サンタクロースの召使い
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記事:幸奏(ライティング・ゼミ12月コース)
「今年はサンタさんに何をもらうの?」
二人のこどもたちが楽しみにしているクリスマス。親である私は、サンタクロースの従順な召使いである。今年もこどもたちが欲しいものを調査して、サンタクロースに伝えるという、とても重要なミッションを果たさなければならない。
初めてのサンタクロースミッションは、上の子が3歳のとき。
「パイナップルが欲しい!」
まさかの真冬にパイナップル。サンタクロースもびっくりである。缶詰なのか、カットパインなのか、パイナップル1個丸ごとなのか。「どんなパイナップルをお願いするの?」という質問に、これ!と笑顔で指した先には、絵本に描かれた丸ごとパイナップル。寒い時期なのに、冷や汗がたらり、と垂れる。さて、この要望をそのままサンタクロースに伝えるのか。それとも、もっとサンタクロースが用意しやすいものに誘導するのか。きっと、全国にいるサンタクロースの召使いは、みんな悩んだことがあるのではないだろうか。
この年の召使いは、他のものを色々と推薦してみたが、結局こどもの意思が変わることはなかった。そして、召使いは、会社帰りにパイナップルを探して街中をさまようという、素敵な体験を経て、無事に初のサンタクロースミッションを完了した。
そして今年のクリスマス。10歳になる上の子は、色々とわきまえたリクエストをするようになった。年に一度、ゲームソフトを買ってもらえる日だと勘違いしている節はあるが。
代わりに面白い年頃なのが、4歳になる下の子である。
「今年はサンタさんに何をもらうの?」
「うーん、おにゃにょ!」
「おにゃにょ? 何それ?」
「おにゃにょ!!」
何を言っているのかまったく分からない。まさかの事態が起こった。彼がハマっている動画に出てきたのか、はたまた幼稚園で聞いた言葉なのか。「にゃんにゃん(猫)?」「おなべ?」「女の子?妹?」近い音の言葉を、色々と聞いてみるが、どれも違うという。その日は、聞き出すことをあきらめた。
それから数日後。「今日の夕飯、何が食べたい?」と息子に聞いてみた。
「うーん、おにゃにょ、かな~」
「ん? お鍋?」
「ううん、おにゃにょ」
なんとまた、「おにゃにょ」が下の子の口から出てきたのだ。その後も、「おにゃにょにあるよ」「おにゃにょで遊ぼうかな」「今日はおにゃにょの気分……やっぱりダンスしたい気分!」と、色んな会話で出てくる。一体「おにゃにょ」とは何なのか。色々な言葉にくっついてくるため、謎は深まるばかりだった。
一週間ぐらい経った頃だろうか。ふと、「おにゃにょ」が出てくるタイミングに共通点があることに気が付いた。すべて、質問をしたときの回答に出てくるのだ。そして、最初は「おにゃにょ」と言っているが、そのうち、「おにゃにょは〇〇だった」と言い直すことも何回かあった。もしかして質問に対して答えが思いつかないときに使っているのではないか。そこで、「おにゃにょ」が出てきた瞬間に「まだ決まってないの? 分からないのかな?」と聞いてみたら、「うん!」とのこと。
「おにゃにょ」の正体-それは「変数」だったのだ。中学や高校の数学で、「xの値を求めよ」という問題があったのを覚えているだろうか。下の子にとって、「おにゃにょ」は「変数x」だったのだ。答えが分からないから、とりあえず「おにゃにょ」を変数として入れて、話をしていたということである。我が子ながら、なんて分かりにくい! と一瞬思ったが、逆に言うと、「おにゃにょ」が出てきたら、「分からない」と同異義語だと判明すれば、逆に簡単かもしれない。
つまり、「サンタクロースに『おにゃにょ』が欲しいな~」というのは、「まだ欲しいものは決まっていないな~」ということである。そこまで分かれば、サンタクロースの召使いミッションとしては、あと一息。怒涛のプレゼント案を提案していけば良いだけである。下の子が好きそうなものを徹底的に並べる。そして、琴線に引っかかったものをサンタクロースへ伝言すればミッション完了である。
その後、おもちゃ屋へ連行して、しばらく下の子の行動を観察した結果、今年のサンタクロースの召使いとしてのお役目は、無事に終えることが出来たのだった。サンタクロースの召使いが必要とされるのもあと数年。さて、来年はどんな試練が待っているのか。今からとても楽しみである。
***
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