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息子が大物過ぎてどうやって育てたらいいかわかりません!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
くすくす、くすくす……。
 
息を切らしながら教室に近づくと、教室前の廊下は既に授業参観に来た保護者でごった返していた。大きく息をつきながらガラス張りの扉の中にいる息子の姿を探す。
 
前の扉のあたりから、参観の空気に似つかわしくない忍び笑いが聞こえてくる。そちらを何気なく見ると、3人の保護者がドア横の席に座っている子供を見て笑っているのが見えた。
 
その目線の先を見ると、いがぐり頭の見慣れた背中が小刻みに揺れていた。
 
……うちの子じゃん……。
 
いやな予感しかしなかった。
 
彼が何をしているのか、確認するべく、笑っている3人の近くまで寄って行く。
 
彼の机の上が見えた。
 
目を真ん中に寄せて机に向かっているが、鉛筆は持っていない。
彼は、消しゴムを何個も器用に重ね、その上に定規をのせ、ボールのようなものをその定規の上に載せようとしていた。
 
ピタ、ゴラ、スイッチ……! と横で歌ってやりたいくらい、定規に載せたボールは見事に落下し、その勢いで定規もあえなく落下した。
 
それを見た3人がまたもお腹を抱えながら、声なき笑い声を立てている。
 
「カワイイ、めっちゃカワイイ」
 
いやいやいや、それ、自分の子どもがやってたら、確実にあとで説教するでしょ?
確かに他人の子がやっていたら、私もあの3人と一緒に笑っていただろう。目が吊り上がりそうになるのを抑えながら、滑稽な息子の動きを見る。まだ、私が見ていることに気づいていないのだろう、めげずに、消しゴムタワーの上で、定規のバランスを取る彼の姿を眺めていた。
 
授業が終わった後で、担任に平謝りしに行ったところ、意外にも担任は笑っていた。
 
「授業参観であれだけ普段通りにしていられるっていうのが、彼らしいですよね」
 
……ですよね。いつも、なんかしらやっているんだな、ますます情けない。あいつめ……家に帰ったらおぼえておけよ、しめてやると心の中で罵っていると、担任が笑いながら言った。
 
「家できつく叱らないでやってください。今後、自分の進路でコレという何かを見つけたら、彼のあの集中力がきっとそちらに向きますから、怒って無理に押さえつけないでくださいね」
 
「え、まさか!」
 
「お母さんね、彼は絶対に大物になるから、今は怒りすぎちゃダメよ。こらえて見守ってあげてね」
 
学校でも3本の指に入るベテラン教師だ。沢山の生徒のビフォーアフターを見ている経験に照らし合わせて励ましてくれるのだとしたら、その言葉にすがりたいくらいだった。先生が念を押すように怒らないでと言うから、その言葉を信じることにした。
 
あれから、4年の歳月がたち、中学1年生になった息子はだいぶ成長……していなかった。
 
身長はぐんと伸びた。まもなく私に追いつきそうで目線がもう少しで平行になりそうだし、声変わりしそうなのか、声も少しかすれている。学校の勉強もそれなりに頑張っていると、友達のママづてに聞いて、もう中1も終わるもんねと感慨深く思っていた。
 
しかし、年度末のある日、私の携帯電話に、学校の番号から着信が2回あった。担任からの緊急の用だろうか、スマホの不在着信画面に踊る学校名を見ながら、息子に何か心当たりがあるか、と尋ねた。
 
「あぁ、……あのね、ごめんね。最初から謝っておくわ」
 
いきなり謝られ、左頬が危険を察知して痙攣した。
 
「机に、彫っちゃったんだよね、“人間”って」
 
「なぜ、人間っ?!」
 
驚きすぎて、ツッコむところが完全にズレていた。そもそも、中1なら、机に文字彫るのがアウトなんてわかるだろうに……。呆れて天井を仰いだ。
 
夕方にもう一度担任から連絡がきた。
 
「何度もお電話いただいて申し訳ありません。なんか、うちの子が、机に人間って彫ったって聞いたんですが、いくらくらいの弁償になりますか?」
 
ああ、それもありましたね、と担任は笑いながら続けた。
 
「今回は、年度末なので、お世話になったご挨拶の電話なんです」
 
担任の意外な返答に「え?」と聞き返した。
 
「机はね、責任もって2年生も引き続き使ってもらうということになったし、修理するパーツが来たら自分で直してもらうから大丈夫ですよ。弁償も多分ないかと思います」
 
「それでいいんですか?」
 
はいと言いながら、担任は続けた。
 
「彼は面白い子ですねえ」
 
机のことは本当に私に伝える気はなかったらしい。担任の先生がまだ思い出し笑いをしながら続けた。
 
「4月の時点では落ち着かなくて、どうかなと気になりましたけど、発言も発想も面白いし、授業も真面目に取り組んでいますから、このまま行くといいですね!」
 
このまま……小学生みたいな態度でもいいってこと??
 
彼の度重なる所業を思い出しながら、それでいいのだろうか、と思う。
 
確かに息子が起こす事件は第三者から見たら些細なものばかりだ。親の私から見たら恥ずかしいけど、他人を傷つけるなど大きく迷惑をかける行為ではない。彼自身が学校から求められているものに取り組めているのであれば、あとは、母親としてちゃんとしていない息子を見るのが恥ずかしい、というだけの話。それで成績が悪かったら、文句のひとつも言えるのだけど、勉強もそれなりに真面目に取り組んでいるから、注意のしようがない。
 
冷静に考えてみると、それを息子がしたら親の私が恥ずかしい、という理由で、息子をどうにかコントロールしたい、というのは、やっぱりもったいない話だ。私が、私の都合で息子の世界を抑えつけたら、彼の可能性を狭めてしまうかもしれないのだから。
 
彼は、可能性の引き出しを沢山持っている。けれど、私が彼のやることなすことにケチをつけすぎてその引き出しを封印してしまったら、きっとつまらない人生になってしまう。私ができることと言ったら、謝らなければいけないところは謝って、迷惑をかけたところは弁償する、そのくらいのことだろう。
 
4月になって中学2年生になった。ある日、ふと息子の部屋のテーブルを見たら、鉛筆が大胆に分解された残骸が転がっていた
 
「ね、すごいでしょ! 芯まで外してみたかったんだよ」
 
ヤレヤレ、今年度もお変わりなく絶好調のようです。
もういいわ、一緒に笑うわ。
 
息子が大物過ぎて、凡人の私には、予測不可能ってことにしておこう!
 
 
 
 
***
 
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