これは昭和の都市伝説なのかも
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記事:山田THX将治(天狼院・書塾)
昔から、巷(ちまた)に流布されている噂がある。多くの噂は、エビデンスが伴わないで一人歩きしたものだ。
現代ではそれを“都市伝説”と称するらしい。
そんな都市伝説とも思えるような、都市伝説としか思えないような通達が出されている。
それは、レジ袋に続いて、スーパーやコンビニのレジで無料にて配られている使い捨て食器が、有料化されるというものだ。プラスチック製のスプーンやフォークが、有料化されるのは頷(うなづ)ける。レジ袋と同じく、廃棄すれば環境を汚染する石油化学製品だからだ。
しかし、通達を読み進めてみると、日本伝統の使い捨て食器“割り箸”のことに触れていないのだ。有料化せよとも、無料のままで良いとも明記されていはいない。店側の独自判断ということなのだろうか。そうなると、小売店個々の判断が統一されず、そこらかしこでトラブルと為りそうで何だか怖い。
その前に、大概、配られている割り箸が包装されているのは、プラスチック製品の袋なのだが。
そもそも、現代程大量消費される前は、割り箸は環境破壊とは真反対の環境を保護する存在だった。それは、日本国内で消費される割り箸の殆どが、植えた苗木を立派な木材として使う為に、木の生育段階で間引かれる“間伐材(かんばつざい)”から作られていたからだ。
即ち、造営林を守る為に間引かれた木を、廃棄したり燃料として焼いてしまったりせずに再利用している、今風の言葉を使うなら、実にサステナブルな存在こそが割り箸だったのだ。
この割り箸が、環境汚染の濡れ衣を着せられたのは、御隣の韓国からだった。或る大統領が、
「割り箸は使い捨てなので環境に良くない。今後飲食店ではスレンレス製の箸を遣いなさい」
と、指導したのだ。
ところがだ、これは森林が少なく、林業に従事している人が殆ど居ない韓国でのことだ。国土の70%が山地で、森林が多い日本とは勝手が違う筈だ。
日本でも、林業従事者が多かった時代は、ふんだんな間伐材が世に出回っていた。当然、割り箸の原材料にも事欠かなかったのだ。
ところが、林業従事者が高齢化し、若者がなかなか従事したがらなくなると、途端に割り箸の原料が事欠く状態に為った。間伐材を出す作業、即ち、森林の間引きを行う作業員が減ったからだ。
いきおい、割り箸は輸入材を原料とする様に為った。最近では、割り箸自体の国内生産が少なくなり、輸入割り箸が目立つ様に為った。
こうなるとむしろ、割り箸が環境の為に役立っていたことが、都市伝説と為り兼ねない事態だ。
明らかなのは、『割り箸が環境保護に役立っていた』ということが、今や昔の話と為ってしまったことだ。
昭和の中期以降の一時期、子供達の間に妙な噂が流布された。それは、
『カレーライスを割り箸で食べる者には気を付けろ』
と、いうものだ。
その背景には、当時のフォークやスプーンがプラスチック製ではなく金属製しかなかった事が挙げられる。
同時に当時は、少年院ではフォークやナイフは勿論、スプーンも使用出来なかった。理由としては、金属製のフォークやナイフは喧嘩になった時に危険だからだ。スプーンは、隠し持って房の壁や床を削って、逃走を図る恐れが有るというものだ。
なので少年院では、カレーライスも割り箸で食べさせられたという噂が実(まこと)しやかに流れた。
冷静に考えれば、笑ってしまいそうなものだが、当時の子供達は真剣に信じていた。
たまに連れて行ってもらえる蕎麦屋さんで、カレーライスを割り箸で掻き込む大人を見た際等、一瞬で凍り付きそうに為った覚えが有る。
今では、その噂の真相は確かめ様が無い。
何故なら、現代の少年院ではスプーンやフォーク、果てはナイフ迄食事時に付かいからだ。但しそれ等は、金属製の物ではなく、プラスチック製の物だ。
更に少年院では、それ等プラスチック製食器を使い捨てることなく、洗って破損する迄使用するとのことだ。少年院は、浮世よりもエコロジーを心掛けているのだ。
それと、これは実の祖父に聞いたことだが、明治生まれの者にとって、箸以外に手にする食器は知らなかったそうだ。スプーンもフォークも、戦後に為る迄、一般家庭には普及しなかったそうだ。使い捨ての(プラスチック製の)食器等、考えたことも無かったと思われる。
それはそうだろう。持ち帰りの御弁当だって、精々、旅行の時の駅弁位のものだ。当然、割り箸しかついていなかったのだ。
念の為に記す。
私の祖父は、1900(明治33)年生まれだ。スプーンもフォークも、プラスチック製食器も知らなかったかと思われる。
言われてみれば、祖父とカレーライスを食した際、祖父は割り箸を使っていた記憶がある。
但し祖父は、少年院は勿論、刑務所だって入ったことは無い。
私が知る限りではね。
***
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