メディアグランプリ

不安に挑む勇気をくれたのは息子からの力強い応援メッセージ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北見 綾乃(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「あ、いいこと思いついたんだけど! お願い、協力してくれない?」
 
当時小中学生の息子たちに向けてこう話しかけると、いぶかしげな目線が返ってきた。そりゃまあ私がそんなこというときは大抵ろくでもないお願いだと、これまでの経験で察知しているのだろう。
 
「今度の100kmマラソン大会。50kmと78kmにあらかじめ荷物を置いておけるんだけど、そこにキミたちのメッセージを置いておきたい! そしたら、そのメッセージを楽しみに頑張れると思うんだ」
 
「えーー、めんどうくさい」
 
そんな風にぶうぶう言いながらも、半分無理やり紙と封筒を押し付け、「私に見せないように書いて、封筒の中にいれて渡して」と伝えると、なんだかんだ二人とも素直に書いてくれた。
 
その年私は生まれて初めて100kmを走るマラソン大会に挑戦した。60kmまでは走った経験があるが、そこから先は全く未知の体験である。長時間、気力を保つのも大変かもしれない。そんなときいくつかの地点に「あそこまでたどり着いたら息子からのメッセージが読める」というお楽しみポイントがあれば、ただ淡々とゴールを目指して走るよりも、少しワクワクしながら走れる気がしたのだ。
 
結果的に、この作戦は功を奏した。50kmと78km地点にたどり着くのが非常に待ち遠しいように思えるようになったのだ。
 
 
まず6時間近く走って50km地点へ。ここには次男のメッセージをいれた袋が置いてある。取りだして見てみると、なぜか筆ペンを使ってでかでかと、
「あと50kmがんばれ。いやっほー!」
とだけ書きなぐってあった。
 
「あはは、なんだよ、内容も字も雑だな!」
 
心の中でつっこむと、いたずらっぽく笑う6年生の次男の顔が浮かぶ。全く彼らしいメッセージだ。あと50km、残り半分……頑張るよ! 本気で応援してくれているんだか分からないが、次男の能天気な応援の言葉に応えて再び走り出す。
 
 
そこからさらに28㎞走ると、今度は長男のメッセージが読める。私にとっては未知の距離だけあって、ここまで来るとあちこちに不調が出てきていた。膝が痛い、ウェアにこすれて皮膚が痛い、足の爪がおかしいなど。まるで廃車目前のポンコツ車だ。これまで78kmを走ってきたけれど、ここからまだ22kmもある。あとたったハーフマラソン1回分とちょっとだ。この距離ならこれまで何十回と走ってきた。ただ、このポンコツ状態で、ここから私、ハーフマラソンなんて走れるのか?
 
不安でいっぱいだが、いったんは置いておこう。ここには楽しみがあるのだ。
 
78km地点のエイドステーションで、前日のうちに予め預けていた荷物を受け取ると、飲み物や食べ物の補給より前に、道中ずっと気になっていた封筒を取り出して開けた。長男はどんなメッセージを書いてくれているのだろうか。
 
中を開けるとこんな風に書かれていた。
 
「できるかな、じゃねぇんだよ。やるんだよ!」
 
まさに「ガツン」と来た。
 
わ、わかってるじゃないか、息子よ。
 
そうだ。今はできるかどうかなど考えている場合じゃない。とにかく悔いのないよう最後まで走るだけだ。長男のおかげで気力のエネルギーはしっかり蓄えられた。おそば、うどん、おにぎりなどの身体へのエネルギーもしっかり補給して私はその場を後にした。
 
その後なんとか無事100kmを走り切ることができ、その成功体験とともにこの言葉は私の心に刻まれた。
 
 
さて、長男にこの力強い応援の言葉をもらってから、もう8年が経つ。この言葉はあの大会を走り切るエネルギー源になるだけでなく、私のその後の人生のエネルギーにもなっていた。もはや相棒といっていいかもしれない。
 
人生何かをしようと思えば、できるかどうか不安なことばかりだ。
 
例えば私は今、天狼院書店のライティング・ゼミに参加している。このゼミに参加するときも正直不安でいっぱいだった。毎週2000字程度のフリーテーマのエッセイを書いて16週提出する。そもそも書くという行為に苦手意識を持っていた私がそんなことが果たしてできるのか?

そう思ったときも、最後は息子のあの言葉が背中を押してくれた。あの言葉を思い起こすと、「できるかどうか」じゃなくて、挑戦してみたいと思うならやればいい。そして、ウジウジ考えずにただ全力でやれ。そういう気持ちになってくる。
 
現在参加中のゼミは必死の思いでやってきて、このエッセイを含めて14回の提出が完了した。あと2回の提出で終わるのだ。なんとかゴールがうっすら見えるところまできた。担当スタッフの温かく、時には少々厳しいフィードバックや、読んでくださる方々の(わずかでも)優しい声に支えられ、今や「終わってしまうのがさみしい」という気持ちさえ生まれている。こんな気持ちになるとは受講前には想像もできなかった。
 
 
そんな中、希望者に対して7月から始まる次段階のコースの入試が実施されるとアナウンスがあった。そのコースは毎週5000字程度、しかも与えられたテーマに沿ったものを書くことを求められる。より厳しい条件になり、私のようなつたない経験と能力では相当の苦戦を強いられることはどう考えても間違いない。コースに進むことを許されたとしても、苦しみながら書いて、書いて、書きまくる日々が待っている。
 
2000字でも毎週ヒーヒー苦しんで、なんとか食らいつくような状況だったのに、指定されたテーマで5000字も書けるようになるの? そんなものが日常的に書けるようになるイメージは全く脳裏に浮かんでこない。
 
私の脳内で大論争が起きた。せっかくやり始めたなら、より深いところまでチャレンジしてみたいという前向きな気持ちと、そんなことどう考えてもできるわけがない、地獄を見るよ、という不安な気持ちのせめぎあい。いや、どちらかというと不安な声の方が大きい。そして、仕事や家事が忙しいとか、英語の勉強やランニングの時間が取れないとか、できない根拠はいつもスラスラと簡単に出てくる。
 
やっぱりここで終わりにしようか。
 
でも先に進むことで必ず、今まで見えなかった新しい景色に出会えるだろう。それを見ることを諦めたら、私はきっと後悔する。そんな心の奥底からの訴えも確かに聞こえる。大きな不安の声に流されるまま、自分の内側からでてくるこの訴えに無理やり蓋をすることを、私は一旦踏みとどまった。
 
できるかできないかはとりあえず置いておこう。まずは全力でやれるだけのことをやってみる。悩むのはそれからだ。やってみて自分に合わなければむしろスッパリあきらめもつくだろう。
 
「できるかな、じゃねぇんだよ。やるんだよ!」
 
息子の力強い文字が脳裏に浮かぶ。とにかくチャレンジだけはしよう。不安な気持ちも抱えたまま、私は思い切って目の前の新しい扉を開いて、飛び込むことにした。正直怖い。怖いけど、この先にどんな風景が見えるのか、ちょっとだけワクワクもしながら。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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