メディアグランプリ

どうにかしてでもハマりたい型


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記事:mumi(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
どうやら私は型にハマりたい人間らしい。それもシンデレラの義姉が、見るからに履けそうのないガラスの靴相手に必死になるくらいのハマりたい願望があるようだ。
 
「真っ白な紙を配るから自由に使ってね」
「なんでも好きなこと書いていいのよ」
小さい頃から私が苦手としている言葉だ。
「自由」「好きなこと」と言われた途端、身動きがとれなくなるのだ。なんだか突き放されたような、試されているような気持ちにさえなった。それはライオンの子が生後まもなく崖から突き落とされるような感覚に近い。
配られた白い紙は真ん中に大きな絵を描くのが正解なのか、はさみで切り抜くのが正解なのか。完璧な正解はないと思いながらも少しでも正解に近づきたくて周りの様子を伺った。そうでもしないと始めの一歩が踏み出せず、何度もクレヨンを握り直すのが精一杯だった。
そして周りの子が半分くらい完成した頃にやっと手を動かし始める。そんな子どもだった。
その点、折り紙や塗り絵は気が楽だった。手順さえきちんと踏めば完成形がある程度予測できるから。
 
そんな手順至上主義だったものだから、習い事や資格の受験においても飛び級はちっとも嬉しくなかった。
飛ばしたそのステップに大事なポイントがあるのではと思い、気が気でなくなるのだ。とにかく順番にすべてを網羅したいという思いが強く、絶対大丈夫と言われても飛び級受験することはなかった。鬼滅の刃じゃないけど一の型の次は二の型であってほしいのだ。
この頃から自分が0から1を生み出すことのできない人間であることは認識していた。が、0から1どころか手順書がなければ1を2にすることすらできないのではないか。思春期を迎えた頃からはそんなふうにしか思えない自分に嫌気がさしてしまい、ひたすらに卑屈街道を突き進むこととなった。
 
そんな私が救われたのはだいぶ後になってからのことだ。
転職先の会社で毎朝1人ずつ1分間スピーチをする、という地獄のような習慣に出くわした。部署には10人前後しかいない上に、部長や課長はほぼいないので、それはまあ結構な頻度で順番が回ってくる。朝一なのでちょっと面白いことを言っても、まだ頭が働いていないのか誰一人笑ってくれない地獄の1分間だ。
そこで、どうせなら私はこういう人間なのでこう取り扱ってほしいといった趣旨のトリセツを話すことに決めた。
THEゆとりというかゆとり代表というか、まあとにかく典型的ゆとりの私は「任せる」という言葉が苦痛だ。「任せるから好きなようにやってみて」と言えば聞こえはいいが、私には丸投げされているようにしか感じられない。型にハマりたいゆとり人間の私からすると教わった通りにきちんとこなすことが最優先で、意見をしたり自分流にアレンジするのその先の話なのである。
1から10までとは言わないが、1〜3プラス絶対に押さえておくべきポイントくらいは知りたい。ところが転職先は会社としての歴史が浅いこともあり、二言目には「任せるから好きなようにやってみて」だった。いくら好きなようにと言われても、期限はあるわけで効率性も完成度も重視しなければならないのは目に見えている。それならば最初から「今まではこんな感じでやっていたんだけど〜」くらいの道筋は示してほしいと思ってしまうのだ。
 
こんな私の思いを代弁してくれるものはないかと探していたとき、18代目中村勘三郎さんの「型破りっていうのは、型があるから型破りができる。型がなければただの型なしなんだよ」という言葉を見つけた。これは、勘三郎さんが歌舞伎という伝統芸能に向き合いながらも、平成中村座を立ち上げたり幅広いジャンルに挑戦することに対して記者から「勘三郎さんの演技は型破りですね」と言われたことに対する発言らしい。
歌舞伎は1度しか見たことないし、その1度でさえ途中うとうとしてしまった私は、そもそも歌舞伎についての知識は皆無だが、不思議とこの言葉がすっと心に入ってきた。この言葉自体は元々ラジオ番組の「子供電話相談室」僧侶で教育者の無着成恭さんが言っていたそうだが、たまたま耳にした勘三郎さんは非常に感銘を受け、以来座右の銘にしていたらしい。
これだ、と思った。勘三郎さんは誰よりも型を知っているからこそ型を破ることができたのだと。
 
そういえば、味のある文字と心に響く言葉で有名な相田みつをさんも、書のコンクールで日本一になったことのある腕前だという。「日本一の腕」を持つからこそ独特の書体を追求することができたと言われており、これもまた勘三郎さんしかり、型に通ずるものがある。
 
中村勘三郎に相田みつを、そうそうたる方々の名前を借りて、私は型にハマることの正当性を主張してみた。反応は……朝一だからいつもと変わらない、か。
きっと聞いている人の心には響かなかったかもしれない。けれども、間違いなく私という人間は救われたのだ。堂々と型にハマっていいんだ、と。
 
それ以来、私はまだ型の習得中なんだと思えるようになった。いずれ型を破る日が来るのだから焦ることないじゃないか。先のことを考えるのは型を習得したあとで十分だ。
型にハマりきった後の私はきっと強い。そう信じてみることにしたのだ。
 
 
 
決死の1分間スピーチを終えた1ヶ月後、来期の目標面談の場で上司は言った。
「もっと好きなようにやっていいんだからね!」
ああ、やっぱりそんな簡単には伝わらないか……。
まあいい、さて次はどんな型にハマろうか。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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