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注文住宅なのに、注文していないことまで、施工主が工事を始めてしまった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河口真由美(ライティング・ゼミNEO)
 
 
約10年前にマイホームを建てた。施工主は、父だ。
 
大工歴50年の父は、会社に属さない個人事業主ではあるが、その丁寧な仕事ぶりが評判を呼んで、「家を建ててもらいたい」「修繕を任せたい」という声が何十年も途絶えることがない。これまで数えきれないほどの家づくりに携わってきた。
私はそんな父のことを、尊敬し、大工として絶大な信頼をしている。
 
 
子供の頃の私の遊び場は、実家の1階にあった父の作業場で、機械で木を削る父の傍ら、木の切りくずや、木片を使って、ままごとをするのが私の日課だった。
 
「次の現場はどこ?」
 
父に新しい仕事の依頼があったときは、必ずその場所を聞いて、学校帰りに寄り道し、もらったジュースを飲みながら、働く父の姿を眺めていた。
 
 
あそこは、お父さんが建てた家だ。あそこも、あそこも……。
私のお父さんは、この街の人たちが何十年も住み続ける家を作っている。
自分が住む街に、父が作った家が増えていくことが誇らしくて、私にとって自慢の父だった。
私もいつか、お父さんに家を建ててもらいたいなぁ……。
幼い頃からそんな夢を抱えていた。
 
それは、どうやら父にとっても同じ夢であったようだ。
幼い頃から自分の職場について回った娘の可愛さに、父の中でも、いつか娘の家を自分が建てたいという夢を抱いていた。
 
 
私が結婚し、家庭を持ち、そろそろ家を建てたいという話が出てきたとき、ありがたいことに夫がその夢に賛同してくれて、父に家を建ててもらうことになった。
 
自分の親でなくても、大工仕事であれば父に頼みたい。そう思える理由があった。
父は、誰の家を建てるときでも、自分がそこに住むと思って建てる。何十年たっても、ちゃんと住み続けられる家を、責任もって造り上げていく。そこに決して“妥協”の文字はない。1軒1軒の家に対し、熱意や愛情を注ぐ父の姿をみて、この人に家を建ててもらえる人は、幸せだろうなぁと子供ながらに感じていた。
 
そんな父に自分たち家族の家を建ててもらえる。小さい頃からの夢が叶う。こんなにうれしいことはない。
 
 
早速、家の工事が始まった。
私はちょうど育児休職中だったので、幼い娘を連れて、建築中の家に毎日通い、自らも手伝いながら、出来上がっていく家を見届けていった。
 
そうしていると、いつの間にか、父の後をついて回るのは、娘ではなく、孫娘になっていた。
私の娘のハルカ(仮名)は、祖父である父の後ろをついて回っては、はしごを上ったり、断熱材の上で昼寝をしたり、すっかり父の職場が遊び場になっていた。休憩時間になれば、父はトラックの助手席にハルカを乗せ、アイスを買いに行き、すっかり彼女にデレデレになっていた。
 
 
家が少しずつ完成に近づきつつある中、建築中の家を訪れるたび、日に日に違和感を感じることがでてきた。
 
あれ? 玄関横に、頼んでもいない花壇が作られている。
 
心なしか、階段の上りが少し楽な気がする。
 
階段の手すり、やたら低くない?
 
何だ? 子供部屋にある、この謎の空間は?
 
 
注文住宅のはずなのに、施主が頼んでないことを、施工主が勝手に工事し始めている。
私はお父さんの仕事ぶりを信頼して頼んだのにどういうこと!?
 
「お父さん、あの花壇なに? あそこに花壇作るとか知らんかったんやけど」
「だって、玄関の段差が結構あるやろ? ハルカが落ちたら、危ないやん。花壇があれば、もし落ちても、土がクッションになって、よかろ?」
 
 
「階段が、なんか上りやすい気がする」
「階段が緩やかになるように、普通の家より、1段多く作ってるもん。あんまり急だと、ハルカが転げ落ちたときに危ないやん。あと、階段も直線じゃなくて、カーブにしてるやろ? これまたハルカが上から転げ落ちても、下まで一気に行かずに、カーブの部分で止まれるようにしてる」
 
 
「なんか、手すり低くない!?」
「そりゃぁ、ハルカがつかまりやすいように、決まってるじゃん!」
 
 
「じゃぁ、あの子供部屋の変な空間は、何!?」
「あぁ、あそこはハルカのベッドができる。部屋がせまいけん、ベッドの下は、いろいろ収納できるようになる予定」
 
 
信じられない! 全部、ハルカのためじゃん!
もちろん、私たちのいろいろな要望は聞いた上で、設計・建築されてはいるが、プラスα父の独断で、孫娘のための様々な工夫が至るところに施されていた。
普通の建築会社であれば、施工主が施主に無断で、勝手に工事を施すなんて大問題だ。
けれども、私はそんな父のことを怒る気にはなれなかった。むしろ、笑いが止まらなかった。
こんなに愛情感じる家に住めるなんて、なんて幸せなんだろう!
 
 
建築から10年経ち、娘は私と並ぶくらいの背丈まで成長した。今となっては、娘にとっても階段の手すりの高さは低い。階段から転げ落ちる心配も、ほぼなくなったし、玄関で転んで花壇に落ちる心配もなくなった。
それでも、この家には父の愛情だけは、変わらずに残り続けている。
 
 
 
 
***
 
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