激高する人をたった一言で静まらせるには~安全確認、大丈夫?~
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:花 橋子(ライティング・ゼミ4月コース)
仕事にしろプライベートにしろ、激高している相手というのは厄介だ。人の話を聞こうとはしないし、興奮している自分に興奮して、怒りの炎に自らガンガン油を注いでいく。何とか鎮火を試みようとして、うっかり変なことを言ってしまうと、さらに怒らせることにもなってしまう。
そんな手ごわい相手を、わたしは一言で黙らせたことがある。
中国、上海。その日、わたしは中国人の友人と食事に行くためにタクシーに乗っていた。その車内で、友人と中国語でおしゃべりをしていた。話題は日本で行きたい場所で、北海道で雪を見たいとか、大阪で本場のお好み焼きを食べてみたいとか、そんな他愛もない話をしていた。すると、それまで黙っていた中国人の運転手が、突然話に乱入してきた。
「日本に行きたいだなんて、なんでお前たちはそんな話をしてるんだ」
えっ、と黙るわたしたち。「日本に行くのか?」と重ねて聞いてきた運転手に、友人は「行かないけど……」と答えると、いきなり運転手は怒ったように話し始めた。
もともと中国語の発音そのものが強く、日本人にとっては怒っているように聞こえるものだが、それにしても口調が強い。あまりに早口でわたしにはすべて理解ができなかったが、ところどころで「小日本(シャオリーベン)」という日本を侮蔑する言葉が出てきて、日本を悪く言っているんだということはわかった。
わたしに気をつかった友人が、「もうその話題はやめて」と運転手に伝える。そして、ごめんね、という表情でわたしを見るので、わたしも大丈夫、と笑顔を返した。
しかし、運転手は止まらない。日本はひどい国だ、そんな国に行きたいお前たちは間違っている、と延々と語り続ける。わたしと友人は、しばらく無視して黙っていたが、話はなかなか終わらない。
痺れを切らした友人が「その話はわかったから、黙ってくれる?」と言っても、火がついてしまった運転手は止まらない。友人が話すのを止めることすら癇に障るようで、ますますヒートアップしていく。黙って聞いているわたしも、さすがにイライラしてくる。友人の口調もだんだん強くなり、それを受けた運転手の声がまたさらに大きくなる。車内の空気がどんどん張り詰めていって、はち切れそうだ。
ついにキレた友人が「もう! やめてってば!!」と叫ぶように言うと、運転手も負けじと大声で返す。
「なんでやめなきゃならないんだ! ここに日本人はいないじゃないか!」
反射的に窓の外を見た。目的地は近い。外もまだ明るい。最悪、ここで降ろされても大丈夫だ。
そう思ったわたしは、思い切り叫んだ。
「わたしは日本人だ!」
静寂。
あれほどしゃべっていた運転手も黙り、車のエンジンの音だけが響く。
あ、降ろされないんだ。運転手の反撃を覚悟していたわたしは、ちょっと拍子抜けした。
ほどなくして、無事に(?)、目的地に到着。友人が無言のままお金を払い、タクシーを降りた。
中国に住んでいると、中国人の反日感情に触れることがある。面と向かって「日本人は戦争が好きなんだろう」と言われたこともあるし、「南京大虐殺は日本ではどう教えているのか」と議論をふっかけられたこともある。しかし、ここまで激高し、執拗に日本を批判する人に出会ったのは初めてで、「こんな人、いるんだ」と非常に驚いた。
というのも、日本人が思うほど、中国人に反日感情があるわけではないからだ。特に若い世代は、日本のアニメやドラマを通して、日本を好意的に見ている人が多い。吉野家、ユニクロなどは中国のあちこちで見ることができるし、日本のファッション雑誌が中国語に翻訳されて販売されていたりしている。そして何より、日本人であるわたしと友人になり、同じ中国人とケンカをしてでも守ってくれる人もまた、中国人だ。
あの場面で「わたしは日本人だ」というのはなかなか勇気がいった。目的地まで黙って耐えることもできたが、がんばって運転手と戦っている友人を見るのも忍びなかったし、何より運転手の大声が不快だった。彼の様子から、私が日本人だとは気が付いていないんだろうと思っていたので、いつ自分が日本人だと切り出そうかと考えていた。いわば、切り札である。
そして、切り札は切るタイミングが命だ。変なタイミングで出せば、逆効果になってしまう。だからこそ、激高している相手を冷静に観察し、慎重にタイミングをうかがわなければならない。
さらに、切り札を切る環境。切り札を切ったあと、必ずしも場が収まるわけではなく、さらに悪化する可能性もある。切り札を切った後に自分の身や立場が危うくならないよう、安全を確認しておくことが必要だ。爆発寸前の車内で、「日本人だ」と叫ぶ前に窓の外を確認したときの風景は、今でもリアルに覚えている。
激高している相手を黙らせるためには、切り札を見つけ、出すタイミングをうかがうこと。そして、安全を確認したうえで、切り札を切ること。ぜひ、お試しあれ。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325