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天女様専用


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大高 充 (ライティング・ライブ東京会場)
 
 
羽衣をまとって、この世に舞い降りてきたような人だった。
そう、天女のような女性だった。
 
その時の私は、天にも昇るように高揚していた。
 
今思い出しても最高の夜だった。
あれほどの美しい人と一緒にでかけたことは、後にも先にもない。
 
そこは三ツ星ホテルのバーで、最上階にあった。
眼下には夜景だ。
散りばめられた東京の明かりがはるか彼方まで広がっている。
時刻は二軒目なので21時をまわっている。
 
となりを歩く天女の長い髪は栗色で、髪先までなめらかだった。
今夜は天女らしく、澄んだ青空をおもわせるような色遣いのシルクを身にまとっている。
 
店員は我々をソファー席に案内して
そこに天女は、品よく慣れたように、膝を揃えて腰をおとし、膝を傾けて優雅に座る。
その振る舞いもごく自然だった。
 
私は緊張していたのは
いま、会社で一番、いや東京、いや日本、いや世界で一番うつくしい女性が隣にいるからだ。
夢から冷めてしまってもいけないので、頬をつねるようなバカなことはしない、夢なら夢でいいと思っていた。
 
天女は年上だった。
 
私はといえば髪の毛をカチカチにジェルで固め、爪を整え、靴の磨き方は本屋の立ち読みで覚え、この日に臨んでいた。
 
天女は柔らかい視線をメニューに落とした。
その長いまつげの影でさえ、この世のものとはおもえないほどだ。
 
「あのね、女性のメニューと男性用のメニューって違うのよ」
すこし、笑みを含ませて言った。
「?」
「女性用のメニューには金額が書かれていないの。気を遣わせないためね」
「!!」
 
天女は令和の時代では、あまり使われなくなった女性言葉でやさしく語る。
バーの薄明かりが、より陰影を強調するのか、横顔も完璧だ。
おそらく小野小町とクレオパトラと楊貴妃を足して3を掛けたらこういう顔立ちになるのだろう。
 
やがて
運ばれてきた天女のカクテルにはフルーツが飾られていた。
 
私はドライマティーニだ。
正直、メニューを見てもよくわからず
ただ天女の手前、場慣れしている雰囲気を崩すわけにもいかず
トレンディドラマで爽やかな俳優が頼んでいたやつと同じものをオーダーしたのだった。
 
一口のんだ。
まずい。
というかクサイ。
においがだめだ。
だがここで顔にだしてはならぬ。
なぜならおれは天女にふさわしい男だからな。
 
そうやって心で石田純一とフジテレビを呪っていたところに、天女は言った。
 
「デートのときはね。女性をあまり歩かせちゃダメよ」
「?」
「女性はヒールのある靴のことが多いし、体力差があるの」
「!!」
 
「あと、相手の雰囲気でその日のプランを考えると喜ばれるかもね」
「?」
「たとえばヒールならアダルトにエスコートされたい、スニーカーならアクティブに動き回りたいと言ったようにね」
「!!」
 
 
そういえば、わたしは天女がスニーカーのようなカジュアルなものを履いているのを見たことはない。きっと持ち合わせていないのだろう。
天女がホットパンツとスニーカー?
 
想像した。
少し笑った。
 
まあこれからも、履くことはないのだろうなとその横顔をみながら酔った頭で思った。
おそらくカップ麺やらコーラなどの庶民の物は口にしたことなどないのかも知れない。
 
だいぶ夜も更けてきて
最後に天女は教えてくれた。
 
「お付き合いするときは男性のお財布を心配してくれる女性を選ぶようにね」
 
若い私には、目から鱗のアドバイスで新鮮だった。
同時に、私を少し心配してくれていたようにも思えて、感激したことを覚えている。
 
いまも忘れない、夢のような時間だった。
 
そしてまもなく、天女の名字が変わったことを知った。
 
あれからだいぶ年月が経つ。
 
あの時のお礼として
その後の私のことを天女に伝えよう。
 
おそらく時代の変化なのだろう、あれから私と出かける際にヒールを履いてくる女性はあまりいなかった。
だいたいが歩きやすいスニーカーかパンプスのラフな格好でやってくるので、アドバイスとおりに活動的なプランで出掛けてよろこばれたものだ。
浦安の有名外資系遊園地に行った日には、蜃気楼が見えるほどの灼熱のアスファルトのうえを、私の手を引いてガンガン先に進んでいかれたことがあった。
「もう歩けない」という言葉を聞いたことがないが、私が「もう歩けない」と言ったことはある。
 
それと
天女のおかげもあり、財布を心配してくれる女性が伴侶になった。
ただ、天女のいう女性とは少しタイプが違い
「今月は生活費足りないので10マン振り込んでおいてね」
「子供の学費50マン振り込んでね」
というように普段は私をATM代わりにしているような風でもあるが、じつは浪費家の私にかわってしっかり管理してくれているようで安心している。
 
天女との時間は、幻ではなかったか、とさえ思えるほど薄い記憶になっているが
あの時のコースターは今でも大事に持っている。石田純一のことも、とうの昔に許した。
 
ただひとつ不思議なのは
天女が教えてくれた値段の書いていない女性用のメニューは、あの時以来、見かけていないことだ。
 
もしかするとあれは、天女専用の特別メニューだったのかも知れない。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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