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真冬・深夜の北海道、事故で車が大破したあとに起こった信じられない奇跡


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記事:北村 有(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
今から約4年前。
深夜2時に真冬の北海道で、猛吹雪のなか事故を起こして車を大破させた。
忘れもしない、年が明けたばかりの1月。新年を祝って友人たちと札幌で食事をした帰り道だった。真っ暗ななかの暴風雪、ここで滑って事故ったら最悪だなと心中で慮りながらまんまと滑った。くるっと。一回転だ。気づいたらボンネットが垂れ下がっていた。何が起こったのか、しばし呆然とした。
事故を起こした時の焦り、絶望、むなしさ、これは、経験した人にしかわからない何ともいえない感情だろう。
 
保険会社へ連絡し、レッカー車を待つばかりの車内で、カーラジオは生きていたので寂しさを紛らわすためにすがりつくように聞いていた。
ここで私は気づいたのだ。
レッカー車にこの事故車を持っていかれたら、私はどうやって自宅まで帰ればいいのか?
深夜。暴風雪。車1台通らない田舎。もちろんタクシーもない。
徒歩でたどり着くには少々厳しい。帰り着くまでにお陀仏になりそうな気がする。
 
もくもくとレッカー車を待つなかで、私は静かに覚悟を決めていた。
駄目元でタクシーを呼んでみよう。来てくれるかはわからないけれど試すだけ試そう。本気で駄目だったら、それはそれで、その時だ!
 
ひとり静かに覚悟を決めた時、後ろから車が1台やってきた。
徐行してくる。確実にこの車を見ている。
誰だ。もしかして知り合い? いや違う。こんな時間に出歩く友人や知り合いは私にはいない。誰だ。若い女だとおもって近寄ってくる悪漢だったらどうしよう。
 
少し手前でその車は止まった。
暴風雪のなか、1人の男性が降りてきた。
見た目は普通だ。雪と風であおられ、顔をしかめてはいるが、30代くらいの紳士そうな人だ。大丈夫そう? いや待って、こういう何の問題もなさそうな人ほどヤバかったりする。近づいてくる。窓ノックしてる。なんか喋ってる。窓開けろってこと? 勘弁してくれ。
 
南無三! と念じながら窓を開けた。
「大丈夫ですか!?」
問われるままに、私はなんとか「大丈夫そうです……」と返事をした。
「この車ね、ここにこのままだったら危ない! 発煙筒持ってる?」
「発煙筒? いえ……」
「僕の余ってたかな、あったら持ってくるから、降りてたほうがいいよ、追突されたら危ないから!」
そう言って、彼は自身の車に余った発煙筒を探しにいった。
追突されるという発想はなかったので、そんなこともあるのかと、黙って言うとおりにした。荒れる風雪のなか出ていくのは避けたかったが、追突死されたくはない。
降りてみてから、はたと気づいた。
あんなこと言って、私を車から降ろす作戦では!?
まんまと車から出てきた私を自分の車に連れ込んで乱暴をはたらく気では!?
ふと見ると、男性はまだ一心不乱に発煙筒を探している。
 
「あった!」
そう叫ぶや否や、私になど目もくれず、発煙筒をしばらく車後方で振りかざし、道路に器用に置いて戻ってきた。
「大丈夫ですか? 派手にやっちゃいましたね」
「はあ、すみません、わざわざ」
「いえいえ。発煙筒こする時ちょっと親指やっちゃった」
てへ! と音がしそうな笑顔でそう言ったあと、彼はその場を去って自身の車に乗り込もうとした。
あれ?
本当にただの良い人か?
そう早合点し、安心しかけた時、おもむろにその男性は振り返ってこう言った。
「あ、そうだ! レッカー来たら足ないでしょ、帰りどうするの?」
待てよ、この人わたしを家まで送っていくつもりか?
こんな時間にこんなところを通るなんて普通じゃないし、いよいよ怪しくないか?
親切に送っていくふりをしつつ車内で乱暴をはたらく気では?
明日の朝刊に載るハメになるのでは?
しかし、ここで懸念しすぎて断ったとしても、帰る足に困るのは事実だ。
どうする。どう返答すべきだ。どうする、どうする……!
 
「タクシー呼んでも来ないと思うよ、この時間にこの辺じゃあねえ……。良かったら送っていくから乗っていきな!」
「はあ」
 
結果、私は寒さに負けた。
寒すぎて寒すぎて、思考力や判断力まで凍り付いていた。
多少暖かくなるのなら何をされてもいいとまで思った。それくらい寒かったのだ。
 
とんでもないことになった。
事故った上に、どこの馬の骨とも知らない男と密室で2人っきりだ。
何をされても言い訳できない。のこのこ乗り込んだ私にも非がある。
もう、なるようになれ……と半ば諦めた。
 
結果、その男性は最初から最後まで、ただの良い人であった。
真冬・深夜の北海道、暴風雪のなか事故を起こし車が大破するという絶望的な状況で、一銭もかけずに自宅に帰り着くことが出来た奇跡。
その男性があまりにも紳士すぎて、むしろわたしの方から連絡先を聞き出して後日、お茶に誘ったというのはまた、別の話である。
 
 
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2018-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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