あの宴に資本主義の現実を見た
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小川大輔(ライティング・ゼミ4月コース)
ぽっつーん。
周りは賑やかなのに僕は一人ぼっちを表現する言葉に取り囲まれている。
ここは大阪の繁華街にある某所。車のクラクション、街の明かり、人の話し声がうっとうしい。雨に濡れた野良犬のような気分。現実を突き付けられ、半ば放心状態で家路につく。
……お見合いパーティーという名の狂乱の宴から。
当時働いていた会社の人からその宴の存在を聞いたのは、僕がまだ20代の頃である。
「へー、そんなイベントあるんですね」
その名の通り、恋愛や出逢い目的の男女が参加するのがこの宴だ。話を聞いてみると実際に会社にはそのイベントに参加し、そこで知り合った女性と結婚までした人がいるという。僕には結婚願望はなかったが、「なんか面白そうだな」と興味を持ってしまった。
インターネットで調べてみるとびっくりするくらい出てくる。出逢いを目的にしたものから、本気で結婚相手を探そうとするものまで、実にたくさんの種類がある。しかも毎週のように行われている。僕の知らない所でこんな面白そうなイベントが開催されているなんて……!
それからちょこちょこインターネットで眺めていると興味はだんだんと大きくなっていってしまった。「面白そうだし行ってみようかな。でも待てよ」申し込もうとする自分に待ったがかかる。当たり前のことだがここに参加するということは、知らない女性と話をすると言うことだ。そして自分を売り込まなければならない。しかも僕のスペックは宝くじで3億円当たる確率くらい低い。まず顔が不細工。太ってはいないが、身長も162㎝しかない。自慢じゃないが頭は連続殺人犯の人相の如く悪い。これをどうしろというんだ? 事故車を修理せずに売りにいくようなもんじゃないか。相手になんてされるのか?
などと躊躇もあったが結局最終的に興味が勝ってしまった。
「あの~、これに申し込みたいんですけど……」
友達ができたら大成功くらいの甘い考えで僕は禁断の扉を開けた。
当日、時は夕刻。決戦に臨むため装備を整える。身だしなみは多分、清潔には見えるはずだ。低身長だが。
会場に到着し、受付をすませる。さてさて、これからどんなことが起こるのやら。期待と緊張の入り混じった変な感覚で席に着く。コの字に並べられた長机を挟んだ対面には宴に参加している女性陣がずらっと座っている。女性は長机の外側、男性は内側に配置されているという構図だ。僕は一人で乗り込んできたが、ほとんどの人は男性陣も女性陣も友人と一緒に来ている。アウェー感が半端ではない。
「すごい所へ来てしまった」
しかしもう後へは引けない。低スペック男の意地を見せよう。
机には自分のプロフィールを書く紙が置いてある。何に使うんだ? よくわからないまま適当に記入する。もちろんウソは書かない。そうこうしているうちに司会の人が宴の幕開けを告げた。
「それではまず皆様と顔を合わせるために男性が左回りに回って1周し、女性全員と握手をして自分の席に戻ってください」
なに! いきなりそんな高度なことをするのか!? そう思ったが考えている暇はない。男性陣が一斉に左に動き始めた。「こんちは~」ひきつった笑顔で女性陣と挨拶を交わす。視線に射抜かれるような気がした。
「そうか、ここではおれは商品なんだ。みんな本気なんだ」そう感じた時、他の参加者の真剣な眼差しが妙に腑に落ちた。
1周して自分の席に戻った後、司会の人の指示でさっき書いた自分のプロフィールを持たされ男性陣だけが席を立ち、会場の中央に集められる。何が始まるんだ? そう思っていると司会は戦慄の一言を発した。
「では男性の皆さん、気になった女性のところへ行って先ほど書いていたプロフィールを使ってお話をして下さい。女性お一人に3分までです」
なんてこと言うんだ!? いきなりそんなこと言われても……。そう思う間もなく、周りの男性達は女性の前の椅子へまっしぐらだ。まるで合戦の始まりを告げるホラ貝の音を聞いたように。その速さたるや電光石火の如し。
「待て待て! この状況でいきなり動けるってことは展開がわかってたってことだよな!? みんな絶対初参加じゃないだろ! 猛者しかいないじゃないか」
おろおろしながら僕も初対面の女性の前の椅子に座りプロフィールを交換して話を始める。なるほど、さっき書いた自分のプロフィールはこうやって使うのか。お互いのプロフィールを見ながら会話している自分を客観的に俯瞰している自分が囁いている。
「なんか自分を売り込むというより、相手を面接してるみたいだな」
炎の3分1本勝負、数名の女性と会話をさせていただいた。そして最後に女性側から気に入った男性に投票していくというシステム。
戦いは終わった。結果は……お察しいただきたい。
この日僕は、商品として見た場合の自分の市場価値を残酷なまでに突き付けられた。市場価値のある男性には嫌というほど投票があつまり、相思相愛になった人達もいた。
僕も自分の身の程は分かっているつもりで、友達が出来たら大成功と考えていたがそれすらも甘かった。
お見合いパーティーは資本主義の極致である。自由競争の中、良い商品は勝ち残り、価値の薄い商品(僕)は淘汰される。こんなにわかりやすい構図はない。お見合いパーティー恐るべし……。
今後も現実に直面する覚悟のあるものだけがこの宴の深淵を見るのだろう。
かなり刺激的な体験だったが自分の市場価値をこれほどまでに実感したのはいい勉強になった。
あれからずいぶん年月が流れたがあのころと比べて今の僕はどうだろうか。
ぽっつーん。
今孤独の音がした。
誰かこの未修理の事故車に優しくしてあげてくれませんか?
エンジンがなくても必死で生きております。
***
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