メディアグランプリ

523人の名付け親を持つ天使


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記事:田盛稚佳子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
未知のウイルスで人々が不安に陥っていた、緊急事態宣言真っ最中の2020年4月27日。
実は日本に、ある天使が舞い降りていた。
 
栃木県にある那須どうぶつ王国で飼育されている2匹のスナネコに赤ちゃんが生まれたのだ。
国内初の繁殖で、女の子だった。
インターネットでそのニュースを見たとき、
「なんてかわいい動物が地球上には存在しているんだろう!」
とその見た目に釘付けになってしまった。
大きな耳、横広い顔、くりくりとした瞳、きれいな縞模様、儚げに動く小さい手足。
「愛くるしい」という言葉は、まさにこの子のためにあるものだと感じた。
 
スナネコというのは、主に中東や北アフリカの砂漠地帯に生息する肉食の野生のネコ科動物である。別名「砂漠の天使」とも呼ばれている。
普段私たちが目にする日本猫よりもずっと小さく、成長しても体長は40cm~60cm、体重は1.3~3.4kgまでしかない。世界最小の猫である。
 
このスナネコの赤ちゃんは生まれた時、体重は53gだったという。
身近なもので表すと、コンビニで売っている「果汁グミ」1袋分だ。
実は、同時期にあと2匹生まれていたのだが、残念ながら生き延びることができなかった。
また母猫は初めてのお産でもあったため、衰弱と育児への戸惑いからか、赤ちゃんのお世話ができる状態ではなかった。育児放棄である。
このままでは赤ちゃんの命が危ない!!
急遽、人工哺育に切り替えられることになり、担当飼育員がつきっきりでその赤ちゃんを世話することになった。
なにせ国内での人工哺育例がないため、やり方もデータもない。飼育員の苦労は計り知れないほどである。聞くところによると、シリンジという小さい注射器のようなものに哺乳瓶の乳首をつけて、ミルクを1cc飲ませるのがやっとだったという。
少しでも目を離せば息絶えてしまうかもしれない小さな命がそこにはあった。
 
それからは、スナネコの赤ちゃんの様子が気になるばかりで、王国のホームページをチェックすることが私の日課になっていた。
ある日、ふと「赤ちゃんの名前を募集しています」という記事が目に入った。
詳細をよく見ると、まだ締め切りまで数日ある。よし、応募しよう! 即決だった。
そこからは、まるで自分の子供に名前をつけるような気持ちで、ワクワクが止まらなかった。
スナネコの両親がアラビア語の名前だったので、やはり赤ちゃんもアラビア語に合わせたほうがいいだろう。
そして、思うままにいろいろ書き出してみた。
春生まれ、4月、桜、小さい、かわいい、王国の星、希望……。
そんなことを考えていると、にわかに閃いた。
そうだ! この子はお姫様だ!
どうぶつ王国で生まれて、1匹だけ生き残った選ばれし者、まさに姫だ。
「アラビア語 姫」と入力しグーグルで検索して出てきた名前、それが「エミーラ」だった。
 
応募フォームには、名前と考えた理由を書く欄があった。私はこのように書いた。
名前:エミーラ
理由:アラビア語で「姫」という意味です。他の二匹が生きられなかった分も、強くお姫様として行きぬいてほしいと思いました。大変な時期に生まれてきてくれてありがとう!
 
心からの思いだった。
しかも、この名前に絶対決まるという妙な自信が私の中にはあったのだ。
思いよ届け! とばかりに送信ボタンを押した。
そして7月になり、決まった名前は「アミーラ」だった。
全国から12,000通以上の応募があり、その中で523名がこの名前を考えたという。
「そっかぁ、惜しかったな。発音違いなだけなんだけどなぁ……」
と少し落胆しかけて気づいた。
「アミーラ」の下にかっこ書きで、「アミラ」や「エミーラ」で応募した方も含みます、と書いてあるではないか。
そう、なんと私はこの小さなスナネコの赤ちゃんの名付け親の一人となったのである。
家の床が抜けんばかりに飛び跳ねて、大はしゃぎした。
「聞いて聞いて! 応募した名前に決まったよー!」
これには家族も驚き、「本当なの? すごいじゃない!」と一緒に喜んでくれた。
「私のアミーラ」、名付けた誰しもが思ったことだろう。
 
しばらくして、自宅に「命名証」なるものが送られてきた。
ああ、本当に名付け親の一人になったんだなぁと感慨深く、命名証を持つ手が震えた。
しかも嬉しいことに、那須どうぶつ王国の招待券が2枚同封されていたのである。
コロナ禍で悲しく暗いニュースが続く中で、この小さなスナネコの存在が、私たちに大きな希望を与えてくれたのだ。
「状況が落ち着いたら那須に行くんだ。名付けた子に必ず会いに行くんだ!」
その一筋の光を目指して、私はつらい時も心が折れそうになる日もなんとか乗り越えてきた。
 
残念ながら、その後、家族の入院や私自身の転職等もあり、那須どうぶつ王国に行くことは叶わず、有効期限の切れた2枚の招待券はただの紙切れとなってしまった。
それでもよかった。アミーラが元気に生きていてくれさえすれば、いつかは会える。
つい最近のニュースで、アミーラが那須どうぶつ王国から埼玉県に移送されることが決まったことを知った。スナネコの種の普及啓発と保存のための繁殖で、東松山市にあるこども動物自然公園に「お嫁入り」をするのだ。
いつか埼玉まで会いに行こう。そして、ガラス越しにそっと話しかけたい。
「アミーラ、生きる希望を与えてくれて本当にありがとう。実は私も名付け親の一人なんだよ。なかなか会えないけど、これからもずっと福岡から見守っているからね」と。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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