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もう使わないのに何年もしまいこんでいたブランド品を買取に出した日


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯塚 真由美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
2回の引越をしてそれなりに持ち物を減らしてきたにも関わらず、手つかずの「聖域」があった。ブランドのバッグとアクセサリーだ。
使う機会は無くなっていたにも関わらず、高かったから取っておこうと引越のたびに見て見ぬ振りをし、問題の先送りを繰り返した。アクセサリーボックスはすっかり開かずの間になっていた。
 
重い腰を上げるきっかけは、買取業者の新聞チラシだった。「金相場最高値更新」のどでかい文字が目を引いた。チラシを広げてみる。
海外旅行でブランドショッピングが楽しくて仕方無かった90年代。そんな30年前に買ったアクセサリーも今が売り時かもしれない。
 
買取をする人が家に来て、玄関で査定から買取までを済ませることになった。出張買取というやつだ。
用意したのは、価格はピンキリだったアクセサリーが数十点、ルイ・ヴィトンのバッグ2つとコーチのバッグ。旅の思い出のティファニーの銀製のアクセサリーも、水色の箱付きで用意した。
 
査定が始まる。
アクセサリーの点数が多かったので、買取の人が持ってきた黒いビロードのトレー1つでは間に合わない。白い平皿3枚を貸すことになった。昨日の夕食に使った皿に、アクセサリーが何かの法則で分類されながら盛り付けられていく。不思議な眺めだった。
 
小さな刻印をルーペで確認したり、磁石を近づけたりしながら1つ1つのアクセサリーに向き合っている担当者に、気になっていたことを聞いてみた。
 
シルバーアクセサリーの黒ずみは査定のマイナスになるのか? 答えはNOだった。印象点アップのためにこの日の午前中は必死で磨いたのに。私の午前中を返して、と思った。
箱やリボン、巾着型の保存袋はあったほうが査定は上がるものか? これも答えはNOだった。事実この人は、このたぐいのものは何も持ち帰らなかった。唯一、時計だけは保証書と箱があると査定額が上がるそうだ。
限定モデルと定番モデルはどちらが有利か? これは圧倒的に定番モデルと答えられ驚く。
一点よりもまとめて買取に出したほうが有利か? これはYES。その理由は後で知ることになった。
 
一番驚いた事実は、30年もののシルバーアクセサリーは、例えティファニーであっても1グラムいくらの「銀素材」として買い取られるということだった。
30年前に買ったとはいえ、もう使わないとはいえ、憧れのティファニーだ。
やりきれない思いもあったが、持っていても使わない。やはり売ろう。
 
磁石を近づけていたのはメッキかどうかを見分けるためだった。磁石がつくもの、つまり鉄に金や銀のメッキ加工をしたアクセサリーは引き取れないと言われる。当時大好きで集めていた2つのアクセサリーブランドのものは、ほぼ買い取れないという結果になった。
また、いわゆる誕生石のような色石もよほど大きくて品質が良くないと値段がつかないそうで、石を囲む金銀やプラチナに値段をつけているということを知った。衝撃だ。
 
バッグはどうか。
大まかな査定額だが、30年もののルイ・ヴィトンは、きれいに使ってますねとほめられた1つ目、使用感大の2つ目と合わせて1万円程度。ほとんど使わなかったコーチのバッグはランチ1回分位の値段を言われた。
アウトレットのあるブランドは新品を安く買える。そのため中古の需要が少なく、買取額が上がらないそうだ。需要と供給、消費者心理、色々考えさせられる。
 
全てのアイテムの確認が終わった。
「金額をお出しする前に」と言ってその人は一呼吸置いた。
 
「お買取させていただくという前提でよろしいですか?」
当社に決めてくれますか? という確認だ。結婚を前提にお付き合いしてくれますか? 級の、重みのある一言だった。
他にA社とB社で査定を考えていると話すと、彼の目にうっすらと失望の色が滲んだ。人当たりの良さそうな見た目に反し「マジかよ」という心の叫びが聞こえた気がした。
 
これから取引先と金額交渉の電話をするが、売却決定と未定の場合では出てくる金額が違うと担当者は言う。つまり、私が今売ると決めたほうが高く売れるということだ。畳み掛けるように、自社販売網の業界における優位性や、来週で終わる買取額アップキャンペーンの説明を受ける。
生返事を返しつつ、相見積か、一択か、どちらが幸せになれるのかを必死で考えた。私は人生の岐路に立っていた。
 
心が動いたとどめの一言はこれだった。「流通の相場に基づいた査定額になるので、どの業者も買取額はそう変わらないでしょう。他社に持っていくお客様の時間と手間が、勿体ないと思います。」
おぬし、「お客様の」を強調して言ったな。私の立場に置き換えて語られると、妙に説得力があった。
 
外もすっかり暗くなった。お腹もすいてきた。心理戦に負けた気がしたが、わかりましたお願いします、と彼に私の幸せを託す。
 
心理戦、今度は私が優位に立たなければならない。少しでも買取価格をアップさせるためだ。
外に出て電話をかけていた担当者が玄関に戻る。買取額アップキャンペーンを適用してこの額まで頑張りました、と金額を提示される。
 
交渉の余地はあるとみた。首を横に振ってみる。
東南アジアのお土産物屋さんのおばちゃんに値切り交渉をしたのを思い出す。
スイッチが入った。我が家の玄関は蒸し暑いアジアの雑踏に変わった。目の前の担当者があの時のおばちゃんに見えてくる。
 
ではいくらがご希望なんですか? 抵抗する私に担当者が問う。実は考えていなかった。いくらって言おう?
歴戦の値切り戦法では、おばちゃんの提示額の1/10の額を電卓に打って見せた。冗談じゃない! と悪夢を消し去るようにおばちゃんは即座に電卓のクリアボタンを押す。そして、ちょっと下げた提示額を打って見せる。
電卓が互いの手を何度も往復した後、やっと双方が「まあこれならいっか」的レベルの値段、例えば最初の半額位に着地する。
 
最初に担当者に提示された金額との中間あたりに落ち着けば、と私は少し高めの希望額を口にした。
彼はしばらく考えた後、相談の電話のために再び外に出た。どんな結果になるのだろう。
 
戻ってきた彼は、なんとかさせていただきますと答えた。満額回答だ。
1点よりもまとめて買取のほうが有利な理由はこれだった。相場に合わせた査定額からもうひと押し、「沢山売るから高く買って」の交渉ができる。担当者は玄関で伝票を書きながら、その通りと頷いていた。
 
この業者に売るのがベストだったのかは分からない。他社の査定を受けたり、メルカリで売ったりしたほうが総額は上がったかもしれない。
だがしかし、一気にモノが減らせたことは大きなメリットだ。私は手間と時間を買ったと思った。
 
高かったからという理由で、この先も使わないのにブランド品を手放せないでいた。何年も、いや何十年も。
使わないのに持ち続けている。そんな後ろめたい気持ちは、心の中に沈殿した澱だった。
時折ゆらゆらと巻き上がり、先延ばしにする私を苦しめた。
買取を通して、そんな気持ちを洗い流すことができてホッとした。
 
少しだけ変われた気がする自分を感じながら、ヴィトンを脇に抱えて出ていく買取担当者を私は晴れ晴れした気分で見送った。
 
 
 
 
***
 
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