ひねくれたアラサー女が元彼を見返すために費やした2年間の結果と、そんな女に再会した元彼の反応について
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川端彩香(ライティング・ゼミNEO)
ついにこの時がやってきた。私の2年間に及ぶ復讐劇に終止符を打つ時が。
始まりは2020年7月、当時付き合っていた彼氏に振られたことから始まる。何の話し合いもなく、しかもLINEで「別れよう」と振られてしまった。向こうとしては少しずつでも心境の変化があって出した結果なのかもしれないが、何も聞かされていなかった私にとっては寝耳に水案件だった。「直接会わないと別れません」と彼に連絡し、結局その日の夜に会って正式に別れを告げられ、怒り狂った私は彼の目の前で連絡先やら写真やらの諸々を消去し、私たちはそれで終わった。
それからと言うものの、彼を引きずりながらも「変わりたい」「何かを変えたい」と思うようになった。彼に関するデータはスマホから抹消したので私から彼に連絡を取ることはないが、今後万が一彼と街中でばったり会った時に「ああ、俺はなんて良い女を振ってしまったんだ」と思わせてやりたいと思ったし、「付き合ってた時より可愛くなってるやん……」と後悔させてやりたいと思ったのだ。そう、要するに、見返してやりたいと思ったのだ。我ながらひねくれた考えではあると思うが、そうでもしていないと精神を保っていられないところもあった。
翌日からYouTubeで筋トレ動画を見漁ってやってみたり、食事管理をやったりと、ダイエットに取りかかった。1年と少しで目標の-10㎏を達成した。少しずつ痩せたから、ダイエットを始めて2年経った今も大きくリバウンドはしておらず、ほぼ現状維持だ。
体型が変わると他のところも気になり始め、パーソナルカラー、骨格、顔タイプ診断という3種類のイメコン診断を受けた。これにより自分に似合う髪色、髪型、コスメや服の色、服の形やテイストがわかるようになった。もうこうなれば無敵で、その結果に基づくものを自分でカスタマイズするだけでビックリするくらい垢抜けるのだ。
見た目が変わることは、他人から見て中身が変わるより明確に「あの人、変わったな」ということがわかりやすい。友人や会社の人たちに「変わったね」と言われることが多くなった。
痩せただけでなく筋トレで適度に筋肉もついたため健康的な身体に見え、パーソナルカラー診断に基づいて顔色が良く見える色を身に着けていたので、「なんか最近調子良さそうだね」と言われるようになり、仕事ではもちろん辛いことやしんどいこともたくさんあったが、結果この夏に平社員からステップアップして役職に就けた。
外見ばかり磨く私に、取引先の仲良い50代女性は「中身も磨きなさい! 本読め!」と言い、私もそれに素直に従い毎月自分でノルマを課し、本を読むようになった。ダイエットの目標が達成した時に「何か形に残したい」というある種の負の感情からライティングゼミで文章を書く勉強もした。初めて書いた『彼氏に振られたので10㎏痩せてみた』は、初めて書いたのにゼミの週間ランキングで上位にランクインしたし、友人からもかなり好評だった。
順調だった。仕事もプライベートも、もちろん楽しいことばかりじゃなかったけど、泣いたことも怒ったこともたくさんあったけど、彼に振られてからの私は振り返ってみても今までの人生で人として一番大きく成長して変われたと思った。友人はじめ、たくさんの人に励ましてもらって支えてもらってだけれど、私はこの2年で変わることができたし、2年前までの自分より今の自分の方が好きだ。総合的に見て、順調だった。
そんなある日、お風呂から上がってスマホを見ると、知らない連絡先からメッセージが届いていた。2年前に私を振った元彼だった。
今さらなんだ、と思いながらも「返信してみたら? 2年あったし、あなたが変わったように彼も変わってるかもしれないよ」と友人が助言してくれ、それも確かにそうかもしれないなと思い、私はそのメッセージに返事をした。
何通かメッセージをやり取りし、ご飯に行くことになった。正直、会って何を話せばいいのかという思いもあり複雑ではあったが、頭の中に浮かんだのは「そもそも私は、こいつを見返すために変わったんだから、会ってその姿を見せびらかすべきではないのか?」という考えだった。そして「可愛くなったね」と思わせるだけでなく、言わせること。私を振ったこと、私と別れたことを激しく後悔させてやろういう考えだった。
ひねくれた女だな……と思う人もいるかもしれない。でも私は、私が過ごしたこの2年間の成果を発揮できる絶好のチャンスを逃したくなかっただけなのだ。一生訪れることがないと思っていた絶好のチャンスが、棚ぼた状態で目の前に落ちてきたのだ。これを逃す選択肢はあるか? 否、ない!!!
日はあまりなかったが、私は最終調整と銘打って、最近サボっていた筋トレや軽い食事制限を再開した。会う友人たちに当日着ていく予定の一張羅を見てもらい、それに合うアクセサリーを買うのについて来てもらったり、髪型の相談をしたりと最終調整を行った。当日はたまたまではあったが美容院に行く予定が入っていたので美容師さんにも事情を話し、二人で討論した末「気合いが入りすぎていないように見えるけどちゃんと可愛い髪型」にセットしてもらい、「大丈夫! めっちゃ可愛い!」と美容師さんに太鼓判もいただいた。万全すぎるぐらい万全の状態で元彼を迎え撃った。
そこまで準備するって、まだ気があるのか? と思う方もいるかもしれない。だがそれh違う。スポーツで試合に臨むまでに必死に練習して、試合前に最終調整を行う選手のように、ウエディングドレスを着る花嫁が結婚式のために体型を絞っていくように、私も来る復讐劇のために最終調整を行っただけなのだ。未練も何もない。ただ私は、この2年間、ただ「変わりたい」と思って様々なことに挑戦し、実際に変わった私のことを大事にしてあげたかったし、この努力が報われてほしいと思っただけなのだ。
そしてその時はやってきた。宿敵・元彼と再会した。
なんでいきなり連絡してきたのかとか、仕事が忙しいとか、そういった話をしていた。話題が一段落すると、ふと彼が「付き合ってた時より髪の長さ短くなったし、髪色も明るくなったし、変わったよな」と言った。そして「今の方が良い。可愛くなった」と。
思わず笑みがこぼれた。嬉しかったのだ。彼に可愛いと言われたことが嬉しかったのではない。見返すことを目標にダイエットやら何やらを始めた当初の「元彼に可愛くなったと言わせる」という目標を達成したことが嬉しくて笑みがこぼれてしまったのだ。
もう一回聞きたいと思ってしまった良い性格をしている私は「え? なんて?」と聞こえないフリをしてもう一度言わせた。そして言ってやった。「知ってる。私もそう思う」と。
彼は「えらい自信やな!」と笑っていた。でも、事実だ。私には2年間、変わりたいと思って努力をしてきたという自負がある。だから、自信を持って「今の私の方が良い」と言えるし、元彼の発言にも共感できる。私の可愛さは生まれ持ったものではなく、私の努力と気合いで作り上げたものなのだ。
目標を達成した私は満足したので、振られたから変わろうと思って自分磨きを始めたこと、そしたらあらゆることが順調に回り始めたこと、だから当時より今の自分の方が好きなこと、当時は悲しかったし結果論だったけれど、別れて良かったと思っていること、振ってくれてありがとう、ということを伝えた。彼は「あの時に別れたことは後悔していない」と言っていたけれど、お酒が進むにつれて「こんな可愛くなってると思ってなかった」だの「めっちゃ良い女に成り上がってるやん……」とポロポロ言い始めた。お酒が進んだことによる本音なのか、逆に口から出まかせなのかはわからないが、私は心の中で「ざまぁ」と思った。思っただけだと思っていたのだが、彼に「いや口から悪い言葉出てるよ」と言われ、あまりの気分の良さに、指摘された時に初めて「ざまぁ」が口から飛び出してしまっていたことに気付いた。彼が笑ってくれていて良かった。
彼が寄りを戻したいのかどうかはわからない。しかし、当時と変わった私を見て好意的に感じているということはその後も話していてよくわかった。
ただ、私からは今後も連絡をするつもりは一切ない。彼に未練はないし、今回再会したことによって復讐は果たせたし、この2年間頑張った自分も報われたし、私は確実に前に進めている。冷たい言い方にはなるが、「可愛くなった」という言葉を引き出せて目標達成した私は、もう元彼に用はない。好意を寄せてくれる人なら誰でもいいとは思わない。
「私からは一切連絡しないけど、そっちが連絡くれるなら返事するかもしれないし、ご飯も予定が空いていたら行くかもしれない」と今まで言ったことがないような、「お前どこのええ女やねん」というツッコミが飛んできそうなことを言ってみた。でも聞いてほしい。私はええ女になったのだ。こんなことを言えるような、余裕のあるええ女になったのだ。
ということで、今後元彼とは何かあるかもしれないし、ないかもしれない。正直、どっちでもいい。上手くいかなかった私たちだけれど、ただ変わらず私の中にあるのは、やっぱり「振ってくれたありがとう」ということだ。悲しかったし腹も立ったが、そういう意味では彼に出会えて良かったと思える。綺麗事に聞こえるかもしれないが、意味のない出会いというのはないのかもしれないなと思った。
となると、目下の議題はやはり「なぜこんなに良い女になった私にいまだ彼氏ができないのだ」という一点だけなのだ。さて、この議題解決には一体どれくらいの期間を要するだろう。この議題を解決した時、私はまた元彼に「ざまぁ」と思ってしまうのかもしれない。
これだけ変われたのに、ひねくれた性格と少々の口の悪さは2年経ってもやはり変わらない。
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