30年前の辛かった思い出は、A4用紙2枚分だったと思うと楽になった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:久田一彰(ライティング・ゼミ8月コース)
自分の思っていることを言葉に残すことは怖かった。読んだ誰かに、いや、それは違うよと反論されてしまうかもしれないし、もしかしたら、誰かが取り上げてSNS上に残って炎上してしまうかもしれない。何百年何千年か後に、ハムラビ法典のように残り続けて、解読されてしまうかもしれない。だから、読書感想文を書くことも嫌いだった。
だけど、この本は自分の心を正直に吐き出させてくれた。面白かった! と言うだけでは、この本の感想は語れない。読んだ後に、本のタイトルと帯には、“ペンを持て”や“この夜は明ける。書けば、必ず。”と書かれてあるので、素直にこうして書いてみる。これは私にとて生まれて初めての経験だ。
287ページあるけど、通勤電車の中で読み始めて、お昼過ぎには全て読み終わってしまった。積読本がいくつもある私にとって、1冊読み終えたことは大きな満足感だ。好きなものをたらふく食べ終えた後のように、それだけでもこの本を読んでよかったと思える満足度だ。それから、いつも使っている方眼ノートを前に、青い水性のVコーンのペンを持つ。下書きをしてからパソコンのwordファイルを開いて、今こうして入力してみた。
本を読んだ感想というか、読みながら思い出したことがある。本がタイムマシーンになってあの頃に連れていってくれた。それは、小学校6年生の時に私はいじめられていたということだ。そして、本の登場人物のタコ=タコっちはいじめられている。昔の私=ひさっち(当時の私のあだ名)に、名前も性格もよく似ているのだ。
自分の思っていることや考えていること、どうして自分だけがこんな目に遭うのかということを口からなかなか言い出せなかった。もちろん書き出せずにもいた。勇気を振り絞り、いじめられていることを、クラスの先生に話をして幸いにも解決してもらったのだが、こうして記録に残すのは初めてだ。
いじめられていたのには、思い当たる2つのことがある。
ひとつは転校生だった私は、方言が出てしまうことに怯えていた、コンプレックスを抱えていた。兵庫県から愛知県に引っ越した時は関西弁が、そして愛知県から東京都に引っ越した時は、名古屋弁が出てしまう。大人になって数種類の方言が喋れることは、バイリンガルみたいでかっこいいのだが、小学生で言葉が違うことは残酷なことだった。博多弁で質問するときは、語尾に〇〇と? とつくことがある。それが小学生では、「トートーマン」と名付けられてからかわれる対象になっていた。
もうひとつは、アトピー性皮膚炎がひどくて、目の周りが赤く乾燥し、薬を塗るとテカテカ光っている様子は、ゾンビのようだと容姿をいじられたこともあった。大きないじめがニュースに取り上げられるが、こうした小さなニュースも私にとっては日常茶飯事の大きなニュースだったのだ。
ネタバレになってしまうかもしれないが、結末まで読んで、そうだったのか! と今の私にリンクすることがある。いじめられている当時は、毎日毎日が長く、1日が1年以上経っているかのように思えたのだが、今となって振り返ってみると、どうってことはないのだ。ただ、もう少し早く、小学生時代の私が出会って読んでいれば、重たいランドセルを下ろしたように、もう少し心は軽くなっていたのかもしれない。
書く前には、こうしたことが思い出されて、いじめられていたことを、見えない何かに阻まれていた。書こうと思っても、ブレーキは踏んだまま、ダムによって堰き止められていたようだった。しかし、読んだ後には、書こうという思いは、ブレーキは外れて時間が動き出し、堰き止められていた感情もダムの放水のように、こうやって放出されていった。
いじめられていた当時は小学校6年生12歳ごろだから、今年42歳になる私にとっては、およそ30年ぶりに解き放たれたようなのだ。檻に入れられていた私は、自由の身になった。しかし不思議なことに、書き出そうと思っても、あの時の辛かったことやうらみつらみが、止まらないおしゃべりで語り尽くされ、本1冊ほど書き溜められるかと思っていたが、なんのことはない、たったA4用紙2枚分くらいにしかならなかったのだ。
書くということは、客観的に自分自身を鏡の前で見ているようだし、書き終えることでスッキリする、究極のストレス解消法、リラクゼーションなのかもしれない。あの頃のいじめなんて、今では笑い話というか、記事のネタにしかなっていない。記事1本書けてラッキーなのだ。こうして、勇気を持ってペンを持ち書き始めると、30年分のいじめられていたという長い夜は明けたのだった。
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