メディアグランプリ

劣等感のかたまりだった主婦がMBAを生き抜いた話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事: 栗原知美(ライティング・ゼミ6月コース)

受験の合格発表の瞬間。
志望校のホームページにアクセスして、ドキドキしながらマウスをクリックする。スクリーンを薄目でちらっと見てみる。「合格」の2文字に心がおどる。やった! わたしが最後にこんな気持ちになったのは、けっこう最近で、社会人が通う大学院を受験したときだ。

受験の1年前、ワンオペ育児中だったわたしは、仕事と私生活のバランスが取れなくなってしまい、リストラ勧告を受けた。

「次に働くときは、出産や病気などで自分がどんな不安定な状況に陥ったとしても会社から強く求められる人材になる」と、心に決めて退職した。そのために、大学院で勉強して税理士になると決めたのだった。

わたしの入学を認めてくれた学校は都内にあるMBAだ。所定の単位を取って論文を納めれば、税理士の試験免除と経営学修士を取得することができる。

合格の知らせをもらって喜んだのも束の間。
育児と勉強で、社会人生活からしばらく遠のいていたわたしは、MBAに来るような意欲と能力のある同級生についていけるかどうか、入学前から不安でいっぱいだった。

案の定、最初の学期は散々だった。
当初から無職の主婦ということに劣等感を持っていたわたしは、周囲の人にガッカリされないように、課題について念入りに調べて回答を用意するものの、所詮は付け焼き刃の知識。ネットや本を漁って他人から借りてきた学術用語をその場しのぎで使っても、うまく活用できるわけがない。授業の発表も自分らしさのない、つまらないものになってしまう。それに焦って、また新しい情報を探し出すけど、評価はいつもイマイチ。何かがずっと空回りしていた。

前期の授業が終わる頃になると、最初から少なかった自信はガス欠状態。授業に出るのが苦痛に感じるほどだった。

そんな自分を変えるきっかけを作ってくれたのは、ある授業で一緒になった大学院の同期だ。名前を原さんという。後期に始まった法律の授業で一緒になった。

わたしたちが履修した国際租税法というクラスは、かなり専門的な内容となるため、原さんのように税理士を目指していない人は、ふつう受講しない。担当する教授も当初、少し戸惑っていたように見えた。

しかし、その心配は杞憂だった。原さんは、自分が気になったことは授業中に必ず質問をする。自分の意見を臆せず述べる彼を見て、最初こそ心配していた教授も次第に彼の意見を積極的に訊ねるようになった。

そんな原さんを尊敬の眼差しで見ていたわたしは、自分は勇気がなくて授業で発言するのが怖いと感じてしまうと愚痴をこぼしたことがあった。そのとき、彼はこんなことを話してくれた。
「自分だけで疑問を解決してしまうと、答えを独り占めすることになるでしょ。だから僕は、理解のために必要だと思った質問は時間のゆるす限り、みんなの前でするようにしているよ」

彼は、物事を多面的に考えることができる人だ。
たしかに法律の知識は周りと比べて少ないかもしれないが、自分が他の人と違うからこそ貢献できる面がある、と現状をポジティブに捉えることができる。また、学びの場において授業の内容の全てを理解しておく必要はないし、まずそんなことは不可能であることをよく理解していた。

自分が知識を吸収していく過程で、他の学生の学びにつながるような「価値」を提供する。学びを仲間と共に深めていくことを大切にする姿勢は、わたしが今まで持っていなかったものだった。

原さんのことばを聞いてから、大学院でのふるまいについて考えるようになった。
わたしは大学院を「学びの場」でなく、「自分をよく見せる場」として捉えていたのではないだろうか。わからない、知らない、できない自分を隠すため だけに予習をする。授業中も、最後に気の利いた質問をすることで頭がいっぱいで、目の前で教授や学生が話していることに集中できていなかった。

わたしが大学院の門を叩いた理由は、また社会に復帰した時のために自分の武器となるような知識を身につけることだったはずだ。それなのに、大学院で「デキる自分」を見せることにばかりを気にしていた。いつのまにか目指すものがすり替わっていたことに、原さんと話すまで気づくことができなかった。本来の目的に立ち返って、態度を改めてみようと心に決めた。

後期の授業は背伸びをせずに、等身大の自分で授業を受けるように意識した。すると、発表内容に対する教授や学生の反応が良くなった。

その変化に勇気付けられたわたしは、自分ができないことや知らないことを隠すのをやめた。無知が原因で授業中に恥ずかしい思いをすることもあったけど、そういう状況で覚えた知識は忘却せず、頭に残ってくれる。

卒業する頃には、自分を偽らずに目の前の問題に真剣に取り組めるようになった。そうすると、新しい知識や考えと出会うのが楽しくなった。楽しいと予習や発表がうまくいき、成績も上がる。学びの良い循環が出来上がった。原さんのことばは、わたしの学生生活を大きく変えてくれた。

卒業式で彼に感謝を伝えたら、
「僕、そんなこと言いましたっけ」と、笑っていた。

それからというもの、家族や友人の何気ない会話を尊く感じるようになった。誰かの何気ない一言によって、これまでに想像していなかった素敵な変化が起こることを知ったからだ。

***

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2024-07-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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