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人生最大の失恋を救ったのは、宮迫博之との思い出だった


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記事:K子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
新横浜発、新大阪行きの東海道新幹線の中。
私はスマホでLINEの画面を開いたまま、呆然としていた。
 
『あやかちゃんの結婚式、楽しみやね。K子も、参考になるかもよ!』
 
笑顔で送ったことが容易に想像できるそのメッセージは、母からだった。
返信が思いつかず、ため息が漏れた。
 
幼馴染の結婚式に出席するため、久々に地元へ帰省することになった。
しかし、数日前まで心から楽しみにしていたその式は、一転して世界で1番憂鬱なイベントになってしまった。
新幹線に乗る前日。よりによって私の28歳の誕生日に、私は結婚するつもりだった彼氏に別れを告げられたのだった。
人生最大の失恋の直後に、他人の幸せを祝える気力は無かった。
 
9歳上の彼氏とは、2年近く付き合っていた。
某温泉映画で古代ローマ人を演じた俳優に似た人だった。
彼が会社の寮を退去するのをきっかけに、一緒に住もうと言われた。
プロポーズされたと勘違いし舞い上がった私は、東京に遊びに来た母と姉に彼を紹介していた。もちろん、「結婚する予定の彼氏」として。
娘の婚期を心配する母も、同じく舞い上がっていた。
まさかその彼から、「K子ちゃんのことは好きだから一緒にいたい。でも、結婚や子供を持つことは望んでいない」なんて衝撃発言を受けることになろうとは、私だって予想していなかった。
 
『K子も、参考になるかもよ!』
母のその言葉には、私が間もなく結婚式をあげることへの確信に似た期待が込められていた。
 
どうしよう。なんて返そう。
会って母の顔を見たら、彼と別れたなんて絶対に言えないと思った。だからこそ、前もってLINEで伝えておきたかった。
小田原、静岡、名古屋、そして京都。
停車駅を告げるアナウンスに、焦りだけが増した。
 
ついに、終点の新大阪を告げるお決まりのメロディが鳴った。
続々とホームに降りていく乗客に続いて、私も重い腰を上げた。
 
最寄り駅で待つ母に到着時間を連絡する必要があった。
路線検索をし、最短ルートの画面をスクリーンショットした。
そしてその画像に続けて、一言、送った。
 
『ごめん、この前会ってもらった彼とは別れました』
 
メッセージは、すぐに既読になった。
そして、大きく親指をたてたキャラクターのスタンプが返ってきた。
スタンプの右上には『了解!』の文字。
到着時間への返事なのか、破局報告への返事なのか分からなかった。
 
新大阪から最寄り駅までの45分間は、まるで処刑台に送られる死刑囚のような気持ちだった。
最寄り駅に降り立つと、ロータリーに母の車が見えた。
いつもは車内で待つ母が、その日は外で駅から出てくる私に手を振っていた。
 
私は無言で車内に乗り込んだ。
あとから乗り込んで運転席でシートベルトを締める母と、バックミラー越しに目があった。
 
「おつかれさんやったねえ」
それは長時間の移動に対しての労いとも取れたし、失恋に対しての慰めとも取れた。
いつもの優しい母の声だった。
 
一人暮らしする横浜のアパートを出てからおよそ4時間。
ずっと堪えてきた涙の堤防は、母の声であっけなく崩壊してしまった。
目から鼻から喉から、感情が一斉にあふれてきた。
「ごめん。期待させて」
嗚咽の中ようやく絞り出せた日本語は、「悲しい」でも「むかつく」でもなく、母の期待を裏切ってしまったことへの謝罪だった。
後部座席の窓にもたれながら、これでもかと泣いた。
 
しばらくして赤信号で車が止まった。
すると、母がゆっくりと話し始めた。
 
「お母さん、昔、宮迫博之に似た人と付き合っててんけどな」
 
私はその人の存在をぼんやりと知っていた。
母が昔から、テレビにお笑い芸人の宮迫博之(元、雨上がり決死隊)が映るたびに「うわー昔付き合ってた人にほんま似てるわ!」と笑い転げていたからだ。
 
「宮迫(元彼)とは長く付き合ってたんよ。3年くらいやったかな」
いやいや、もう宮迫って呼んでもうてるやん。本名じゃないやん。
私は心の中でいつも通りそうツッコんだが、しゃくり上げて泣くせいで上手く声が出なかった。
 
しかし、その先はいつもとは違う話だった。
 
「お母さんが学校卒業して働き出した頃に、宮迫が東京に転勤になってな。宮迫とは結婚するつもりやったから当然『ついてきて』って言われると思っててん」
 
宮迫のことを話す、いつもの母の声ではなかった。
細くて、静かな声だった。
 
「でも、何も言ってくれんかったの。周りの友達は次々結婚していくのに。すごい焦ったし、落ち込んだよ」
 
私は知らなかった。
お見合いで父と出会い、すぐにプロポーズされ、昭和を代表するような王道を歩んで専業主婦になった母にそんな過去があったなんて。
 
「結局自然消滅ってやつで、知らん間に連絡途絶えてさあ。そのあとはヤケクソ。お見合いしまくって、お見合い相手に宮迫のこと泣きながら愚痴ったわ」
 
お見合い相手に元彼の愚痴をこぼすのは、あまりにも仲人泣かせすぎるだろう。
その破天荒な行動を取った、当時の母の追い込まれっぷりが目に浮かんだ。
 
「でもな」
母が運転席から振り返った。
 
「そんなキチガイに惚れてくれたのが、K子のお父さん」
 
そう言って幸せそうな顔をする母は、すっかりいつものお気楽な様子に戻っていた。
気づくと、私の涙と鼻水は止まり始めていた。
 
「結局ノロケ話やん」
そして私のツッコミも、いつもの切れ味を取り戻した。
 
 
母は遠くの昔にしまい込んだ古傷をさらけ出して、私に教えてくれたのだ。
どんなに幸せそうに見える人にも、ひとつやふたつの辛い過去があることを。
そしてどんなに辛い過去も、いつかは笑顔で話せる日がくることを。
 
翌日、私は少し赤みの残った目をメイクで隠し、ウエディングドレスに身を包む幼馴染に精一杯の祝福を送った。
 
 
 
春は出会いと別れの季節だ。
あなたの身近にも、大切な誰かとの別れに直面し涙している人はいないだろうか。
 
その人の心を癒やすのは「大丈夫?」や「辛かったね」の言葉ではなく、あなたの辛い過去の経験かもしれない。
 
古傷をさらけ出すのは、少し勇気がいる。
遠い過去の出来事でも、思い出すと胸はちくりと痛むものだ。
しかしその話をする元気なあなたの姿こそが、悲しみのど真ん中にいるその人にとって未来を照らす「地図」になる。
あなたの勇気が、人は悲しみから必ず立ち直れるということを教えてくれるのだ。
 
私は大失恋から2年後、今の夫と結婚し、2人の愛しい娘を授かった。
彼女たちにもいつか、恋に敗れ涙を流す日が来るかもしれない。
そのときは、少し勇気を出して古傷のかさぶたを剥がし、話したいと思う。
 
「ママ、昔、北村一輝に似た人と付き合っててんけどな」
 
 
 
 
***
 
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2024-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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