メディアグランプリ

大切な関係に枠なんて必要なかった


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記事:尾崎コスモス(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「どんな関係なの?」
そう聞かれると困る。
家族でもない、友達でもない、仲間でもない。
いったい、どこの枠に当てはめたら良いのか、開目見当が付かない。
でも、誰よりも大切な人だ。
誰よりも失いたくないのに、その人との関係性をハッキリ言えない。
モヤモヤした気持ちのまま、その人との関係性は終わってしまった。
 
結婚をした。24の時だ。彼女は21歳。
彼女が高校1年生の頃から付き合っていたが、私の家庭環境が複雑であり、帰る家がないと知るやいなや、彼女の両親から同棲を勧められた。
私の家庭は、実父が浮気性なのが災いして、定住することが難しい生活をしていた。
父の相手が変わるたび、その女性の家に転がり込んだ。
そのため、私は高校に入ると同時に、家に帰る頻度が減っていた。帰りたくなかったのだ。
その気持ちを察して、彼女の両親は、同棲を進めてきたのだろうが、年頃の娘を持った両親は、こんなことを進めてきたりしない。
付き合って5年になったある日、彼女の両親から「もらってやってくれ」と言われた。
なんとなく、うなずいていた。
行くところがなかった私を、拾ってもらった恩義のようなものを感じていたからだ。
彼女の両親は少し変わっていたが、彼女はいたって普通だった。
性格は多少、キツイところがあったが、料理もうまく、お互いになんでも話すことができた。
しかし、ファッションに興味が無く、美容室にもほとんど行かず、部屋の片付けが苦手だった。
私が求める『女性らしさ』が欠けていたため、男女の関係にはならなかった。
そんなことはつゆ知らず、彼女の両親は結婚話を進めてきた。しかし結婚してからも、肉体関係は無いままだった。
 
結婚の条件として、『体の相性』を上げる人も多くいるらしい。女性誌などでは、定期的に『セックス特集』が組まれているのを目にする。
女性にとっても、夜の営みは重要な事柄であると思うし、それが原因で別れたカップルも私の周囲にも存在していた。
「体の相性が悪いと浮気しちゃうかも」
と言ってのける女友達もいた。
体のつながりは、心のつながりという大学の研究者もいる。体と心は、密接に繋がっているらしい。
しかし私には、そうした大学の研究結果が、本当のことだとは俄かに信じられなかった。その理由は、体のつながりなどなくとも、唯一無二の関係性を築くことができたからである。
女性誌の特集記事を見ていても、ごく少数ではあるが、『体のつながりのないカップル』という関係も存在しているようだった。
私たちは、そんな関係に区分されると、心の中で勝手に思っていた。
彼女に、『女性らしさ』が無かったため、関係を持つような雰囲気にすら、ならなかったものの、それ以外は最高の相手だった。
何よりも良かったのは、『なんでも話せるところ』だった。
家族にも、友人にも、仕事仲間にも話せないことを、なんでも話すことができた。お互いに話していたため、彼女の話もよく聞いた。
言いにくいことは何もなく、過去から現在に至るまで、何もかもを話し、お互いに知らないことは、ほとんど無かった。
実際に生活してみると、これほどまで強いメリットは他には無いと確信した。体で慰め合うことは、月日と共に情熱が薄れていくことが多い。友人カップルも、同棲して3ヶ月もしたら、セックスレスになっていた。
「なんだ、結局、俺らと一緒なんじゃないか」
と呆れたものである。
 
仕事から帰宅すると、お互いに話すことが山ほどあった。
片方が落ち込んだ時には、片方は聞き役に専念した。
片方が悩んでいる時には、何か打開策はないかと、仕事中にも考えて、帰ってから話し合った。
記念日には花束に加え、お互いが好きなものを知り尽くしていたため、確実に相手が喜ぶプレゼントを贈りあうことが当たり前だった。
誕生日には好きな料理を作って待っていてくれた。
時にはサプライズをして、笑顔で泣かせたこともあった。
こんな関係が、永遠に続くと思っていた。
そんなある日、私の両親から「孫の顔が見たい」と言われた。
 
私と彼女は、夫婦でありながら、男女ではない。そんなことは、忘れていた。
幸せだったからだ。
夜の営みなんて無くても良かったし、何なら無かったことが2人の関係性をよくしていたのだと思う。
しかし、その時の私は『枠』というものに、こだわってしまった。
私たちは、『家族』なのか『友人』なのか『仲間』なのか。
どんな枠にも当てはまらない気がするし、どの枠にも当てはまる気もする。
すると急に、接し方がわからなくなってしまった。
今まで、あれほどまで楽しかった、居心地の良かった日々が、嘘のように。
波長が合わなくなったことを察した私たちは、どちらからと言うわけでもなく、離れることを選択した。
それ以来、1度も会っていない。
 
今だから言える。
私たちは『枠』なんかに、こだわっていなかった。
『枠』がはっきりしないと、付き合い方がわからないと思いがちだが、『枠』はお互いで築いていくものだ。その点でも、彼女とは最高の関係だったのだ。
なんでも話して、そんなことお互いでわかっていたはずなのに、小さな枠にこだわってしまった。
別れてから2年後、彼女の再婚を知った。
幸せになってほしい。心からそう思えた。
 
 
 
 
***
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2024-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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