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死と向き合って思うこと


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記事:わこ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「Oさん! 起きて! 息して!」
私は必死で彼に叫んでいた。
まさか、こんなことになるなんて……
あの時には思いもしなかった。
 
私は、辞めた会社に2度入ることはないと思っていた。
退職した理由は、オーナーが人を物扱いするかのように、自分の思うように動かしていたことが嫌だったからだ。
 
退職した時に一番寂しかったのは、私が入社時からお世話になっていたKさんの存在だった。Kさんとは退職後もよくメールをしたり話をしていた。
そんな彼女と「また一緒に仕事したい」という思いが強くなり、何気にそんな話をしていた時だった。彼女が営業部長に、私が再入社できるように話をしてくれたのだった。
 
再入社の話が社内で出ていた時に、営業のOさんも協力してくれたらしい。
再入社前Oさんと会って話をし「今回は、仲間が守ってくれるから」といって励ましてくれた。
本当に社員はみんないい人たちばかりだった。
 
再入社して2か月ほどたったころ、コロナが蔓延し、管理部以外はテレワークとなった。
たまに書類の捺印が必要な営業社員が会社へ来ていた。Oさんもそうだった。
お昼に、食事用のテーブルで私がお弁当を食べていると、Oさんがコンビニでお弁当を買ってきてテーブルでそのお弁当を開く。
「え? 野菜は?」私は彼の買ってきたお弁当に驚いた。
パスタとサンドイッチ。サンドイッチには野菜は入っていない。
炭水化物のオンパレードだ。
 
「オレ野菜嫌いなんだよな~」そう言いながら彼は、買ってきたパスタとサンドイッチを一気に食べていく。
「あのさ~ 40歳過ぎてるんだからちゃんと食事考えたほうがいいよ」と私は言った。
聞くところによると、テレワーク中は、母上がお昼におにぎりを作ってくれてそれを食べているらしい。
「う~ 炭水化物ばっかりじゃん……」心の声が漏れそうになる
 
それにコロナでお客様からはWEBミーティングにしてほしいといわれて、ほとんど客先に行くこともないので身体も動かしていないという。
「お~ いよいよもって身体に悪いよ。食生活考えたほうがいいよ」
私は必死に話したが、彼は聞く耳を持たない。
 
私も食生活が悪く医者から「このままいくと死ぬよ」と言われたことがあり、生野菜を多く食するようにって改善ができた。生野菜を侮るなかれ!
彼が、会社へ来るたびにこの会話のやり取りは続いていた。
 
私と彼のデスクは、パーティションを挟んで、距離にすると2mほど離れた場所だった。
ある日、食事のあといつものように仕事をしていた。
 
バタン! ガタガタ!
と、何かが倒れ滑り落ちるような大きな音がした。
「誰か椅子から落ちたのかな?」そう思っていた。
私は慌てて自席を離れ見に行った。
 
ん? 奴がいない……
ゴーゴー……
かすかにいびきのような音がした。
 
席には誰もいないと思っていたら、彼は椅子から落ち、床にあおむけになっていた。
口元には少し泡のようなものが出ていた。顔が土色だ!
私はとっさに彼のもとに行き、息をしているかを確認した。
「ヤバい! 息をしていない」
自分が何をしたらいいのか考える前に、瞬時に体が動いていた。
総務メンバーに、救急車を手配してもらい、状況を伝えてもらった。
 
「Oさん! Oさん! 起きて! 息して!」
心臓マッサージをしながら時々彼の肩を叩き名前を呼び続けた。
流石にこのコロナなので、人工呼吸はできなかった。意外と冷静だったのかもしれない。
 
私の力では、心臓にかける圧が少ないので、当時いた経理課長に変わってもらい心臓マッサージを続けてもらった。
時間にしたらどれくらいだったのだろう、蘇生がうまくいったのか息をし始めたが意識がない。
私はとにかく、彼の名前を呼び続けた。
「Oさん! 起きて! 生きて!」
目が開かない。何度も何度も繰り返した。
 
私は必死だった。
優秀な営業マンだった。彼がいなければ会社はどうなる。
彼のお客様は。いや、そんなことよりお母さんが……
だめだ! 親より先に死んじゃダメなんだ。
心の中はぐちゃぐちゃだった。
 
そんなことも知らずに周りの社員達は呆然と立ちすくみ、課長と私をただ見守っていた。
 
10分くらいたったのだろうか。救急車が到着した。
「息はし始めました。心臓も動いています。ですがまだ目を開けません」と私は伝えた。
そこから先は、救助隊の人に任せて病院へ運んでもらった。
 
怖かった。急に体中が震えてきた。
初めて人の蘇生をし、死なせることはなかったがこの後どうなんだろう……
それだけが気になった。
 
普通であれば、その日の内か2~3日で意識が戻るのだそうだが彼の意識は戻らなかった。
このままいったら植物人間なのか……
もっと何かできることはなかったのか……
自分を責めた。
 
時には、彼のLINEに「早く起きろ~ まってるぞ~」とコメントを入れた。
既読にはならない。
 
1週間ほどたっただろうか。彼の意識が戻ったと妹さんから連絡があった。会社の中が一瞬にして明るくなった。
 
診断結果は脳と心臓の血栓だった。
本人は、すぐにでも復帰することを望んだが、それは無理だった。
1週間も意識不明だったからなのか、脳に酸素がいきとどいていなかったのか、原因ははっきりわからないのだが、短期記憶ができない。脳障害が起こっているのだ。
あんなに優秀だった営業マンが、一気に仕事を奪われた。
仕事復帰は1年たってもできなかった。まだ彼はリハビリを続けている。
 
若いころは、自分の好きな時に好きなものを食べて、病気になることも気にしなかったが、歳を重ねるにつれて食生活って大事だなと、この時つくづく感じた。
 
そして、2度同じ会社へ入った意味は何だったのかもこの時考えた。
そして、以前の私なら救助などせず傍観者のほうだった。
 
それからしばらくして、私は会社を去ることとなった。
もしかしたら、今回の再入社にはやっぱり意味があり、彼の命を助けることが私の使命だったのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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