道は、あった。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミNEO)
私は困っていた。
人は、問題が起こった時、困難に陥った時の方が、より成長ができる。
順風満帆だったら、どんどん良いものに変えていきたいと貪欲に思わない限り、そのままのやり方をしている方が無難だから、挑戦者意識が薄れてしまうこともある。
だから、問題が起こった時、困難に陥った時には、新しい成長のチャンスだと、喜べばいい。
……とはいえ、私は困っていた。
末っ子の保育園では、年長さんの登園時間は8時と決まっている。わが家から園までは車で約30分、遅くとも7時半までには、身支度をして家を出なくてはいけない。
しかし、末っ子は、寝起きがあまりよろしくない。
よろしくない、というかはっきり言って悪い。
年中の頃の登園時間は8時20分だったのに、園に着くのは大抵8時40分、重役出勤もはなはだしい。担任の先生からも苦笑いされるほどのお寝坊さんが40分以上時間を縮めて8時に園に着かなければいけない、しかも毎日。
目の前に突き付けられた問題をどのように解決するべきか、悩むところなのだ。
4月から8時登園になって約2か月、それでも、どうにかこうにか8時10分まで登園時間を早めることができた。でも、あと10分が縮まらない。
その10分を縮めるためには別の問題が浮上してきたからだ。
道が渋滞するのだ。娘が通う園のあたりは、古くからある町で、やたら道路が狭い。自分の家から少し離れているので土地勘がないから、なるべく車が通りやすい県道を選んで通るようにしていたけれど、その道路が朝夕の通勤渋滞がひどいのだ。しかも車が通りやすい道路はかなり遠回りで時間のロスがある。
しばらく、8時10分着を続けていたのに、日に日に1分、2分と遅れていく。ある日とうとう、担任の先生が娘に直接、「もう少し、がんばって朝早く来ようか!」と言った。彼女はしょんぼりとうなだれる。でも、先生は、彼女を通して私に言いたかったのだということがわかった。娘経由の変化球は、私の胸にドスンとささった。
どうにかしないと。彼女をあと10分早く起こすか、その他どこかで10分短縮できないか。
もっといい近道がないか、探してみようか。
園を出た後、近くのコンビニに停めて、ナビの地図を拡大して、周辺の道を見る。
すると、保育園の裏側の細道がいつも渋滞する道の手前くらいのところに繋がっていることに気づいた。
こんな道、あったっけ……? 1年以上、毎日通っているのに、全然気づかなかった。でも、このあたりの道はとても狭いから、とりあえず下見がてら通ってみよう。コンビニの駐車場を出発して、再び保育園まで戻る。
いつも通るのとは別の道を通るのは、少し緊張する。いきなり袋小路に入ったり、道が細すぎて、反対側から来る車とにらめっこになることだってある。運転が苦手な私にとっては、細い道は綱渡りをするようなものだ。娘の保育園からは、軽快なピアノの音が流れて来た。その音楽に背中を押されるように車を進める。
娘よ、お母さん、頑張るからね!
保育園の道を下っていくと左か右に曲がる道しかないと思いこんでいた。でも、ナビの地図が指すように、確かに、一本の道が見えた。家の石垣が大きく出っ張っているから、今まで道があることにすら気づけなかった。秘密の道を発見したみたいでワクワクする。
細い道を最徐行で進んでいくと、くねくねと曲がりくねった道ではあるけど、ほぼ一本道で坂の手前の道まで出る。ナビはここから、曲がりくねった道になっているけど、画面だと平面だから高低差がわからない。目の前にそびえている道は、かなり勾配のきつい坂道だった。アクセルを踏み込んで視界の悪い曲がりくねった道を通り切ると……目の前に、いつも、通っている大きな県道が現れた。
左手に個人の電気屋の看板が見える。県道だけで園に行くとしたら、ここからさらに大回りしないといけないから、この近道を使えば、相当早く行けそうだ。
大きなため息が出た。小さな冒険をクリアしたような気分で、小鼻がひらく。道なんて他にはないって思い込んでいた。細くて通りづらいけれど、確実に渋滞にハマらないルートがあった!
ここを通れば、明日から、娘を送る道は、確実に5分以上短縮できる。いや、渋滞していたら、10分近く縮まるかもしれない。
急に体中がポカポカしてくる気がした。新しい道を発見しただけなのに、急に目の前が開けたような気分になる。
見つけた日の帰りのお迎えから、私は新しい道を通って、園へと通い始めた。朝は、家を出発する時間をあと5分早くして、合わせ技で朝8時の登園に余裕で間に合うようになった。
娘も先生に「早く来られるようになってすごい!」と褒められて嬉しそうに園舎の中に消えていく。その後ろ姿を見送って、私もニンマリしながら園を後にする。
車を走らせながら、こういうことって、日常生活だけではなくて、仕事でもあるなあと思う。
本当は、もっといい方法はあるけれど、その方法は、ちょっと見えづらかったり、努力しないと見つけられないところにあったりする。どうしても困ったことが起きた時に、他の手を探したり、色々試したりするとパッと自分の前に現れてくれる。
見つけてみると、なんだ、そんな簡単なことでこんなに便利になるなんて、と思うのだけど、普段だと、自分が現状のままで特に不足がないからと見過ごしていたりする。
でも、ちゃんと道はある。
きっと、その道は、私達が模索してくれることを待っている。
だから、いつも新しい気持ちで、色んな道を探したら、きっともっとワクワクできることがあるはずだ。
求めよ、さらば与えられん。
***
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