沖縄生活の旅立ちと夜光貝のピアスの記憶
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記事:Kasumi(ライティング・ゼミ8月コース)
「海辺を歩いていると、たまに砂浜に打ち上げられた藻玉に出会えるんですよ」
バナナほどの大きさの茶色い枝豆の化石のような物体を発見し、思わず尋ねた私に、お店の人はにこやかに答えてくれた。
藻玉とは世界最大のマメ科の植物で、中のマメがポロッと落ち、漂流した先で芽を出すと言う。海を旅してきたマメと思うと、何とも面白い。
「海辺で見つけたらラッキーなんですよ」
私は目の前の藻玉のアクセサリーを手に取る。艶やかに磨かれた藻玉にツヤ消しゴールドの金具とビーズをあしらったキーリングは、セレクトショップに売られていそうなセンスの良さだった。
沖縄の自然素材を加工したアクセサリーのお店を見つけたのは、偶然だった。
沖縄生活3ヶ月目のドライブで、道の脇にある手作りの看板に惹かれて入ってみたのが最初だ。店ごと買い占めたくなるほど、好みのセンスとデザインのアクセサリーが揃っており、半年の沖縄生活を終えた時、お土産を買おうと再び訪れたのだった。
貝や鉱石、植物など、沖縄の自然の恵みを活かしたアクセサリーを作って販売している店だった。アクセサリーの材料は、沖縄の海や山から調達し、併設された工房でご主人が研磨・加工をする。大量生産はできないけれど、一つ一つ丁寧に磨かれ、新たな命を吹き込まれて世界に一つしかない”宝物”に生まれ変わるのだ。
店内はまるで博物館のようだった。沖縄中の海や山から集められた自然の素材が、ビーズや革紐、チェーンをつけて飾られている。ジュラシックパークに出てきたようなシダ植物、クジラの歯、骨、天然の鉱石など、珍しいものばかりでワクワクしながら見て回った。
シンプルな天然石の一粒ネックレスや貴重な鉱石に繊細なチェーンのタッセルを組み合わせたブレスレット。マッコウクジラの歯にターコイズを合わせた白とブルーのキーホルダー、藻玉のコードブレスレットなど、珍しい自然の素材がアクセサリーに姿を変えて並ぶ。
大ぶりの夜光貝を使ったシンプルなネックレスが目を引いた。揺れると光の加減で輝きが変化し、繊細な表情を見せてくれる。夜光貝を丹念に丹念に磨き上げてできる輝きなのだそうだ。
「貝の殻だけを漁師さんから買い取るんですよ。良い貝殻があると教えてくれるんです」
貝の中身が欲しい漁師さんから、貝殻を受け取る。持ちつ持たれつの関係があり、貴重な貝殻は素敵なアクセサリーに生まれ変わるのだ。近年は貝の質が落ち、たまに出会う良質な貝殻は貴重なのだという。「出会ったら見逃しちゃいけません!」とお店の奥様は笑った。
元々宮古島にいらした奥様とご主人は、よく波打ち際で貝殻や漂着した植物を拾い集めていたそうだ。当時はまだ人も少なく、どのビーチも貸切状態で、車にシュノーケルセットを積んで海に潜っていたという。
沖縄が好きで、海が好きで、そんな沖縄と海からいただく自然の恵みを、丁寧にアクセサリーに変えていく。世界で一つだけの、沖縄の自然が紡ぐ作品になる。
人との出会いがそうであるように、その場所で出会う作品もまた、一期一会だ。沖縄の命が吹き込まれた作品に、私は引き込まれてしまった。
半年の沖縄生活で、宝物のような出会いがたくさんあった。私はまだまだ旅の途中。住み心地の良い場所を探してまたどこかの街へ旅立つ。出会った人たちに別れを告げて。
居心地の良い場所を離れる時は、いつもピリリと胸が痛み、後ろ髪を引かれる。だから、旅のお供に連れて歩ける記念の品を何か一つ、持ち帰るのだ。旅の途中で辛くなったり悲しくなったりしても、これまでのご縁を思い出して、上を向けるように。
私は夜行貝のピアスを、沖縄から連れて帰った。
沖縄を離れてもう5年経つ。あれから海辺の街で少しずつ暮らしては、また旅をして、やっと自分が居心地良いと思える街を見つけた。
私の部屋の片隅で、夜行貝のピアスが今も煌めいている。たまに風になびいてシャラシャラと柔い光が揺れる。
それを見るたび、沖縄のあの、潮風と波の音を思い出すのだ。
いつかまた訪れよう。
一人で去った沖縄へ、今度は二人で。
***
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