しんどい時こそ山に登れ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:磯貝 歩(ライティング・ゼミ2月コース)
山には不思議なパワーがある。
いっぱいいっぱいになった気持ちをほぐしてくれるパワーだ。
街で暮らしていると仕事に追われて時間が過ぎて気が付けばなんとなく一週間が終わることも多いけれど、山に登れば冷静にその瞬間と向き合うことが出来る。絶対にゴールがあって、なのに選択肢はたくさんある。敢えて遠回りをすることだってできる山登りは、人生ゲームに似ている。
わたしがそう考えるようになったきっかけを簡単に紹介しようと思う。
登山を始めたきっかけは本当になんとなくだった。コロナ渦に入り自宅で過ごす時間が増え必然的に運動量が少なくなったことと、その時期にたまたま友人から登山のお誘いがあったことが重なり挑戦を決めた。
初めて山に登ったのは今から約一年前、2021年4月のことだった。山登り未経験のわたしは、山は二度目というほぼ初心者の友人と予定を合わせ、友人にとっては二度目となる鳳来寺山へ行くことにした。
前日、とにかく必要そうな物をリュックに詰め込んだ。一眼レフでいい写真を撮るぞと意気込んでいたわたしはまずカメラを、続いてタオルや帽子、日焼け止めや汗拭きシートといった絶対にいるであろう小物を入れていった。何事も恰好から入るわたしは家にあるそれっぽい洋服を組み合わせ山ファッションの再現も怠らなかった。
当日の朝友人に迎えに来てもらい、コンビニで食糧を調達し登山者用の駐車場へ。
神社横の細い登山道に入り、少しの岩場と山道、それから腐りかけた木の階段をずんずん登っていくと一時間もしないうちに展望台に到着した。展望台から見る景色はとても綺麗で、思わずシャッターを繰り返し押していた。景色よりも感動したのが展望台で食べたおにぎりと味噌汁だ。家で食べるそれとは違うもののように絶品だった。これを味わうために山に登るのも悪くないなとのんきに考えていた。
その幸せの気持ちのまま下山してもよかったのだけれど、展望台は頂上ではない。せっかくなら頂上まで行こうということになりわたしたちは足を前に進めた。その決断を後悔することになるとも知らずに……。
かなり不安定な山道に足を踏み入れ、体験したこともないアスレチックな山道にその日初めて挑戦した。それまで楽しく会話していたわたしたちの間にそんな余裕はなくなっていた。崖か道かの選択を何度も繰り返し、くじけそうになりながらも綺麗な景色や植物を写真に収めながら歩き続けた。途中半泣きだったわたしを支えてくれたのはすれ違う登山者同士の挨拶や、ベテラン登山者による山に咲く植物のプチ情報だった。それを頼りに写真を撮ることだけを楽しみに一歩一歩足を前に進めた。
山道を歩きながらながら考えていたことといえば「登山は人生だなぁ」ということ。目標に向かって進んでいけば背中を押してくれる物や人ももちろん現れる。けれどそれ以上に険しく辛い道が続いている。頂上に辿り着けば疲労感を忘れるほどの達成感を覚え、わたしはやればできるんだと自信を与えてくれる。それが登山なんだと思う。そしてそれが人生なんだとも思う。
下山中、体力に余裕の出たわたしは友人との他愛もない話を再開させた。話した内容を詳しくは覚えていないけれど、山登りと人生は似ているねと共感したことだけは鮮明に思い出される。わたしたちは今大学を卒業して三年が経とうとしている。三年ともなると周りは結婚や転職など、人生の転機を迎える友人が一気に増えてくる時期である。順調に生活しているはずなのに周りと比べてしまうと何故か焦りが出てくる。転職アプリをインストールし友人の恋人の話を聞きながらわたしたちはとりあえず前に足を進めている。山登りと同じように。山道と同じように人生の道が整っていないのは当たり前と知っているわたしたちはより慎重に頂上のゴールを目指す。
春が来る。絶好の山日和が帰ってくる。
きっかけはなんだっていい。外で食べるおにぎりのためでも運動のためでもわたしのようになんとなくでも。どんな理由でも一度だけ山に行ってみてほしい。そして登りながら下りながら「人生だなぁ」と呟いてみてほしい。頭の中でぐるぐる考えていた心配事もいつかは解決してまた新しい挑戦が待っていると思えるはずだから。時間が掛かったとしても絶対にゴールは動かずに待っていてくれると確信できるから。一度山に登れば、きっと人生の歩み方も見えてくる。わたしが約束する。
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