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メディアグランプリ

師匠の孤独死Xデイ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:イモト アヤコ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
職員室に戻ると携帯に何件か着信があった。登録していない番号からだった。
折り返し電話をかけると「井本さんの携帯であってますか? ハナコです」と私がもしもしと言う前に言ってきた。
 
私: 「お~! ハナコ~久しぶり~どうした? ごめん授業中ででれへんかった」
ハナコ: 「尾関さんが亡くなりました」
 
私:「……」
 
私は昔 映画の持ち道具という仕事をしていた。映画に出てくる俳優さんの靴とかカバンとかめがね、アクセサリー、タバコなど衣装以外の身につけるものや芝居で使う小道具を用意したりする仕事だ。
 
そして、その時の師匠が尾関さん。
 
映画の仕事をする前はテレビのADをやっていた。ころころチャンネルをかえられるテレビよりも残り続ける映画の仕事に魅力を感じて転職した。フリーランスで何本か映画の装飾というセットを飾ったりする人の助手についているときメイクさんに井本さんは持ち道具とか興味ないの?と聞かれ尾関さんを紹介された。
 
初めて尾関さんに会ったのはポパイアートという装飾会社だった。下に倉庫、鉄板の階段をのぼっていくと作業場みたいな掘っ立て小屋があった。尾関さんを最初に見た感想は、良くいえばベートーベンを太らした感じ。悪くいえば太ったホームレスだった。面接とかするのかなぁと思っていた私はとりあえず挨拶をして事務所に入った。イスに座ってすぐ尾関さんは、『三池組とピンポンとどっちがいい?」と聞いてきた。 「ピンポンって漫画のピンポンの映画化ですか?」松本大洋の大ファンだった私は鼻息荒く「ピンポンで!」と答えた。
 
その作品から持ち道具デビューを果たし、尾関さんは私の師匠になった。ものすごく迷惑もかけたし、迷惑もかけられた。人づきあいが苦手な尾関さんは制作部さんとかが名刺を差し出しても「いりません」と言ってうけとらない。基本不愛想だった。
でもすごく仕事が来る。その当時は尾関さんに仕事が来ることが不思議でしょうがなかった。でも今ならわかる。誰よりも映画が好きで、仕事が好きだった。
私は7年ぐらい持ち道具の仕事を続けた。1人立ちしてからも尾関さんとはよく一緒に仕事をした。一番思い出深い作品は北野武監督の「Dolls」だ。すごい薄っぺらい台本でどんどん改定の脚本がコピー用紙でわたされて貼り付けていくと最終すごい分厚さになった。尾関さんはほとんどの北野作品に参加している。理由は尾関さんの変更に対応する力がスゴイからだ。
私は最初で最後の北野組だったが本当にいい経験をしたし、携わってよかったと思える作品だった。そこで出会ったのがハナコとカナちゃんである。ハナコもカナちゃんも尾関さんの弟子で、私が長女、ハナコが次女、カナちゃんが三女である。
 
一見、不愛想な尾関さんは影でスタッフに「うちの娘たちをよろしく」と言いまわっていたことを後で知る。なんて不器用なおじさんなんだ。
 
死ぬほど怒られたこともあった。あまりにも私がへこたれないのであきれた尾関さんは「もう井本の事は怒りません」と言っていた。しおらしく怒られておけば良かったな。と後から思った。
 
そんな師匠が亡くなった。孤独死だった。
 
私は東京で持ち道具の仕事をしていたが、30歳の時に辞めて京都に帰ってきた。
今は中学校の教師をしている。尾関さんに会うのは年に1回になり、最後に会ったのは3年前ぐらいだった。 最後まで「せっかく育ててやったのに辞めやがって」とか言いつつも自分の仕事した映画のチケットを送ってくれたり、京都へ来たら連絡をくれて手土産を渡してくれた。
 
ハナコの話では、死んだ日がわからないらしい。1か月ぐらい発見されなかったそうだ。
 
ついこないだ三女のカナちゃんが子ども達を連れて京都に遊びに来てくれた。カナちゃんも今は違う仕事をしている。その時撮った写真を尾関さんにラインします~。そろそろ会いにいかなダメだね~なんて話をしていたとこだった。
 
そして昨日4月26日 次女のハナコからの電話で亡くなったことを知る。 唯一まだ映画業界にいるのがハナコだ。プロデューサーが連絡とれなくて家にいくともう部屋は空になっていて亡くなったことを聞いたらしい。お姉さんが引きとりにこられたらしい。お葬式もなく、お墓もわからないらしい。何もわからない。ハナコからの電話の跡も何人かから電話がかかってきた。みんな同じ報告だった。
 
ハナコが電話口で「長女の井本さんには連絡しなきゃと思って……」
「みんな今日知ったんで、今日が命日でいいですか?」と聞いてきた。
死んだ詳細は何もわからないけど、全盛期の尾関さんを私達は知っている。
「集まって 尾関さんの話をしましょう」とハナコは続けた。
そうだね、3人あつまって尾関さんを囲む会をしよう。悪口いっぱい言ってたら
おりてくるかもしれないしね。 そもそも働きすぎなんですよ、尾関さん。
 
尾関龍生 数々の日本映画に名を残して 2023年4月26日 逝去。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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