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究極の自宅待機は「南極料理人」だった


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記事:栗(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
コロナにやられた怒涛の2年間。今、感染状況が少し落ちついて振り返ってみる人も多いのではないだろうか。もともと在宅仕事の私は、その点の環境は全く変わらなくて幸いだった。ただ、家族が自宅待機になった3か月を思い出すと今でも恐ろしい。
 
夫が会社から自宅待機を命じられたのは2年前の2月末。新しい感染症について何もわからなくて、恐怖と不安が渦巻く中で在宅生活が始まった。電車に乗るどころか、スーパーで買い物するのさえ覚悟がいるような日々だ。
 
さらに娘は、大学4年で就職活動を始めたばかりで同じく自宅待機になった。PCに向かってオンラインで受けるゼミしかない。夫、娘、私の3人の在宅生活が突然始まった。
 
夫と娘は基本的に、家にいるほうが好きなタイプ。外出できなくても別に苦ではなく、むしろ快適に感じるらしい。彼らは、他人と会うだけでも無意識に気を遣ってしまう。なので、たとえ楽しい時間を過ごしたと思っても、帰ってくるとぐったりしている。
 
私は全く逆で、毎日家に閉じこもるのは苦痛だ。仕事で家にいる分には構わないが、それ以外では外に出たい。コロナ前までは、出たり入ったりが自分の裁量でできるからよかったのだ。
 
ところが、いきなり始まった3人の自宅待機。最初は新鮮というか、外に出る恐怖が勝っていたのでよかった。家の中にみんなでいるほうが安心だし、夫や娘も他人と会わないので感染の心配がない。
 
在宅初日の朝。
「はーい。朝ごはんは卵トーストだよ~」
「わーい」
などと仲よく食事。
 
昼。
「お昼はパスタにしようか」
「いいね!」
 
夜。
「カレーでいいか」
3人で囲む食卓は平和を感じることができた。
 
2日目、朝昼夜、3日目、朝昼夜、4日目、朝昼夜……。料理をつくる私は、家族の健康を守る大事な役割を果たしているんだと思っていた。しかし、1か月が過ぎ、4月になっても環境は悪くなるばかり。外に出ないといけない仕事に比べれば本当に恵まれている。でも、もともと料理が得意でもない私には、閉じ込められ感が強くなってきた。
 
朝ごはんが終わると
「お昼ご飯はなに?」
昼が終わると
「晩ご飯はなに?」
 
毎日毎日、三食のご飯を考えないといけない。だんだん苦しくなってきて、私は心の中で叫んだ。
(えーい、1日中、食事のことばっかり言われて、しんどいわ!)
(頼む! 早く仕事に行ってくれ~、早く大学に行ってくれ~)
 
とはいえ、状況は全く進まなくてむしろひどくなるばかり。何か楽しいことはないかとせっぱつまって考えた。それはNETFLIXで映画を見ること。唯一の息抜きはそれぐらいだ。
 
ある日、映画「南極料理人」を見つけた。主演は堺雅人で、予告を見ても間違いなくおもしろそう。彼は南極の基地に行かされた料理人。小さなスペースに閉じ込められたシェフは、研究員のためにたった1人で毎日の食事をつくる。
 
もともと行きがかりで無理やり派遣されたのもあって、厄介な同居人たちにだんだんストレスがたまってくる。あるきっかけからストレスが爆発して、料理づくりをボイコットしてしまう。あわてた研究員たちが、から揚げなどを見よう見まねでつくるところが見どころの1つだ。
 
堺雅人は、そのべとべとのから揚げを一口食べたとき、料理の下手な妻のから揚げを思い出して泣く。それを見てほっこりしながら、突然私は思った。
「あれ、私も南極料理人じゃね?」
 
全く関係ない映画だと思っていたが、そういえばコロナ禍の世界と似ている。外へ出ることは即、死ぬかもしれないという恐怖。他人ではないとはいえ、家族と狭い部屋で一緒にいるしかない煮詰まった状況。
 
そうだ、これは映画で演じるかのような、ロールプレイングゲームの一種なのだ。私は南極料理人で、夫や娘は研究員。そう思うとなんとなく冷静になれる気がした。
 
もう何でも自分がしなくてもいい。まず朝ごはんは各自が好きなものを用意して自分で食べる。昼ご飯は夫にもつくってもらうことにした。夫は最初はちゅうちょしていたが、簡単なチャーハンからスタート。横についてとにかく試しに作ってもらう。コンロ周りが汚れようと味が薄味だろうと、そこは我慢。
 
初めての出来上がりは映画のから揚げのようにべとべとだった。でも、めちゃくちゃおいしいよ! とおだてまくった。それからは毎日チャーハン続き。でも、だんだんスキルが上がって、テレビで見た隠し味を入れたりするようになった。そうやって昼ご飯をまかせたおかげで、私は夜ご飯だけに集中すればよくなったのだ。
 
自宅待機や在宅ワークを乗り切るコツは、1人でがんばり過ぎないこと、家族と分担して楽しむことが大事だとわかった。自分は映画やゲームの役を演じていると思えばいい。
 
そうなると、来てほしくはないが、もしも次に新しい感染症が起きたときは「南極料理人2」にトライすればいいのかもしれない。その心づもりがあればなんとかなりそうだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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