メディアグランプリ

推しに押されて沖に出る


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤 みー作(ライティング・ゼミNEO)
 
 
新しい推しができた。
イケメンの5人グループでもなければ、ダンスが上手い9人グループでもない。
よりによって同世代の同性である。
 
彼女を知ったのは、彼女が配信しているポッドキャストの番組がきっかけだった。
毎月、鍼を通して身体を見てくれている先生から勧められたのは、むしろ彼女の相方のSさんの方だった。
「みー作さん、Sさんのこと絶対好きだと思うから、聴いてみて!」
 
同年代の2人が配信しているポッドキャスト番組にドはまりした。
 
Sさんはもともと彼女の書くエッセイを良く読んでいたし、ポッドキャストで話す話もその延長線上で楽しかった。
でも、聴き続けているうちにいつの間にか、Sさんよりも彼女に心を奪われ始めていた。
 
「彼女はいったい誰?」と検索して驚いた。
 
東京のキー局のアナウンサーの彼女は、優等生的な存在だったと思う。
スポーツ選手や有名人と浮名を流すこともなかった。
メインキャスターを務めるような番組も持っていなかった。
けれど、発音もイントネーションも完璧。
物議をかもすような発言など絶対にしない。
いつの間にか結婚していて、子育ても終えていた。
スキャンダルとは無縁で、後輩アナウンサーのお手本となり、決して道を踏み外すことなく、定年まで勤めあげるだろうと誰もが思うようなそんな存在だった。
 
なのに、ポッドキャスト中の彼女は見事に私の期待を裏切った。
 
時にはびっくりするほど、あっけらかんと下品とも思われる声で笑い転げていた。
「パワー」という言葉を「パゥワー」とふざけて英語調に言おうとするし、しかも、よく言い間違えるし、よく噛んでいた。
歌を歌えば音程を外しまくり、勘違いもよくしていたし、失敗も甚だしいことが分かった。
リスナーの子育ての失敗を指摘して、そのままブーメランを自らの額に受けていたこともあった。
「収入印紙600円ください。」というどうでもいいセリフを色々なシチュエーションで言ってみるというこれでもかというくだらないチャレンジをして、電車の中で聴いていた私はうっかり声を上げて笑ってしまったこともあった。
マスクをしていたことに初めて感謝したのはこの時だったと記憶する。
 
そんな彼女に俄然、親近感が湧いて、彼女は私の推しになった。
いつの間にかSさんではなく、彼女の為に番組を聴くようになっていた。
 
彼女の名前は堀井美香。
 
TBSのアナウンサーである。
そんな堀井さんが、50歳を迎えた。
定年まで勤めあげるであろうと誰もが思っていた期待をみごとに裏切り、彼女はTBSを退職した。
「沖に出る。」と言って。
 
退職後はフリーアナウンサーを沢山抱える大手事務所に所属するわけでもなく、個人のホームページは自作で、しかも検索しても上手く表示されないと言っていた。
おまけに次の仕事が大して決まっていないのにも関わらず、朗読の会の為に大きな会場を予約してしまったという。
よりによって2日程も。
 
「なぜ? どうして? なんでそんな冒険に出るの?」
 
勝手に堀井さんの将来を案じて、もし朗読の会のチケットが1枚も売れなかったら、私が全部買ってあげるとまで思っていた。
推しの為なら、当たり前である。
そしていざ迎えた朗読の会のチケットの販売日。
チケットは10分足らずで完売して、私は1枚もチケットを手に入れられなかった……。
 
推しの晴れの舞台を直接お祝いできない悔しさをかみしめながら、この手の50歳を機に沖に出る冒険話は数年前から周囲で発生していたことに気付いた。
 
50歳を機に有名企業の役員クラスだったのにベンチャー企業に転職したママ友もいた。
50歳を機にフォロワーが沢山いたSNSを突然辞めた友人もいた。
50歳を機に都会暮らしを辞めて田舎で畑を開墾し始めた人もいた。
 
「でも、なんで、なんで50歳なんだろう? わたしも50歳になったら、なんかチャレンジしないといけないのかな?」
ともやもやしているうちに自分の50歳の誕生日を迎えた。
 
40代最後の日は、久しぶりにカラオケを歌い、踊り、はしゃいで過ごした。
日付変更線をまたぐ頃はかれこれ10年近いお付き合いになる仕事仲間と美味しい日本酒を飲みながら、誕生日を祝ってもらっていた。
楽しかったし、自分は幸せだと心から思った夜だった。
 
翌朝、酔いから覚めて、改めて50歳という年齢をかみしめる。
人生が100年だとすると、半分まで来てしまった。
あとまだ50年もあるとすると、精神的にも肉体的にもこれまでの50年とは明らかに違うだろう。
60歳が定年だとすると残された時間はあと10年。何ができるだろう?
定年後も働きたいと思ったら、今から準備できることって何だろう?
 
そんなことを思っているうちに、なんだか、人生のラストチャンス感が急激に襲ってきた。
そして、これこそが50歳を機に冒険に出る理由なんだと気づいた。
 
いままで、チャレンジをしてこなかったかと聞かれれば、どちらかと言うとチャレンジをしてきた方だと答えられると思う。
だけど、沖にでるような安全圏を出るようなチャレンジかと問われると自信がない。
 
最後のチャンス、私にとって、沖にでるような一番怖いチャレンジってなんだろう?
 
ひとまず、今までビビッてできなかった自分の書いた文章を初めて拡散してみることにした。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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