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介護脱毛 する?しない?


*この記事は、「実践ライティング特別講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2022年5月開講】「実践ライティング特別講座」文章を書く前にするべき7つのこと

記事:油井貴代子(実践ライティング特別講座)
 
 
ほんとにこんな言葉があるんだ……

初めて「介護脱毛」という言葉を目にした時の感想である。
一年前くらい前だろうか、娘と脱毛について話をしたことがある。私自身は55歳という年齢もあり、もうあれこれ見た目やおしゃれを気にする年でもないと思っていたが、VIO脱毛が流行っていることや、自分も脱毛をしてすっきりしたいのだという娘の話を聞いていた。
「お母さんもやった方がいいから、一緒に行こう?」
え?やった方がいいってどういうことだ?
娘いわく、介護のケアの時のために脱毛をするのがトレンドだという。
「お母さんもちゃんと脱毛して、ケアする側のことも考えてよね!」
まさかそんな時代になっているとは全く思いもしなかった。
 
そして先日、私は「介護脱毛」と書かれた看板を目にした。ほんとに介護のために脱毛をするのだと、驚きとともに実感が湧いてきた。
家に帰って娘にまた話を聞いてみた。
娘の友人がVIOをしてとても快適に過ごしているのだそうだ。特に生理の時は脱毛をしていることで不快感がなく快適らしい。
私は生理もすでに終わっているし、プールに泳ぎに行くわけでもないので、脱毛は別に必要ないのではないかと考えていた。
娘はあれこれ私にレクチャーもしてくれた。
美容脱毛と医療脱毛があり、医療脱毛に行く方が良いとか、白髪は脱毛できないなどの情報である。また、1回で終了するわけではなく、何度か通う必要があることも教えてくれた。
 
白髪が脱毛できない……それは私にタイムリミットを設定されたような気分であった。
私の髪にはすでにかなりの白髪が生えている。もちろんアンダー部分にもちらほらと白髪が混じり始めていた。これはどうしたものだろうか?
やるなら今だ! と言われているような気分になった。
 
そう言えば、脱毛業者の情報ばかり耳に入ってくるが、実際に介護現場ではどう思われているのだろうか?
ふとそんな考えが頭をよぎり、友人の訪問看護師にメッセージを送ってみた。
「介護脱毛は本当にした方がいいのだろうか?」
友人からすぐに返事が来た。
「別にボーボーでも気にならないけど? 年齢が上がると毛の量は自然と減っていくから、多い人はいないのと、ウォシュレットを使ったり洗い流したりするから別にどっちでもいいんだけど。それより脱毛による皮膚のただれや発赤の方が気になる」
さすが訪問看護師、多くの高齢者の世話をしているだけあって、的確な意見を送ってくれた。私自身も年齢が上がったことにより、体毛は全体的に減りつつある。脇毛も若いころはあんなに苦労したのに、今では全く生えなくなってしまった。薄毛になっていくという友人の言葉は、とても納得できるものであった。
「若くして寝たきりになる人なら必要かもしれないけどね」
という言葉も添えられていたが、すでに私は「自分には脱毛は必要ない」という考えになっていた。
 
実はこの友人の話を聞くまでに、介護脱毛の話を聞きくための予約を入れていた。キャンセルするのは簡単だが、一度話を聞いてみてもよいかも? とそのまま話を聞きに行くことにした。
小さなワンルームマンションの中に、エステサロンに置いてあるようなベッドと機械、簡単な机と椅子、そして化粧台が置かれた清潔感のある部屋に通され、若い女性スタッフが説明をしてくれた。
「40~50歳くらいのたくさんの方が、自分のためではなくご家族の介護の負担にならないようにと、脱毛に来られています」
この店はいわゆる美容脱毛の種類で、光を当てて脱毛を行なう。光が黒い髪を通って毛根までたどり着き、毛根を失くしてしまうために毛が生えなくなる仕組み。つまり、黒い髪しか光を通さないので、白髪では脱毛できない。
髪は全ての毛穴から同時に生えているわけではない。全体の5分の1くらいの毛穴から毛が生えており、それは一ヶ月程度で抜けてしまう。残りの毛穴も順番に生え変わっていき、全体的には大体5ヶ月程度ですべての毛が生え変わるサイクルとなっているらしい。光脱毛を行なうのは施術から一ヶ月を目安に行なう。これは毛の生え方のサイクルに合わせているもので、早い人なら3ヶ月くらいでかなり薄くなる。脱毛した後に生える毛は細くなり、毛穴も小さくなっていくために大体5~10ヶ月で完全に脱毛するという仕組みになっている。
 
なるほど、仕組みはよくわかった。
私は質問をあれこれぶつけてみる。
「この年でツルツルはちょっと恥ずかしいんです」とたずねると、「そういう方は多いので、前のVの部分は残してIとOを脱毛されますよ? 風呂場で下からのぞき込む人なんていませんから」と返事をされる。ちなみに、Vは恥骨の上にある正面から見えるいわゆる逆三角形の部分でVゾーン、Ⅰは女性器の周辺でOは肛門である。
「私はとても肌が弱いのです。日焼けをするとただれるほどなんです。」そう伝えると「この器械は10段階で光の強さを変えることができるんです。肌が弱い方には子供向けの弱い段階のものを利用します。その分効果は弱くなりますがダメージは減ります」と説明をしてくれた。なるほど、子供も施術できる店であれば安心なのかもしれない。「施術後はとても乾燥するので保湿をしてケアしていただきます」との補足もあった。
 
「10回近く通うとなれば金額も高くつきますよね?」の問いに金額についての説明が始まった。VIOのセットで一回に約9000円、IO(V無し)であれば一回約5000円、この店はコース設定を行なっていないので、好きな回数を受ければよいとのこと。「ツルツルが恥ずかしいのであれば、3回程度受けて毛を薄くするというのも一つの方法ですよ。介護を受ける際に毛が薄いとそれだけケアする方も楽になりますから」
確かにこの女性の言うことも一理あると思ってしまった。私の気持ちは脱毛へとググっと傾いている。このままここで話を聞いてしまうと、脱毛の予約を取ってしまいそうだ。
 
「ほかの店とも比べてみたいのです」と話を切り替え、様子をうかがった。もちろん相手はプロだから、嫌な顔をせずどうぞどうぞと自信たっぷりな顔をする。「大手さんもたくさんありますからね。ただ、大手のお店だと、この店のような個室ではなく、カーテンで仕切られたベッドに並んで施術をされるので、プライベートな話も隣に丸聞こえらしいですよ」とニコニコ話しかけてくる。「大手さんはお安い金額設定ですが、よくあの金額でできるなと感心してるんです。うちの金額設定は高いですが、高いなりの良い器械を使っていますから脱毛のスピードも速いんですよ?」と畳みかけてきた。「他店さんで施術された方が、こちらに来られて驚かれています」そういう営業トークは話半分に聞く必要はあるが、自分の今の仕事にも通じる部分はあると感じた。
 
私はマットやモップのレンタル商品のトップシェアの会社で仕事をしている。競合他社との徹底的な違いは、使用する薬剤量の差だ。この薬剤は高額のため、競合他社は薬剤を減らすことでコストダウンを図っている。トップシェアとは言え、金額もダントツに高いわが社の製品は、競合他社に金額ではかなわないため、顧客を奪い取られることもあるのだ。しかし、その仕組みを知っているからこそ、この女性スタッフの言う器械の良さが納得できるような気がした。だが大手の安心感もある。この辺りはもう少し調べる必要性を感じた。
 
この女性スタッフも脱毛しているとのことで、感想を聞いてみた。蒸れないことが一番快適らしい。「これはやってみた方しかわからない感覚だと思います」と彼女は言った。
 
店を後にして、帰る道すがら色々考えてみる。
介護施設に入るのであれば、脱毛は特に必要はないのかもしれない。友人に言われたように、もし今、私が寝たきりになるのであれば、そして自宅介護になるのであれば、脱毛しておくのも一つの方法であろう。
 
娘に報告すると、「やるなら医療脱毛でしょ」と言う。
 
脱毛方法の種類として、医療脱毛と美容(エステ)脱毛がある。
介護脱毛という言葉は多分、より多くの顧客獲得のため、ターゲットを高年齢層にまで広げるために作った言葉ではないだろうか? 介護脱毛をするとしても、方法としては医療脱毛か美容脱毛のどちらかになるのだ。
 
医療脱毛は医師や看護師が施術をしてくれる。肌に何かあったときに素早く対応ができることと、医療従事者ということもあり、レーザーを使った脱毛ができる。
美容脱毛はいわゆるエステサロン的なお店で、光を当てて脱毛を行なう。施術者はもちろん技術的な訓練を受けているであろうが、レーザーは医療関係者しか使うことはできない。そして、光よりレーザーの方が威力や効果が高いとされている。永久脱毛を望むのであればレーザーの方がより効果が高いとされているようだ。ただ、医療だからと言って健康保険がきくわけではない。つまり値段も医療脱毛の方がはるかに高く設定されている。
 
せっかくここまで調べたので、医療脱毛の話も聞いてみたくなった。名前は聞いたことがないが全国的に店舗を構える医療脱毛業者にカウンセリングの予約を取った。口コミではとても良い評価だったことと、VIO脱毛が5回で55,000円というキャンペーンが魅力的に見えたからだ。先に話を聞いた美容脱毛と値段は遜色なく、それなら少しでも効果が期待でき、安心して施術を受けることができる方が良いに決まっているからである。
実際に脱毛するかどうかは迷っていたが、腹の中では結構脱毛もありかも? と思い始めていた。
 
カウンセリングの前日に、受付の方から予約の確認の電話があった。そして、私自身の病歴や薬の履歴など、様々な情報を聞き出していった。なるほど、医療脱毛であれば事細かな情報をもとに施術してもらえるから安心できそうだ。私はアトピー性皮膚炎であり、肌が非常に弱い。腕や足に湿疹が出ていて治療中であると伝えた。すると電話の向こうで少し困ったような空気が流れた。「ご希望の脱毛箇所はどちらでしょうか?」そう聞かれてVIOですと即座に返事をした。「ホームページは見られましたか? VIOが55,000円と書かれていたと思いますが、キャンペーン価格なのです。キャンペーンとは全身脱毛とセットで施術を受けられる場合で、VIO単独であれば88,000円となります」
そうか、そうだったのか。少し残念な気持ちで、でも話だけは聞きに行きたいと考えを巡らせていた。しかし「どうされますか?」と聞く電話の向こうの声は、もう明らかに私を拒絶しているように感じた。全身脱毛ができない私は、もう営業の対象ではないと言われているような気がした。医療とは言え、この店も営業主義なんだなと感じた私は、一旦カウンセリングをキャンセルすることを伝え、電話を切った。
 
今、脱毛をするかどうか、どうでもよくなってきた気分である。
もし私が20歳そこそこなら、迷わず脱毛をしていたのかもしれない。生理の時の不快感の解消や水着を着るときのエチケットなどをスタートに快適な生活を送り、年老いたら介護をする家族のために脱毛をしていてよかったと思えるのであろう。
だが、どうしたものだろうか。
どうでもよくなったとはいえ、頭の片隅には脱毛に対する興味がうっすら残っている。まだ私の周りで、同じような年齢の知り合いが脱毛をしたという話を聞いたことがない。ああ、感想を聞いてみたい。いやそれより私が脱毛してみる方が手っ取り早いのか?
 
私の頭の中では今日も、脱毛に対する興味と、どうでもいいかという気持ちが戦っている。
 
 
 
 
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2022-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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