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遠い昔の過去にケリをつける時が来た


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:紗矢香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
就職はどこでもよかった。只々、親から離れたかった。
 
大学は親が納得する公立の短期大学へ進学した。本当は4年生に行きたかったが、家庭の事情で私立は厳しく、国立はすべて落ちた。
 
実家から通うにはちょっと無理のある隣の県。大学自体が山の上にあり、とても辺鄙なところだが、私には十分だった。
畳三畳の個室。トイレ、風呂、食堂が共同の寮生活は、門限は21時だったが、快適だった。授業以外はバイトに明け暮れる生活をしていた。
なぜそんなにバイトばかりしていたか。卒業後、一人暮らしをする為だ。
 
山の上にある大学近くの寮は、麓に降りるまで、バスを使わなければならない。授業が終わると、リサイクルショップで買ったママチャリで、山を下る。女子大生が、山道を一人自転車で30分かけて下るなんて、今考えただけでも恐ろしい。絶対娘にはさせたくない。その時の私はバス代節約の為、一心不乱に漕いで、漕いで、漕いだ。
 
麓の途中、一軒家に寄る。大学で紹介してもらった家庭教師のアルバイトだ。
引きこもりがちな中学生の女の子は、私には素直だった。文系なのに、なぜか数学と理科を教えていた。
一時間みっちり教えて、終わればまた自転車を20分漕ぎ、JRの駅まで。
そこから二駅。今度は駅前のパン屋。そこで、16時から20時まで、毎日販売のアルバイトをしていた。
 
パン屋の店長さんは、ちょうど私の親くらいの年代。アンパンマンのようなまんまるの顔で、いつもニコニコしていて優しかった。夫婦で仲良くお店を経営していた。娘のように可愛がってもらったことを今でも覚えている。
 
「うちの息子のお嫁さんになってよ」
「そんなこといって、息子さんにはきっといい人いますよ」
 
そんなたわいもない会話をよくしていた。
 
夕方なので、パン屋にくるお客さんはそれほど多くはない。それでも電車が到着すると、帰宅を急ぐOLや会社員の人たちで行列が出来ることもあった。パンがどんどんなくなって、トレイが空っぽになっていく様は、純粋に気持ちがよかった。店長さんも喜んでくれた。
 
「残ったパンは寮に持って帰っていいよ」
 
パン屋の奥さんが気前よく、袋に入れてくれた。大学の寮生は、金欠の子が多く、パンを持って帰ると、みんな待っていましたと言わんばかりに駆け寄ってきた。
朝も昼も夜もパンを食べる日もあった。若かったから、なんでもありだった。
 
働いたらその分お金がもらえる。いつしか、大学の勉強よりもアルバイトにのめり込んでいった。貧しい家庭で育ってきた私にとって、魅力的だった。
二つのバイトを掛け持ちし、単発のバイトもいれ、休みはなかったが、まったく苦ではなかった。
その甲斐あってか、一人暮らし貯金は十分な額になっていた。
 
いざ就職が決まると、親の保証人が必要になった。家を借りるのにもいった。
両親は、案の定ダメだと言った。実家に帰ってくるものと思っていたのだろう。
お前は、事後報告ばかりだと罵られた。事後報告の何がいけないのだ。
絶望感に襲われて、実家を飛び出した。
お金は自分で用意したし、就職先も決めてきたのに。保証人がいるとは。不可抗力だった。
 
だがさすがに、家出した娘に同情したのか、保証人になってくれた。一人暮らしも許してくれた。
やっと自由だ……。
そのかわり責任もある。ここまでして家を出たのだから、すぐに仕事は辞められない。歯を食いしばって頑張った。金融業の営業事務。きつい仕事だったが、必死に耐えた。
苦手なお客様にも笑顔で接したし、自分が悪くなくても、申し訳ありませんと謝った。大学での勉強ではなく、アルバイトでの経験が役立っていた。
ただ、好きな仕事ではなかった。本当に生活する為、お金を稼ぐ為の仕事だった。
 
私は親が納得する偏差値の大学へ行った。本当は教育関係に行きたかったが、落ちた。それなら好きな本が読めると思い、文学部に行った。だがアルバイトに追われ、本を読む時間はなかった。とりあえず、親が納得するように、教員の免許だけは取った。
それくらいの動機だ。
今思えば、そんな不純な動機で進路を決めるなんて。もっと仕事に役立つ学部へ行くべきだった。
お金を稼ぐことは、大事だ。それもよくわかった。ただ大学生活をもっと楽しんでおけばよかった。自分の好きな仕事、好きな道に進むべきだった。
 
娘が大学へ行く年になった。娘は4年生の大学へ自宅から通い、アルバイトは週2日だけ。サークルに入り、ボランティアに精を出し、もちろん勉強にも力をいれ、このコロナ禍ではあるが、誰よりも満喫している。
そんな姿を見て、私も遠い昔を思い出した。
 
「ママなら出来るよ」
 
娘の言葉に背中を押され、大学時代に取り損ねた『秘書検定』を勉強してみようと思った。仕事の合間を縫って参考書を読み、大学生に混じって試験を受けた。合格した。涙が出るくらい嬉しかった。
そして自分に自信をつける為、『ITパスポート』という国家資格を受験。時間はかかったが、ぎりぎり合格した。
 
若い時には出来なかったけれど、いつからでも何歳からでもやる気さえあれば、勉強は出来る。
少しずつだか、止まった時間が動き出している。忙しいが、楽しくて充実した日々だ。
 
そして、これから。ライターへの道を一歩踏み出した。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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