祖母が言った、最後の願い
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記事:都宮将太(ライティング・ゼミ4月コース)
「お寿司が食べたい」
この言葉は私の祖母が最後から2番目からに言った言葉だ。
何故最後ではないのか? それは、最後の言葉は病室を出るときの「じゃあね」だったからである。
父方の祖母が一昨年亡くなった。
亡くなった祖母に感謝の気持ちを……。なんて心温まる話しではない。
私は父方の祖母が嫌いだった。
葬式も欠席する予定だったが、「通夜と葬式は来て! 私の立場がない!」と母親から言われたため出席した。当然だが、涙は出なかった。
「大人げない」
弟からそう言われた。本当にその通りだと自分でも思う。
私がまだ小学校低学年の頃、両親が口論となり、母親が涙を流す姿を何度も見てきた。口論の原因は父方の親戚にあった。父方の親戚は母親を強く嫌っており、母親は会うたびに陰湿ないじめを受けていた。いわゆる、「嫁いびり」と呼ばれるやつだ。
涙を流す母親の姿が強く記憶に残っている。そのせいか、今でも父方の身内を好きになれない。
最近になって母親から聞いたが、当時は本当に辛かったそうだ。
「息子が痩せている。ご飯は作っているのか?」
「私たちのような家庭に、あなたのような人は合わない」
ドラマで聞くような言葉を、本当に義母から言われたらしい。
さらに、父親は自分の身内に対して何も言わなかった。いや、言えなかったそうだ。家族や母方の身内の前なら強く出るが、自分の身内が相手だと文句一つ言えなかったそうだ。
「世間のお嫁さんは大変よ」
母親の言葉を今でも鮮明に覚えている。
私が父方の身内を嫌っていることを両親も知っている。そのため、父方の身内で開催される食事会があっても、絶対に私を誘ってこない。
数年前、父親の兄弟で私の叔父にあたる者が還暦を迎えた。その際、七つ年上の従妹から「サプライズでお祝いしない?」とラインが来たが、既読もつけずにブロックした。
それくらい、父方の身内が集まる場所へは行きたくなかった。
一昨年、仕事中に母親から電話があった。
仕事中の電話、いい予感はしない。「不幸事か……」直感的に悟った。
案の定、父方の祖母の病気が再発したそうだ。
「お見舞いに来てほしい」母親からそう言われた。祖母が入退院を繰り返し、両親が定期的にお見舞いに行っていることは知っていた。今まで誘われたことは無かったが、今回に限って声をかけてきた。さすがの私も察する。
私は仕事が終わって病院へ向かった。
一階の自動販売機で水を買っている途中、私の後ろに並んでいた男性が私の方をジロジロ見てくる。「なんだこの人」そう思ったが、無視して病室へ向かった。
病室の扉を開けると。予想よりも元気な姿の祖母がいた。
父方の身内も数名いる。顔を合わせるのは何年ぶりだろうか?
形式的な挨拶をしているとき、病室の扉が開いた。先ほど自動販売機で私をジロジロ見ていた男性だった。この人、身内だったのか……。
病室は個室だった。祖母が横たわるベッドの横には写真が数点飾られており、祖母が若い頃の姿や、子供たちの結婚式の写真等が置かれている。そこに一枚、私が予想しなかった写真があった。
写真に写っているのは、成人式の日の私だった。
正直驚いた。私の写真などあるはずない。そう思っていたからだ。今日だけ置いたとも考えにくい。おそらく、入院中はずっと飾ってあったのだろう。
その時、少しだけ申し訳ない気持ちになった。自分は一方的に嫌っていたにも関わらず、病室には私の写真がある。病院に来るまでは、父方の身内と会っても、何も話さないだろうし、向こうも私を嫌っている。そう思っていたが、予想に反して、気さくに話かけてくれた。
「お寿司が食べたい」
父方の身内と話しをしていると、急に祖母が言った。
「今は我慢やね」
「退院したら好きなところに行こうね」
病室にいた何名かが、笑顔で言った。
だが、祖母がお寿司を食べることはなかった……。
昨年、祖母の一周忌が行われた。
「来る?」母親から聞かれた。
「行く」と私が答えると、母親は驚いた様子だった。
祖母の葬式が終わり、少し考えてみた。
私が父方の身内を嫌った原因は、何十年も前の出来事がキッカケだった。もしかしたら、既に改善されているかもしれないし、相手は私のことを嫌っていないかもしれない。
父方の身内を好きになったわけではないが、食べ物でいう、食わず嫌いだった可能性もある。今まで毛嫌いしてきた父方の身内と会うことで、何か新たな発見があるかもしれない。そうも思った。
一周忌の会場でも、父方の身内は気さくに話しかけてくれた。ブロックしている従妹までもが……。
「来てくれて嬉しい。ありがとう」
従妹から笑顔でそう言われた。
複雑な気持ちだった。
食べ物でもそうだが、食わず嫌いは自分の思い込みで嫌っている部分が強い。私も食わず嫌いの面があったようだ。
一周忌が終わり食事会の場所へと移動すると、そこにはテーブルを埋め尽くすほどのお寿司が並んでいた。
祖母の最後の願いを叶えるかのように……。
来月、父方の祖父の三十三回忌がある。会ったことは無く、当然欠席の予定だったが、食わず嫌いはやめて出席しよう。そう思った。
可能であれば、お寿司を持参して……!
***
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