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あの日、なぜ母は手鏡とパンツを送ったのか


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河口真由美(ライティング・ゼミNEO)
 
 
洗面台の引き出しの中には、ドライヤーと一緒にボロボロの手鏡が入っている。
鏡のふちは一部欠けていて、裏側にプリントされているくまのプーさんの絵柄も、ところどころ剥げている。別にこの手鏡をしょっちゅう使っているわけじゃないし、大切にしているわけでもない。
ただ、なんとなく手放せなくて25年も持ち続けている。
 
 
中学2年生の3月、誕生日を前に私はワクワクしていた。
中学生といえば、女の子として恋愛に興味を持ち始め、身だしなみに気を使いはじめる時期だが、私は違った。いつまでたっても私の興味は、ゲームとマンガで、身だしなみには無縁の学生時代を送っていた。
欲しいゲームソフトやマンガがいっぱいある。何をおねだりしようかな。3月に入ると、そのことばかり考えていた。
我が家で財布をコントロールしていたのは母だったが、毎年誕生日プレゼントをくれるような人ではなかった。よっぽど欲しいものをおねだりするか、母が気が向いた時にプレゼントを買ってくれるような感じだった。
母におねだりするタイミングを探っていると、誕生日の数日前に
「はい。これ、誕生日プレゼント」
と、母からラッピングされた袋を渡された。
 
あれ? 私、まだ欲しいもの伝えてないのに。何を買ってくれたんだろう?
 
袋を開けてみると、中に入っていたのは、くまのプーさんの手鏡とパンツ3枚だった。
 
何これ?
 
期待していたものとあまりにもかけ離れたプレゼントに、フツフツと怒りがこみあげてきた私は、
「はっ? なんでパンツ? 意味わからん。バッカじゃない!? プレゼント買ってくれるなら、先にいってよ! 欲しいものあったのに。パンツとかいらんし!」
母に暴言を浴びせると、部屋にこもってしまった。
 
部屋に一人になっても、私の怒りは収まらなかった。
バカじゃない!? 誕生日にパンツ買うとか、アホやろ、アイツ。なんで欲しいもの聞いてこんのよ?
欲しいものを聞いてもらえず、勝手にプレゼントを買われたことが許せないのもあったが、日ごろの母との関係性も、怒りを倍増させる原因だったように思う。
 
中学2年といえば、反抗期真っ盛りで、母とはケンカしない日がないというくらい、毎日ぶつかり合っていた。特に、私をバカにしたような母の言い方と、私のことをすぐ話のネタとして友達に話すところが許せなくて、当時は母のことが大嫌いだった。
 
このような日常のやり取りがあったうえでの、パンツと手鏡のプレゼントだ。
怒りで冷静な判断ができていない私は、母のプレゼントが自分をバカにしているように感じてしまい、余計に腹が立ってきたのだ。
母にしてみれば、プレゼントを渡したのに、娘がブチ切れるという謎の行動に、反抗期である娘の扱いの難しさを感じていたことだろう。
 
 
夜になり、少し冷静になってきて、もう一度母にもらったプレゼントに視線を向けてみた。
 
『村一番』の包装紙だ。
 
プレゼントのラッピングに使われていたのは、私が住んでいた田舎に唯一あった雑貨屋さん『村一番』の包装紙だ。
ふと、母がそのお店の中でキョロキョロしながら、プレゼントを選んでいる姿が目に浮かんだ。
似合わない。お母さんがあそこにいるなんて似合わない。
「母といえば節約です」といえるくらい、節約は切っても切り離せないものだった。だから母にとって、雑貨屋さんで何かを買うというのは、無駄な消費になる。母とスーパー以外のお店に買い物に行くことは、ほとんどなかった。
 
あそこに一人でいってきたの? お母さんが?
そうか、そういえばお母さんは、節約したお金で、自分のものは一切買わずに、全て家族のために使ってるなぁ……。私のためにわざわざあのお店に行って、選んでくれたんだ。
 
そう思うと、だんだんと涙があふれてきた。
母にひどいことを言ってしまった。謝らなきゃ。
 
 
翌朝、いざ母親に謝ろうとしても、プライドが邪魔をする。
謝らなきゃいけないけど、謝りたくない。なんか、負けを認めるみたいでヤダ。
思春期の心は、本当に忙しくて、反省と感謝と悔しさと意地が複雑に絡み合って、なかなか思うように行動できない。
学校へ行く身支度を終え、家を出る前に、ここで言わなきゃ! と思い、プライドを捨て、ようやく口を開いた。
「お母さん」
 
「うん?」
 
「昨日ごめん」
 
母は一瞬、きょとん? としたが、私がプレゼントにさんざん文句を言ったことに対して謝っていると気づくと、
 
「ブハーッ!!」
 
思いっきり吹き出した。
そして、わかったかコノヤロウと言わんばかりの視線をこちらに向け、ニヤリと笑った。
 
その母の行動に、またカーッ! となって、私は舌打ちして、激怒しながら学校へいった。
ッチックショウ! あんなに笑われるなら、謝らなきゃよかった!
 
こうして、私の思春期の純情な心は、母親によってもてあそばれたのだが、この時にもらった手鏡は、25年たった今も持ち続けている。あのときの悔しい気持ちが、私と母の関係性を一番表しているような気がして、手鏡を見ると、思い出してはニヤけてしまうのだ。
 
あの頃は、母の言動や行動すべてがイライラして、ムカついてたけど、いざ自分が母親になってみると、母の気持ちがとてもよく理解できる。
子供が喜怒哀楽をコロコロ変えて、感情のままに行動する姿は、子供には申し訳ないが、見ていて面白いので、つい笑ってしまう。でも心の中には、成長して感情を隠し始める前に、ありのまま感情を爆発させる姿を大事に見守りたいという思いもある。
私も子供のことを友達にペラペラしゃべってしまう。ネタにしているといえば、ネタにしているが、やっぱりそこには子供に対する愛情があって、他の人に伝えたくなるのだ。
子供が小さくなったシャツや、ボロボロになった下着を着ていると、ゲームよりも毎日身につけるパンツを買ってあげたいと思うのが母親だ。
年頃になれば、手鏡も買ってあげたい。
買ったものを喜んで欲しくて、誕生日をフライングしてプレゼントを渡したくもなる。
子どもからすると納得できなくても、母はいつだって子供のためを思って行動しているのだ。
 
 
娘もあと数年であの時の私と同じ年齢になる。
どんな思春期を迎えるだろうか。
きっと私と母のようにぶつかる時がくるだろう。
 
間も無く迎える娘の誕生日を目前にそんなことを思い出した。
さぁ、プレゼント何をあげようか
 
 
 
 
***
 
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