喉に引っかかった時のように、何をしていてもしばらくその言葉が心に残っていた。
数日その不快感は続き、最終的に確かに多くの経験を重ねないとデータが集まらないから判断するのが早かったのか。
と自己完結をしてモヤモヤ感を少し無理やり取り除いて、時間の経過とともにその言葉はどんどん頭の片隅に消えていった。
 
特に思い出すことなく月日が過ぎていたのにある時、不意にその言葉が頭の片隅から私の意識の中に現れた。
 
10月某日。時刻はPM6:00
仕事を終え、電車に乗って帰る時だった。
乗り込んだ駅は始発駅から近いためか席がたくさん空いていて退勤ラッシュの時間にもかかわらず私は座ることができた。
 
 
一駅追加するごとに増える乗客。埋まる席。だんだん立っている人が増えてきた。
一方私はすでに座れているからいい気分でリュックの上で本を広げ、その世界に浸っていた。
数分ごとに電車はとまり、降りる人の波が押し返しては、また新しい人の波が寄せ返す。そんな景色が繰り返されていた。
いつものことだと周囲に注意を向けることなくページをめくっていたのにある時、ぶどうのお菓子の香りがマスク越しに香り食いしん坊の私は思わず顔を上げた。
この時間帯に乗る人の多くは学生やサラリーマンだ。しかし、私の前に立っていたのは妊婦の方だった。
こんな時間に妊婦さんなんて珍しいこともあるもんだな、と呑気に思って本の世界に戻ろうとして、
 
「違う違う、席を譲らねば……!」
 
そう思った瞬間に、小さな声で声をかけてみた。すると彼女は笑顔で
「ありがとうございます」
と返してくれて、
自分にできることをしただけなのに丁寧にお礼を言われて私の心は舞い上がってしまった。
席を譲ったり、エレベーターで人が降りるためにボタンを押していたとしてもお礼を言われることはあまりない。
別にお礼を言ってもらうためにその行為をしているわけではないので気にしていなかったのだが、こうやって言ってもらえるとかなり嬉しい。
 
その嬉しさを彼女に返したくて、
自分が降りる時か彼女が降りる時、どちらかの瞬間でもらったら嬉しい気のきいた一言を言いたいな、いや言おうと考えていた。
 
先ほどから変わることない同じページの一行を眺めながら頭を働かせていたら、2駅後に彼女は立ち上がった。
 
 
そしてアタックチャンスとも言えるのか、再度彼女は私に声をかけてくれるという絶好のシチュエーションを用意してくれた。
自分の描いたシナリオ通りにことが進んだのに。
それにもかかわらず、
私は不意に気の利いたことを言おうと意気込んでいる自分が恥ずかしくなってしまい会釈をするだけで精一杯だった。
 
空いた席に再び座り、
 
すぐに今しがたの反省会を脳内で開催していた。
と言っても出る結論は同じで
“なんで自分は恥ずかしさを優先してひとこと声をかけられなかったのか”
という後悔をして自己嫌悪に陥っていた。
 
3周くらい同じところをグルグルと考えていたら、再びチャンスが訪れた。
 
少し前に乗り込んできた向かいの席に立っているおじいさんが電車がとまると辺りを見渡していたのだ。
席を探しているかもかもしれないと思った。というよりもさっきのことがあったので私の脳内にはその答えしかなかった。
後悔が頭の中で暴走をしていたので、
やらないよりもやって後悔しようとすぐに声をかけた。
 
すると、おじいさんと一緒だったおばあさんが足が良くなかったみたいで役に立てた。
 
再びアタックチャーンス。
 
“よしよし、同じ展開が来た。あとは去り際のセリフだけ”
 
ドキドキしながらまた何を言おうか考えていた。
そしてついに時が来た。
 
2人が降りる瞬間、挨拶をしてくれたのだ。ここまで同じシチュエーション。そして私は一言、
 
「お役に立てて私も嬉しいです」
 
と早口で噛みながら伝えた。
 
恥ずかしさと、もっと違うセリフがあったかも……という新たな後悔と、それ以上に言えた喜びで胸がいっぱいだった。
 
そして冒頭の昔にもらった言葉を思い出したのだ。
 
「まだあなたは落ち込んでいる暇なんてないよ、質より量。もっと失敗しな」
 
当時は、もっと量をこなしてから始めて失敗とか上手くいかないと判断する。大して行動してないのに落ち込むなんて何様だよ。という解釈をしていた。
しかし今回の出来事で質より量を大事にするとその他にも、
 
多くの経験をすることで1つ1つのダメージが少ないことにも気づいた。
 
もし1回失敗をして行動を止めると、データの更新がないからそのことしか考えられずマイナスな思考しかできない。
しかし多くの経験をすることで1個のことだけ考えている暇が無いし、データが集まるから分析ができる。
さらに、次の行動が早ければ早いほど反省が頭に残っているから意欲もあるし行動に移しやすい。
 
 
あの時の彼は、適当な返したわけでもなく、私のメンタルが弱く心配性な性格な私にぴったりな言葉をくれたことに気づいた。
この出来事のおかげでもらった言葉は頭の片隅に消えることなく、中心であぐらをかき始めた。
 
 
メンタルが弱く、心配症の性格の人は、もしかしたら考えるよりも先に、行動してみたらいいことがあるかもしれません。
 
 
 
 
***
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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