スキューバダイビングとMother Lake
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:上田聡代(ライティング・ゼミ4月コース)
Mother Lakeとも呼ばれる琵琶湖を眺めながら、この原稿を書いている。
訪れる回数は少なくなってしまったが、琵琶湖が一望できる産婦人科のレストラン。
ここにくると、心が和みホッとする。
もうすぐ赤ちゃんが生まれるのかな? レストランは私一人になってしまった。
琵琶湖の中って、何があるのだろう? と思いを巡らせた。
ふと、ある言葉を思い出した。もう25年も前のことを……。
「普段見られないものが海の中にはあるからね! だって知ってる? 地球の陸地は3割で、7割は海やからね!」
なるほど! 普段、キレイ! と目にしている風景や気持の良い光景は、氷山の一角なのだと思うと、その景色が見たくなっていた。
元々、興味があったワケでも、十分に下調べをしていたワケでもなかった。
ただ、その言葉に大きく揺さぶられた私は、スキューバダイビングのライセンスを取得することを決めていた。
ライセンス取得のための二泊三日合宿。
私の場合は、簡単ではなかった。小さな頃から水泳だけは得意だったので、大丈夫と思い込んでいたが、それは関係のないことだった。
10人程の参加者がいたのだが、私はそのほとんどをインストラクターとマンツーマンで過ごした。
ゴボゴボゴボ~ッ!
口の中に海水が激しく流れ込んでくることが何度もあり。
恐怖心でパニックになり浮上することも何度もあった。足が着く場所だったのに。
その度に口にした。「もうやめます」
「できれば、ここでやめてほしくないな。海の世界をみてほしな」と、無理強いすることなく根気よく応援してくれたインストラクター。その度に、頑張ろう! と続けることができた。私は、正にマンツーマンで課題をクリアしていった。
参加していた仲間と合流できたのは、合宿最終日のボート練習。
沖合に出た。海の色が違う。深いのだろう。怖くなった。逃げたくなった。
仲間は次々にカッコよく後ろ向きに入水していく。最後まで足が竦んで動けない。
しかし、その時には、すっかり信頼していたインストラクターが、「離れない」と約束をしてくれた。それだけを心の拠り所にして海に飛び込む。約束通り、インストラクターは手を離さないでいてくれる。
ロープをつたって浸水する。パニックを起こしそうになるが、その度に止まって、手を強く握って呼吸を整えてもらえた。おかげで、何とか潜れた。怖くないと言えば噓だっだが、潜ってしまえば平常心になれた。
浅瀬では見ることがなかった色とりどりの魚がたくさん。沈没船の探索。
3日間で初めて、「潜ることが楽しい!」と思えた15分間だった。
それからというもの、休みの度に、海で潜る生活。
何か上達することが嬉しく、新しく体験することに興奮していた。
翌年には、旅行も兼ねて、沖縄の久米島まで遠出。エメラルドの海!
しかし、いつもそばにいるインストラクターがいない。慣れていない海は怖かった。
浸水の時、パニックを起こしたものの、そこにいたインストラクターも心強く、ゆっくりとゆっくりと海の中へ連れて行ってくれた。
水深20メートル。
これまで経験してきた海は、これくらい潜れば真っ暗だった。太陽の光が届かないのだ。
だけどここは違った。明るい。どこまで透き通っているのだろうと思える透明度。
そのためか怖くない。解放感が溢れる。
はじめて、無重力状態を気持ちよく感じた。
ゆったり浮かぶ。
呼吸していることが居心地良い。
自分が生きていることを感じられる。
上方に、エイゆっくりと飛んでいる。
遠くでウミガメが泳いでいる。
不思議と心が落ち着き、懐かしい気持ちになる。
母のおなかの中で過ごした時間を思い出したのだろうか。
この日の感覚は、25年経過した今でも覚えている。
今、海に繋がる琵琶湖を前にして考えている。
琵琶湖にも表情があると、いつも思う。
ご機嫌、怒っている、泣いている、苦しそう……。
不思議なことだけど、どんな表情をしていても、いつも私のことを迎えてくれる。
私が落ち込んでいる時やつらい時も手を広げて包み込んでくれる。
Mother Lakeと呼ばれていることが納得できる。
赤ちゃんを宿っている母もまた、いつも穏やかではないであろう。
怒っている時、悲しい時、つらい時……。
それでも赤ちゃんを守っている。
歳を重ねてから思うようになってきた。
海・湖と母の子宮は、説明ができない次元でつながっているように感じる。
もしかしたら、「スキューバダイビング」の経験が関係あるのかもしれない。
羊水。それは、赤ちゃんを守り、育てる海。
母の子宮に満たされた羊水の中で赤ちゃんは育つ。
羊水は薄い塩水。塩分濃度は約1%。
それは海の中で脊椎動物が生まれたときの海の塩分濃度と同じだと言われている。
スタッフの歓声!
赤ちゃんが誕生したようだ!
***
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