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トイレ詰まりが紡いだ、マドンナと私の友情


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:庄司華(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
仲が深まるきっかけはいくつかある。
ノリが合ったとか、趣味が同じだったとか、一緒に何かを乗り越えたとか。
それらは大抵きれいな思い出として記憶される。数年後に「まさかここまで仲良しになれるなんてね〜懐かしいよね〜」と飲み会で語るネタになる。
 
もちろん、私にもそんな経験がある。とある出来事をきっかけに、大学のマドンナと一気に距離が縮まったのだ。
 
が、全然きれいじゃない。飲み会で語るなんてとんでもない。
以降、大変汚い描写が続きますので、お食事中の方はご注意ください。
 
 
「本当にごめん、トイレ流れなくなっちゃったみたいで」
マドンナが顔面蒼白でそう告げたのは深夜2時。大人数での飲み会後、終電を逃したマドンナを我が家に招いて1時間ばかり経過した頃だった。顔は知っているが話したのは今日が初めての間柄。ようやっとぎこちない会話も減ってきた頃だったのに、トイレの野郎、タイミングが悪すぎる。
 
「あ、ほんとです? タンクに水が溜まってからもう一回流してみても無理そうでした?」
「そうみたい……ラバーカップってあるかなあ?」
 
ラバーカップ??
頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
マドンナは察したのか「あの、トイレにスポスポやるやつ」と付け加えた。
 
スポスポという間抜けな擬音も、マドンナが言うとめっちゃかわいい。
否、トイレが詰まっているのだ。本来そんなに悠長にしている場合ではない。が、水圧激弱トイレを持つ私にとって、トイレ詰まりなど日常茶飯事。詰まっているブツを見ていなかったこともあり「若干トイレットペーパーが戻ってきちゃういつものアレかな〜」と思っていた。
 
「それで、ラバーカップあるかな?」
マドンナが言う。
若干切実さが滲む。
「置いてなくてですね……」
「そっかあ……」
嗚呼かわいい。顔が良い。
 
しばし見つめ合ったのち、再び口を開いたのはマドンナだ。
「パイプユニッシュ的なのある?」
「台所とかに使うのなら」
「それ、借りてもいい?」
「どうぞどうぞ」
「それと可能なら、割り箸とビニール袋がほしいかも」
「割り箸と……ビニール袋?」
 
何に使うんですか? と聞きかけ、やめる。
 
もしかして:うんこ 詰まった ラバーカップない
もしかして:マドンナ可愛いとか言っている場合じゃない
もしかして:今 結構 ヤバい?
 
「ありますよ! ビニール多めに渡しますね! あとこれ、パイプユニッシュ的なのです!」
「ありがとう!」
 
マドンナが今日一番の笑顔を見せトイレに去ったところで、私は急いでGoogleを開いた。
そして検索する。
『ラバーカップ コンビニ 売ってる』
売ってない!!!!
 
絶望的な検索結果。刹那、トイレから響く悲鳴。
「やばい! 溢れる!」
溢れる!???
 
「大丈夫ですか!?」
反射的にトイレに飛び込むと、便器のフチぎりぎりまで迫り上がった汚水と、浮かぶブツがそこにはあった。
自分以外の人糞なんて初めて見た……とやや冷静になる私。対照的に、状況のヤバさと恥ずかしさからパニックになるマドンナ。手にビニール袋をはめたまま私の肩をどつく。
 
「ちょっと待ってそれ絶対トイレに突っ込んだでしょ!」
「も〜なんで来るの!? 普通入ってこないでしょ!」
「あんだけ叫んだら来ますよ! てか箸は!? 何に使ったの!? うんこ掴むために使ったんじゃないの!?」
「箸ってうんこ掴むのに適さなかったんだよ!!」
 
それはそう。料理を食べるためのものだし。
水の中を浮遊するクソを掴むために作られたわけじゃないし。
 
「も〜……ラバーカップ、コンビニに売ってないかなあ」
「ないです調べました」
「じゃあ……駅前の西友とか」
「西友……西友!! 24時間営業じゃん!」
 
後にも先にも、クソの詰まったトイレの横で、さっきまで便器の中に突っ込まれていたビニール袋を手にはめた美女と抱き合うことは、この瞬間以外ないだろう。
 
「ねえバカ! うんこつくから!」
「もうここまできたら何でもいいよ。華ちゃんもやろ、うんこ掬い。楽しいよ」
「マジで最低だよ。でもせっかくなんでやります(?)」
「ラバーカップ買うにしても、うんこは拾っちゃった方がいいと思うしね」
 
トイレには大便とパイプユニッシュ的なのの混ざった結構エグめの悪臭が漂っていた。が、狂った状況に私もマドンナも若干ハイになっていた。否、そうしなきゃやっとれんの気持ちはあったと思う。マジで。
ビニール袋を手に装着する。恐る恐る便器に手を突っ込む。もちろん汚水が溢れ出る。
 
初めて人糞を触った。
流石に水の中なので温度は感じないけれど、触覚はある。わ〜やわらけ〜と感動する。型崩れしないよう包み込むように掴む。マドンナが広げて待っていたビニール袋に入れる。
 
「うんこ掬いの才能あるね!」
うれしくねえわバカ!!!!
 
そんなこんなですべてのブツを回収し、何重ものビニール袋に包み、トイレが復活したら流そうと一旦床の端の方に置いた。
 
「あ! スカートについた!」
「布団入る前に絶対脱いでくださいね」
「床拭いてから行く?」
「どうせスポスポやってる時に水飛び散りますし、最後でいいですよ」
「じゃあいっか。お財布とってくるから先靴履いてて〜」
「いや、さすがにうんこついたスカートのままスーパーはまずいですって。着替えましょ」
マドンナ、実は結構汚部屋に住んでる系女子だな????
 
外はまだまだ暗く、静まりかえっていた。先程までの大騒ぎとの対比でむず痒いような気持ちになる。マドンナもそうだったのだろう。「なんかドキドキするね」とだけ言って、その後は西友に着くまで一言も話さなかった。
帰り道は、二人でビニール袋を半分こして持った。中身はラバーカップだ。微塵も重くない。なんなら聖火ランナーみたく掲げて走ったっていい。本来私はそういうふざけ方をするタイプだ。
でも、できなかった。今さらカッコつける必要がないことは分かっているが、ここでいつものお調子者を出したら、せっかく打ち解けた関係性がなかったことになりそうだから。
 
「詰まり解消できた方がアイス奢るっていうのは?」
「え、また外出るんですか?」
「今日じゃないよ。次、大学で会った時〜」
 
ああ、相手が期待するようなことをサラッと言うんだから。
私のズボンは彼女にはやや長く、裾を折っていたのだが落ちてきて、地面に擦ってしまっている。
あ〜かわいいなと、しみじみ思う。この時の可愛いは、顔のことなんかじゃない。
 
 
ラバーカップを武器に詰まりと格闘。最中クソ入り袋をマドンナが踏んだり、私の顔面に汚水が跳ねたりと、それは散々な泥試合だったわけだが、無事我々は勝利を納めた。
風呂に入り軽く仮眠しただけで、始発でマドンナは帰っていった。「またね」と言った時には昨晩の出来事がすべて夢のような気がしたし、事実マドンナの私に対する対応は「1度だけ飲みに行った子」に戻っていた。早朝だし、当たり前かもしれないが。
 
ちょっぴり凹んでいたのも束の間、大学でマドンナに会った。彼女はあの日飲み会に参加していた面々に囲まれていた。
「お〜庄司! また飲もうね〜」
友人の一人が私に言う。もちろんと私は返す。
 
「その前にアイス奢らなきゃだね! いつ空いてる?」
 
マ、マドンナ〜〜〜〜〜〜〜〜(感涙)。
以降、卒業まで私たちはアイス友達になったわけだが、大学の友人は誰もその理由を知らない。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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