夜空を見上げていたらUFOがやってきた話
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記事:小林 美紀(ライティング・ライブ 東京会場)
小さなころから夜空を見上げるのが好きだ。
母が時々、夜の散歩に連れて出してくれたからだろうか。
夜に外に出るという特別感は、まだ幼かった私たちをいつもワクワクさせた。
夜に見る山の木々は黒々として、風に揺れる様はまるで恐竜のようだったし、遠くに見える桜島は、噴火すると赤い火花を見せてくれた。
夜の散歩で、母の一番のおススメは「稲光」だった。
「ほらね、すごいでしょ。かっこいいね~!」
畏怖という言葉がぴったりな稲光は、すぐに私たちのお気に入りとなった。
真っ暗な空を一瞬で明るくする稲光は、地球のエネルギーそのものだ。
夜の散歩は私にとって、地球という天体に立っていることを直に感じられる時間だった。
そういうわけで私は親になると自然に、子どもたちと夜の散歩を楽しむようになった。夜、歩いていると、ねこたちの秘密の会合に遭遇したり、偶然、火球などの大きな流れ星を見たりすることもあった。
流れ星はなかなか見られないが、ISS(国際宇宙ステーション)だったらJAXA(宇宙航空研究開発機構)のホームページにISSが見える方向や日時が正確に書いてあるので、その通りの場所に待機して夜空を見上げていればちゃんと見つけられる。
そんな夜の散歩好きな私だが、これまでで最も忘れられない夜空があった。
それは、英国スコットランドに滞在していた時のこと。私は、友人とバーでビールを一杯だけ飲み、湖の周りにある小道を通って帰りながら、夜の散歩を楽しんでいた。
私たちは昼間に、湖のほとりで白鳥に追いかけられてコワイ思いをしたばかりだったので、その時のことを思い出し笑いしながら、ギャングと名付けた白鳥がまだどこかに潜んでいないか湖の方をキョロキョロ見て歩いていた。
ギャングがいなかったので、安心して湖のほとりに座り、夜空を眺めていると、ある小さな星が急に大きくなりはじめた。2倍いや3倍くらいの大きさになり、輝きはじめた。
「ゆうこちゃん見て! すごいよ。私たち超新星爆発を目撃しちゃっているのかも!」
超新星爆発とは星の終わりのことで、もちろんめったに見られるものではない。
昔読んだ小学生向け宇宙事典くらいの知識しかなかったが、それでも大興奮だった。
やがて、その星はどんどん明るく大きくなり、また小さくなっていった。
「おお! 超新星爆発の後は、ブラックホールができるんよ。これからあの場所はブラックホールになるかもしれん。すごい。わたしたち星の終わりを見とる!」
星の終わり、つまり一つの星の死を厳かな気持ちで見ていたら、なんと! 消えたはずのその星が再び大きくなってきた。そして小さくなり、また大きくなり、小さくなり……。一体全体これはどういうことだ。私の超新星爆発説がだんだんあやしくなってきた。
「これは……なんだろうね???」
答えはすぐにやってきた。その星が横に飛んで行ったのだ。なに!? 飛行機? と思ったとたん、その星は再度夜空を大きく横切り、消えた。
「人工衛星が落ちた? サーチライト? それとも、誰かのいたずら???」
ネッシーで世間を騒がせるなど、いたずら好きのイギリスだ。これはまんまと騙されているのかもしれない。せっかく超新星爆発が見られたと思ったのに……。
残念に思っていたら、その星がまたひょっこり現れて、今度は数が増えた。8個はあっただろうか。点滅したり、瞬間移動したり……。うーん、こんなこといたずらを人間ができるのだろうか? 山のずっとずっと上だ。まだドローンなど開発もされていない時代だ。
近くを歩いていたイギリス人に「あれ、UFOじゃない?」と話しかけたら「そうだね」と軽く返事され、たいして驚かれなかった。UFOは彼らにとって珍しいものではないらしい。
これは絶対UFOだ。おお! 私たちUFOを見ちゃった。超新星爆発ではなかったけれど、UFOならもう少し見ていようか、とまた二人で夜空を見上げていた。
最初に発見してから30分くらい経っただろうか。
相変わらず、星たち、いやUFOたちはあちこち動き回ったり、消えたり出てきたりしていた。すごい、すごいのだけれど、私たちは見るのに……飽きてしまった。
「なんだか飽きたね。帰ろうか」
「うん」
見られるものならいつか見てみたいUFOだったけれど、いざ遭遇してずっと見ていると飽きてしまうものなのだ、とその時はじめてわかった。だから、通りがかったイギリス人たちは皆、私たちほど興奮しなかったのか。
そういうわけで、UFOを見るのに飽きた私たちは帰路につき、その後どうなったか知らない。ただ、翌日地元紙に「UFO現れる」と掲載されていたので、少なくともあの夜の出来事は、UFO目撃談が多い土地柄でもニュースになるくらいの規模だったようだ。
夜空には、まだまだお楽しみが多い。星たちはそれぞれの音を奏でている、と言ったのはドイツの哲学者、ルドルフ・シュタイナーだったか……。もしそれが本当なら、今夜はその星たちのハーモニーを感じつつ、また夜を散歩したいな、と思う。
***
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