人との関わりが少ないほうがコスパいいのか
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記事:小林 遼香(ライティング・ゼミ4月コース
「人との関わりが少ないほうがコスパいい」
何者かになろうとしていたわたしは、学生時代からビジネス書を読みあさってきた。新卒1年目、ビジネスイベントに参加した際、ある登壇者の1人が「人との関わりが少ないほうがコスパいい。無駄な関係性は切るべきだ」と言っていた。「確かに、自分のキャリアにプラスにならない飲み会に参加するよりも、家でスキルアップの勉強をしていたほうが自分のためになる」と、納得した。早速その日から「人との関わりが少ないほうがコスパいい」信者になることにした。
まずは、同期の飲み会に参加することをやめた。お互いの仕事内容の進捗を報告し合い、会社の愚痴をこぼしても何のメリットもないと思ったからだ。次に、社外のビジネス団体に加入した。有名な大企業に所属している人と「どうしたら世の中を良くしていけるのか」について休日をつかって話し合う。人脈も作れるし、キャリアにおいてもプラスになるのでメリットしかないと思えた。わたしは、同期と関係性を深めることをせず、社外活動に奮闘した。社内だけでなくプライベートでも交流を一切断ち、交際費を使わなくなった。貯まるお金と反比例し、人間関係は希薄になるいっぽうだった。
ある日、わたしの深い信仰をゆるがす出来事があった。社会人2年目、転職を考えていたわたしは、スキルアップのために副業を始めた。仕事内容は、飛騨市ファンクラブのPR。飛騨市とは、産まれてからそれまで縁もゆかりもなかった。まずは、五感で飛騨市に触れたいと思い、紹介されたコーディネーターに飛騨市を案内してもらうことにした。そろそろランチをしようかと何気なく入ったカフェで、30代男女5人が集まり「この地域をどうしていきたいか」を楽しそうに話しているのが目に入った。どうやらコーディネーターの知り合いだったらしく「良かったら一緒に話しましょう 」と招かれて、話の輪に加わることになった。「飛騨市の改善点は」と、話を振られたわたしは気づいたことを率直に話した。突如加わったよその者であるわたしの意見をみんなが真剣に受け止めてくれた。むしろ「他の地域の方の視点は勉強になる」と感謝までされた。カフェの閉店まで議論は終わらず、続きの話をするために3軒はしごをしていた。
帰京してからも白熱した議論が忘れられず、時間があればPR企画を練るようになった。まとまった休みがあれば飛騨市に足を運び、平日は飛騨市とオンラインMTGをした。飛騨市の方々はいつなんどきもわたしの話に耳を傾け、あたたかく接してくれた。半年後、それまで認知されていなかった飛騨市の魅力を引き出した企画がカタチになっていった。この頃にはスキルをつけるとかどうでもよくなり、飛騨市のために仕事以外の時間を使うようになっていた。副業で成果がでるとともに本業のパフォーマンスも向上していった。同僚からも「なんか話しかけやすくなったね、心にゆとりがある感じ」と、言われるようになった。
そうか、「人に受け入れられている」という経験がわたしを変えたのか。
飛騨市での活動しているとき、まるでスナックにいるような感覚になる。スナックは、隣の席がどこかの社長であれ、大学生であれ、そんな外側の肩書を取っ払ってフラットに交流できる。スナックと同様に飛騨市も生身の「小林遼香」と向き合ってくれるのだ。振り返れば、わたしは学生時代から外身を高めることばかりに執着していた。人からどうみられているかばかりを意識し、人付き合いをすることは時間の無駄だと思っていた。そのくらい強い意思をもたなければ、この世界に生き残ることができないと思っていた。その結果、中身の自分を高めることをおろそかにしていたのだ。
「人と関わるのって案外いいのかもしれない」と、信仰を破り始めたわたしは、同期の飲み会にも積極的に参加するようになった。数年先のキャリアアップを目指し、常に自分の立ち位置ばかり気にしていた頃よりも、明日が楽しみに思えるようになった。同期に今まで取り組んできたことを話すと、案外みんな真剣に聞いてくれる。そして、自分にはなかった視点を与えてくれるのだ。自分1人で考えていた頃よりも明らかに企画の幅が広がり、効率もよくなった。友人が転職で迷ったときは、自分の経験談をベースに何時間も相談にのった。そして、人と関係性を紡ぐことで、自分1人では成し遂げられなかった経験をいくつもできるようになった。
気づけば「人との関わりが少ないほうがコスパいい」という信仰をすっかりやめていた。そもそも人間関係にコストパフォーマンスを持ち出すことが間違いだ。人と関わりがわたしにこびりついた「傲慢・見栄・プライド」を洗い流してくれたのだ。心の豊かさはどんなモノにも交換できない貴重な価値だ。そう、いまのわたしは、人と関わりたくて仕方ない。
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