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伯母は甥に気に入られたい

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記事:川端彩香(ライティング・ゼミNEO)
 
 
実家に帰った。ゴールデンウィークぶりだった。
もうすぐお盆なので、そんなに急いで帰る必要もなかったのだが、実家方面へ出張に行ったついでに帰ってみた。交通費も経費で落とせるし、という少々ケチな理由も少しある。
 
私には甥がいる。妹の子どもで、もうすぐ3ヵ月になる子だ。4月下旬に産まれたので、ゴールデンウィークを実家で怠けて過ごそうと思っていた私には、想定外すぎた。里帰り出産だったため、誰も私に構ってくれず、構ってくれないどころが甥の育児要員として駆り出される事態となった。私のゴールデンウィークは、甥と共に3時間おきに目覚め、ミルクをやり、オムツを替える、というなかなかハードな連休となった。
 
その甥と、今回の4泊5日の帰省中に、3回も会った。あとの2回は、在宅勤務と祖母の家に行った。つまり、フリーの3日間を甥に(というか妹)に埋められてしまった。
 
拒む理由もないので会っていたのだが、甥は驚くほどに大きくなっていた。まだ3ヵ月経ってはいないよな……? と思えるほどの貫禄だった。
落ちそうなくらいふくふくとした頬っぺた。あまりにもふくふくとしているので、顎がとても小さく見える。そしてそのふくふくさ故に、首が見えない。夏だから蒸れてしまっているのか、普通にしていれば赤ちゃん特有の柔らかい匂いがするのに、首の埋もれている部分からはどこかのオッサンの臭いがする。まだこの世に産み落とされてから3ヵ月弱の甥から、この世に産み落とされて40年以上経過しているオッサンの臭いがする。なんてことだ。
 
腕や脚は、SNSで見るような、ちぎりパンを彷彿とさせるムチムチ感である。そのムチムチ具合は、まるで私が大学生の時に夜行バスに乗り、ブーツを脱いで爆睡をかまし、翌朝の降車時に脚がむくんでブーツが入らなかった、まさにその時くらいのムチムチ具合だった。
 
そして謎に寄る眉間のシワ。なぜだ。何があったんだ。まだ3ヵ月も生きていないのに、何をそんな眉間にシワを寄せてブスな顔をする出来事があったんだ。「誰だテメェ」とでも言いたそうな顔をして私を見てくるけれど、「伯母です。あなたが産まれたての時にくつろごうと思って帰ってきた実家でひたすらあなたの世話の手伝いをさせられ、なぜか連休明けなのに寝不足で出社してみんなになんでそんなに疲れた顔をしているのか? と聞かれた伯母です。よろしくお願いします」としか言いようがない。そう言いたいところでもあるが「伯母やで」とサクッと挨拶し、落ちそうなふくふく頬っぺを失礼する。赤ちゃんの頬っぺたと犬の肉球は人々を幸せにする、と思っている。私は幸せになった。
 
決して私が悪いわけではないのだが、今回の帰省で会った3回とも、甥のご機嫌はあまりよろしくなかった。私が抱っこするとだいたいの確率で泣き叫んだ。いや、なんでやねん。お前は生後間もない頃の伯母の恩を忘れたのか。確かにゴールデンウィーク以来会ってなかったけど。両親はじめ、もう1人の妹や従姉弟はしょっちゅう会ってるみたいやけど。全然会ってないの私だけっぽいけど。でも私、産まれたてのあんたを世話したうちの1人やねんけど(恩着せがましいのは承知の上でこれを書いている)!?
 
そんな甥、どうやら絵本にハマっているらしい。どれだけご機嫌ナナメでギャン泣きしていても、絵本を開くとピタッと泣き止むらしい。
 
ほう、なるほど。
 
伯母もやってみようと思い、妹から甥を預かり、抱っこする。すると瞬く間にギャン泣きする甥。計画通りではあるが、少しのイラっとと、少しのショックが混じり複雑な気持ちの伯母・私。複雑な気持ちではあるが、計画は遂行しなければならない。いかん、いかん。少々乱された気持ちを平常心に戻しつつ、ぬいぐるみのような甥を、ぬいぐるみのように膝の上に乗せる。いや、ほんと、どこかのテーマパークでクマのぬいぐるみの棚に置かれていてもわからないくらいのムチムチ具合だな。ちなみにこれは褒めている。
 
2人で同じ方向に向き、視界を絵本で遮る。するとさっきまであんなに泣き叫んでいた甥が静かになった。眉間にシワもない(たぶん。見えないからわからないが)。そして私は初めて絵本の朗読をする。記念すべき、伯母の絵本朗読デビューである。
 
「ぶたさんゴロゴロ、ころころころ~~~」
「ぞうさん水遊び、ぷしゃーーー」
 
読んでいると、静かだった甥が手足をブンブンさせて大喜びしている。そして、ケラケラと笑っているではないか!
 
気を良くした伯母は、同じ絵本を3回、4回と甥の気が済むまで読み続けた。甥は何を言っているのかまったくわからないが、「あーーー」だの「うーーー」だの言っている。手足のブンブンがだんだん力強くなり、私は顔をグーパンで殴られたり、太ももにかかと落としを喰らったりしていた。それでも甥がご機嫌になるならば、と地味な痛みに耐えながら絵本を読み続けた。
 
そうこうしているうちに、私も実家を出る時間になった。甥のご機嫌になってくれたところだったので離れ難くはあるが、「今から絵本好きとか、将来めっちゃ賢くなってまうんちゃうか」といかにも親バカな妹を横目に帰途に就いた。心配するな、妹。我らのDNAを継いでいるのだよ。そんなに賢くはならないよ。
 
そんなことを思いながらも、お盆に帰省する際は絵本を大量に買って帰ってやろう。ボーナスも入って財布もホクホクしているし。
そう考える私も、親バカならぬ、立派な伯母バカなのだろうなぁ。
 
 
 
 
***

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2022-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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