youtube小説家だった私がAIが書いた小説なんて全然怖くない理由
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:佐藤早織(ライティング・ゼミ2月コース)
売れたいと願ってしまった物書き志望者にとって、世界は地獄です。
なぜならば、驚くほどに物書き志望者はどこにでも溢れていて、売れたいと願ってしまったとたんに「早い」「安い」の価格競争が始まるから。そして承認欲求を満たすための「やりがい搾取」が始まるから。
その上、ChatGPTがオープンソースになったことで、2045年と予想されていたシンギュラリティがだいぶ前倒しになるそうです。「早い」「安い」で勝負していたら、機械には勝てっこありません。
でも私は今、AIが書いた文章なんて全然怖くありません。
なんて、えらそうに言っている私も、割と最近までyoutubeの小説チャンネルでゴーストライターをしており、「やりがい」をすり減らす毎日を送っていました。
それでもその仕事を辞められなかったのは、正直なところ承認欲求を満たされたから。youtube小説は少なくとも1万、2万と再生され、バズれば数十万再生は当たり前の世界です。
そしてyoutube小説というジャンルは、どういう展開、どういうワードを使ったら再生回数を稼げるかということがアナリティクス化、可視化されています。もう、分単位で展開も使う言葉も決まっていて、Excelで管理されています。
そんなの、私よりAIの方が得意に決まっているじゃないか!
と文句を言ったところで私は自分が少し病んでいることに気づいて、その仕事を辞めました。
きっと私が知らない世界に、再生数やお金を稼ぐ職人的なライターさんがいるのだと思います。私がその仕事を辞めたのは、ただ、私がその仕事に向いていなかったからです。承認欲求がギラギラしていたからです。
他にも、過去には何度も文学賞に投稿していて、受賞の連絡と同時に「その受賞作をぜひ本にしませんか?」と、自費出版の提案をもらったことが2度あります。受賞の喜びに感動して脳がバグっている状態の人間に不意打ちもいいところだと思いませんか…?
どちらの提案も副賞の賞金だけもらって丁重にお断りしました。それは私が営業職と出版編集職の経験があったから、その不意打ちを卑劣なものと感じたからです。もしどちらの経験もなかったら法外なお金を払って自費出版の契約をしていたと思います。あと、もし初めての受賞だったら確実に契約していましたね…。
正直なところ、資本主義とやりがい搾取を煮詰めた辛酸を少し飲まされた気がしています。もう二度と、あんな思いはごめんです。
それでも今、私がAIが書いた小説なんて怖くない、と断言できるのは、どういう展開、どういうワードを使ったら再生回数を稼げるかというデータを見ることができたからです。
間違いなく言えることはひとつ。今更言うまでもなく、それらは誰かが書いた言葉の蓄積でしかないということ。そこに新しい言葉はありません。
私がAIが書いた小説なんて全く怖くないのは、もう、「早い」「安い」「承認欲求」の勝負からは降りたからです。生活の不安は尽きないけれど、その分働くか、別の仕事をすればいいと思っています。
時間と頭を使って書くのなら、新しい言葉を自分で作りたいじゃないですか。
私が文章を読むことを読むこと、書くことが好きだった理由、本来の自分に還るときに思い出す、ある編集者の言葉があります。その人は、自分の作品を持ち込んだ物書き志望者を集めてこう言いました。
「何度も投稿して落選している時点で、あなた方は天才ではありません。でも、私たちは凡才が小説を書くことを、作品を作ることを否定しません。むしろこの時代に愛すべき馬鹿野郎どもだと思います。」
読むこと、書くことが好きだった本来の私は、きっと愛すべき馬鹿野郎なんだと思います。もっと読みたい、書きたい。その衝動を、私はきっと一生消すことができません。言葉を磨き確度を上げ、構成を整え、伏線を回収したときの快感。そしてその快感が読者に伝わったときの多幸感ったら、何事にも代えがたいものです。
誰かが書いた言葉を蓄積し、そこから気持ち良い言葉だけを集めて整えれば、形にはなる。でもそれは、読む側のバイアスを固めていく、狭めていくことになるでしょう。
いつかシンギュラリティが来たら、読者の環世界を広げるようなオリジナルの言葉も、AIが計算できるようになるのでしょうか?
私が本当に怖いのは、一見すると、オリジナルと見分けがつかないほどの巧みさのある作品が知らないうちに生活の中に入って来て、知らないうちに私たち読者のバイアスを固めて行くこと、狭めていくことです。
でも、きっと、そんな文章が当たり前になった世界でこそ、本当のオリジナルの言葉が必要になる。文学史を振り返れば、偉大な先人たちがそうやって何度も言葉の危機を乗り越えて来ています。私達が使っている言葉、残っている文章はそうやって磨かれてきたものに違いありません。
私自身を含め、読者だって馬鹿じゃない。読者を信じれば、やることはひとつです。
***
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