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「怒り」の感情は持つべきではないと思っていた


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記事:小林 遼香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「ねぇ、なんで忘れるの。お願いしたじゃん」
飲み会を先に抜けた彼女の忘れた荷物を回収するはずだった。しかし、幹事だったわたしは場をまわすことに気をとられ、すっかり忘れていた。
「ごめん、居酒屋に連絡してみる」
引き受けたのなら最後まで責任持つべきだとは思うが、「わたしが正しい」という態度で彼女は発言するのだろうか。もし私なら「幹事大変だったもんね。そもそも忘れたわたしが悪いし、居酒屋に連絡してみる」と、伝えるはずだ。頭の中で繰り広げられる論争を胸にしまい込み、何事もなくやり過ごす。
 
わたしは「怒り」を抑え込む傾向がある。友人が30分遅刻していても「遅刻したのは理由があるかもしれない」と思考を巡らす。最終的には「この人が遅刻するようになったのは、育ってきた環境に何かあるに違いない」と怒りを落ち着かせるポイントを見つける。正直、自分の中にはモヤモヤが残るが、雰囲気が殺伐するくらいであれば、自分を押し殺したほうがいいと思ってしまう。
 
一方、怒りをストレートに表現する人がいる。自分の感情をぶつけたら相手がどう思うのか、この場の雰囲気がどうなるのかを一切考えない。「なんで怒りの感情を我慢しなきゃいけないの。怒っていることを伝えないとこっちの気持ちを考えてくれないじゃん」と、怒りをそのまま口にする友人に言われたことがある。
確かに、怒りを表してくれたおかげで「事の重大さ」に気が付くことがある。そして「この人を怒らせては大変なことになる」と学び、丁重に扱う。羨ましさも感じるが、「自分にはできない」と諦めてしまう。
「怒り」を我慢する場合も発散する場合も一長一短ある。でも、どちらも自分か相手に違和感を覚えさせ、伝えるべきメッセージが伝わらないのだ。
 
「今度さ、お坊さんに悩み相談できるイベントあるから行こ」友人に誘われたイベントをきっかけで「怒り」のコントロール方法を見失っていたわたしに転機が訪れた。
「わたし怒れないんです。いや、怒ってるんですけど、いつも我慢しちゃって。平静を装ってすぐ解決策の話をしてしまうんです」
「怒るということをいけないものと思っているんですね。『怒り』は、私たちを特に苦しませる煩悩の1つです。仏教では『自分の怒りを観察する』ということが、『怒りを払う』第一歩と言われているんですね」
「怒りを観察するってどういうことなんですか」
わたしは早く答えを知りたいと思い、前のめりに質問をした。
「最初から『怒ってはだめだ』と思うのではなく、怒っていること自体に『気づく』ことをしてみてください。簡単だと思うかもしれませんが、これは大きな一歩なんです」
「怒りに気づいた先になにがあるというのか」を知りたくて仕方なかったが、わたしの相談時間は終了を迎えてしまった。
 
「怒りに気づいた先を経験する」までに時間はかからなかった。「5年付き合っていた彼氏が同棲間近で浮気をする」という大激怒案件が訪れたのだ。
最初に気づいた感情は「悲しみ」だった。同棲先を決めるまでに何ヵ所も物件を見て回り、「白を基調とした部屋がいいよね」や「観葉植物は絶対置こう」など明るい未来を話していた。彼との人生プランも考えていた。彼と共に歩む夢が儚く散っていった。彼との話し合いは淡々と行われ、1時間後には私の部屋から彼の荷物は全て消え去った。
 
「なんでそんな平気なん、あんなに相談しといて。振り回さんといて」
「昨日別れたんだけど、結構平気だよ」と親友に報告したところ、わたしの明るさぶりに飽きられた。心配もかけたくない思いから口走ってしまった「平気」という言葉。もちろん平気な訳はない。「いや、そもそもなんでこんなに辛いのにそんな怒られないといけないのだろう。そんな言葉は嘘だって察してよ。ってか、なんで彼氏は浮気したんだ」いろんな想いが頭を駆け巡った。
「平気なわけないじゃん、しんどいし、辛いし、最悪。わたしだって、怒りたいよ。怒りたいよ、怒りたいの」
気づいたら泣きながら叫んでいた。壁に反響した言葉が耳に入り「あ、いま、わたし、怒っている」と「怒り」に気づくことができた。
その日は、身体全体で怒りを感じたまま行く当てもなく半日歩き回った。へとへとになったわたしは、そのまま図書館に行き「ゆるす」というタイトルの仏教本を手に取っていた。わたしを怒らせた彼、怒りの感情を持ってしまった自分を「ゆるそう」と思った。
「散々怒り狂って歩き疲れたら、いま目の前で起こっていることは結果でしかないんだなって思ったの。その変わらない結果に対して抗っても意味がない。事実と感情をただただ受け止める。受け止めてすべて『ゆるそう』と思った」
「そっか、自分自身と向き合えたんだね」
わたしの報告に親友は優しく微笑んだ。「怒りに気づく」こと、それは自分を大切にすることだったのだ。わたしはいま「怒り」を抑え込むことをやめている。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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