メディアグランプリ

私の知らなかった献血の世界


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:松下 幸子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「あの、針は両腕に刺さないんですか?」
 
私の腕に針を刺し、針につながったチューブ類を手際よく装置にセットしていた看護師さんは「それでは準備が出来ました。これから50分間ゆっくりと採っていきますね」
と微笑んだ。
てっきり両腕に針とチューブをぶら下げるとばかり思っていた私は、看護師さんが行ってしまう前にそう声をかけていた。
 
予め私のデータが入力してあるという脇の装置を覗き込みながら応えてくれる。
「前回成分献血をして頂いたのはずいぶん前ですかね? 20年以内でしたら記録があるんですが、いつ頃だったか覚えていますか?」
 
「もしかしたらもう22年位前だったかも知れません」(そ、そんなに前だったのか!!)
 
「記憶って結構ズレていますよね」と看護師さんは笑ってくれた。
 
成分献血をするのに両腕に針を刺していたのは20年以上も前のことだと言う。
当時は片方の腕から採血された血液を、装置を通して遠心分離し、必要とする成分を抜いた残りの血液を、同じ装置から反対の腕へと戻していたのは私も記憶するところだった。
「医療はホントに日進月歩ですからね。両腕とも動かせなかったら献血して頂くのにとても不便ですもんね」
そう言葉を残し、看護師さんは周囲へ気を配りながら今は向かいの女性に話しかけている。
 
”全血”(ぜんけつ)という、血液中の全ての成分を採る献血は近ごろ何度かやっていた。
もう一種類の、血液中の特定の成分だけを採る”成分献血”は、実に22年ぶりだった。
自分の献血についての情報が20年前で止まっていたことと、時間の経過にひどく驚いた。
 
大学の頃、ゼミの友人がおもむろに木箱に入った盃だったかお椀だったかを取り出した。
献血に10回協力したお礼にもらった品なのだと言う。
 
“○型が足りません”というプラカードを持った人が街なかに立ち、献血を呼びかけているのを幾度となく見たことがあった。それを見て、高校生の時に一度だけ献血に行ったことがあったが、なぜか殆ど私の記憶に残っていなかった。
一方で友人はなぜ10回も献血に行っているのだろうか?
 
それを確かめようと思った私は程なくして献血ルームの待合室に座っていた。
 
採血自体はあっという間に終了した。
正直に言えば、ほとんど初めてのような献血で、それまでの経験値よりも太い針を見た時には一瞬逃げ出したい気持ちになった。でもその時は他にとても印象に残ったことがあった。
 
それは、採血前の問診と検査がとても慎重に行われているということだった。
 
必要だからこそ輸血する血液で、患者さんが別の病気に感染するリスクを極力減らす。そのための問診なのだということが良く分かった。それと同時に、血液を提供する人が一部の血液を失っても大丈夫なのか、きちんと確認して貰っていると感じた。
病気や貧血がある人から血液を採ればその人の健康にさし障るからだ。
 
献血前の検査を終え、無事に献血ができると言われた時はとても嬉しかったことを覚えている。健康だからこそ初めて自分の血液を差し出す特権があるのだと感じた。
 
 
その時の献血を経て、独身の間に献血をしたのは数える程だったが、その度に健康であることを意識し、その有り難さに感謝する機会となった。
献血後しばらくして血液検査の結果が届くことも有り難かった。コレステロールが高めな私には、自分のコレステロール値が基準値からはみ出していないかをチェックできる機会でもあった。
結婚してから2人の子どもの妊娠や授乳のために献血からは遠ざかっていたが、最近また細々と再開することができた。子どもたちが学校に行った後に時間が取れるようになったからだ。
 
 
血液バックに溜まっていく黄色味がかった血漿(けっしょう)を眺めていると色々な疑問が湧いてきた。看護師さんも話しやすいし、インタビューよろしくそれらの疑問を聞いてみることにした。
 
今回のように成分献血を希望した場合、血漿と血小板とを選択することになる。
「血液検査で私の血小板は基準値ギリギリと少ないなのですが、その場合血小板は採れないですか?」
「血漿だけを(または血小板だけを)輸血するということがあるんですか?」
「血漿を輸血する場合にも血液型は関係するんですか?」
看護師さんはそれらの質問に対し丁寧に教えてくれた。
 
「血漿と血小板どちらになるかは、当日の血液検査をみて決めているんですよ。血小板は女性よりも男性の方が採れる人が多いです。体が大きい方が血液量も多いので、より短時間で決まった数の血小板が採りやすいんですよ」
血小板が少なめの場合は時間がかかる上に、採った血小板は4日間しか保たないので病院からのオーダーがある時だけ採血をお願いしているとのことだった。
 
「今は輸血も成分輸血と言って、患者さんに必要な成分だけをピンポイントで輸血するんです。その方が採る方も患者さんも体の負担が少なくて済むんですよ!」
これも全く知らなかった。血漿は出血を防ぐ役割、血小板は止血する役割、全血に含まれる赤血球は酸素を体内に運ぶ役割があるので、どれが必要かによって輸血されるものが変わってくるそうだ。
 
血液型に関しての回答では、すっかり忘れていた高校生物の内容を思い出させて貰った。
 
今回の献血では色々と学ぶことができた。
医療がどんどん進歩してもまだ出来ないことも沢山ある。人工血液の研究は進んでいても実用はまだな為、今は人の血液を完全に代替する手段がないのだということも知った。そして、輸血を必要とする様々な病気のことも。
 
 
献血に行く目的は十人十色だ。もちろん行かない理由もあるのだと思う。
 
近しい人が輸血の必要な病気をしたことがきっかけで始めた人
身近な人が元気であっても病気の誰かを思いやることのできる人
それまでの私のように、健康のバロメーターとして
ブックカフェ感覚で本のラインナップや雰囲気を見て好みの献血ルームを選ぶ人
血を見たり採血されるのが苦手な人
献血したくても体調が悪くてできない人
 
切実な目的の人もそうでない人も、それぞれで良いのだと私は思っている。
私が献血をして感じた気持ちも年齢や自分の状況によってまちまちだったように思う。
これから自分がどのように感じるのかはやってみなければ分からない。
そして、それを知りたいと思う。
社会貢献なんていう大きなことはとても言えないけれど、どこかで誰かの役に立つのなら尚嬉しい。
 
献血が終わり、待合室でふと目に入った手作りの冊子を手に取った。
表紙にはありがとうの文字、中には献血を受けた人やその家族からのメッセージが書かれていた。
 
小さいけれど私のエールをこれからも送ります。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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