会社から逃れられないことは、本当に悪なのか?
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記事:近藤南(ライティング・ゼミ集中コース)
「日本人にとって、会社は最大の○○である」
あなたにとって、この○○に入る言葉は何だろう?
最大の敵? 最大の収入源? 人によって答えは様々だと思う。
私が「なるほど!」と思ったのは、「日本人にとって、会社は最大の宗教である」というものである。
つまり、精神的な拠り所になっているということだ。
毎日行くべきところ・やるべき事があって、安定したお給料が保証されているというのは、「生きる意味」みたいなものを否が応でも考えさせられる今の社会において、ものすごい安心材料である。
一方、最近では「会社員という身分に安寧しているのは良くない」みたいな主張もよく耳にする。これもまた、今の時代において正しい主張だ。
お前はどっちの立場なんだというツッコミをいただきそうなので、ここで事実を一つ。
2018年に倒産・廃業した会社の平均寿命は、何と25歳弱である。
一方我々はと言うと。新卒で入社してから定年まで、大体40年くらいは働かないといけない。
つまり、いつかは倒産・廃業する会社に入社したら、定年までその会社で勤めあげることは難しいのだ。
私は、ここ数年で上記をはじめ色んな論調に踊らされて、人生100年時代どう生きたらいいのかと、今更ながら悩んでいる。
もう十分働いた気がするけど、まだ定年まで30年以上ある。今の仕事は好きだけど、このまま会社員を続けて管理職になることには一ミリも魅力を感じられない。でも働かないと食べていけないし……という具合である。
今話題のFIREについて調べたこともある。管理職になってしまう前に、早期退職してしまおうという魂胆だ。(管理職になれるかどうかは、いったん脇に置いておく)
ぐるぐると悩んだ末の、現時点での結論は、やっぱり組織に所属する事には意味がある、というものだった。
情けない・薄っぺらい結論かもしれないが、今の私の本音である。
今回は、多分中だるみするだろう未来の自分への戒めとして、この結論に至った経緯を公開しようと思う。
先ほども申し上げたが、私には管理職やマネジメントなるものへの憧れが1ミリもない。部署内にも同じ考えの人が多いように感じる。
ただ、組織というのは新陳代謝が必要なものであり、当然異動も生じる。一回り年上の先輩に役職がつき、残業代も出ないというのに手のかかる部下(つまり、私だ)のマネジメントに翻弄させられる姿を見るたびに「これが10年後の私か……」と、もやりとした想いが沸き上がる。
FIREという言葉に出会ったのは、そんなもやもやとした想いを持ちながら、当時勤めていた会社の売却が決まったころだった。
FIREとはFinancial Independence, Retire Earlyの頭文字をとったもので、経済的に自立し、早期リタイアを目指すライフスタイルを指すらしい。早期リタイアの文字だけに飛びついた私は、早速Google先生に教えを乞うた。
まず、最終形態ともいうべきライフスタイルから調べた。
節約に励み貯蓄する。その貯蓄で投資を行い、運用益だけで生活するというのだ。なんと羨ましい。
ちなみに必要な資金は、一般的に年間支出の25年分だという。えーっと、年間300万円でやりくりするとして……7,500千万円! 無理だ。
最終形態は、早々に諦めた。
もうちょっと現実的なのはないのか。
見ると、ある程度の資金を貯めたうえで、頻度を減らして働くライフスタイルもあるようだ。なんか手が届きそう。先達たちは、この方法でFIREした後に趣味を仕事にした方もいるらしい。
かねてよりハンドメイド品の販売に興味があった私は、モノは試しと、某大手販売サイトに作家登録してみた。趣味で作っていたポーチやらアクセサリーやらを撮影して登録する。写真なんて、今のご時世、無料のアプリでいくらでも盛れる。
意気揚々と登録したが全く売れる気配は訪れなかった。
ここまでやって敗退も悔しいので、せめて1個は売ってやろうと改善を試みる。
自分が良いと思える素材を選びなおして、その素材の紹介ページも作った。
推したい商品も絞り込んで、型紙もイチから自分で作った。
可愛い後輩にお願いして、手タレになってもらい、写真も撮り直した。
試行錯誤を繰り返して何回か出品ページをアップし直したところで、ようやく初めてのお客さまが現れた!
だが喜んだのも束の間。
早速商品の作成に取りかかったら、今度はすごいプレッシャーに苛まれた。
何せ、自分が作ったものをひと様に初めて販売するのだ。満足してもらえなかったらどうしよう、後で壊れたりしてクレームになったら……。不安を抱えながら、めちゃくちゃ丁寧に作った。
無事発送を終えたところで、ふと気づいた。
これって、今の仕事とやってる事は一緒じゃないか? と。
他社との差別化を図り、顧客のニーズを調べ、適切な価格をリサーチする……。
本業と違うのは、めちゃくちゃコスパが悪い事と、駆け出しなので販路も無いしファンもいないことだ。
今回の販売価格から、材料費を引いて作成時間で割ってみた。
私の時給は、480円だった。
改めて、今の仕事のありがたさを思い知る。
更に、会社の商品は営業部の方々が一生懸命売ってくれる。個人では1個売るのにこんなに苦労するのに、全国の売り場に働きかけてくれるのだ。こんなありがたい事ってない。誰かの元に届かないと、その商品を作った意味も無くなってしまうからだ。
紆余曲折を経て、結局、会社に所属しているからこそ出来る事のありがたさに気づいてしまった。
ただ、色々ともがいてみて、自立することの大切さにも気づいた。
私は、FIREなる生き方をまだ諦めていない。早期リタイアの甘い響きに踊らされたが、この言葉の本質は、「会社におんぶにだっこでは無く個人で稼ぐ力を身につけること」なのだと思う。
タイトルの疑問に私なりの答えを返すとするならば、会社に所属することが悪なのではない。自覚無しに、会社に依存してしまうことが悪なのだ。
まだまだ、今の仕事でできる事・やりたい事はたくさんある。
いつか会社に三下り半を突き付けられても焦らないように、今、私ができる事を愚直に突き詰めていきたい。
差し詰め、「私にとって、会社は最大の修業の場である」というところか。
***
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